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便利屋 紫雲

はい。こちら、便利屋紫雲かぎりです

男の声

やぁ!どうも初めまして

便利屋 紫雲

……ご依頼でしょうか?

男の声

そうそう!依頼だよ依頼!

男の声

不用品をさ、回収して欲しいんだよ

便利屋 紫雲

回収する物はなんですか?

男の声

キャリーケースだよ

便利屋 紫雲

一個ですか?

男の声

ああ?

男の声

一個…いや…

───ゴッ!!

女の声

あ゙あ゙っ

便利屋 紫雲

……

男の声

悪い悪い

男の声

全部で二個だな

男の声

頼めるか?

便利屋 紫雲

お金さえ支払って頂ければ

男の声

金のことは心配すんな!

男の声

幾らでも払ってやる!

男の声

じゃ、”なるはや”で頼むよ!

便利屋 紫雲

……はい

紫雲 かぎり

(なんだ…今の電話は…)

それは今までにないことだった。

紫雲 かぎり

(いつもなら”便利屋ベース”を介して依頼が来る)

紫雲 かぎり

(最初はメール)

紫雲 かぎり

(その後、俺の方からメールか電話…)

紫雲 かぎり

(直接会って話しを聞く)

紫雲 かぎり

(それなのに……)

紫雲 かぎり

(いきなり電話……)

紫雲 かぎり

(誰かからの紹介か…)

紫雲 かぎり

(いや、それ以上に気になるのが)

紫雲 かぎり

(通話中に聞こえた女性の声と)

紫雲 かぎり

(ハイテンションな依頼人)

紫雲 かぎり

……

紫雲 かぎり

(憶測を巡らせても意味は無い)

紫雲 かぎり

(とりあえず、行くか)

依頼人から指定された場所は、

別荘地の一角に建つ

立派な屋敷だった。

駐車場には高級車が一台。

チャイムを鳴らすと、

カメラ付きインターホンから

声が聞こえた。

男の声

誰だ?

紫雲 かぎり

便利屋の紫雲かぎりです

紫雲 かぎり

依頼主の”佐藤太郎”様のお宅で間違いありませんか?

男の声

……おお!

男の声

思ったより早かったな

男の声

あ~…

男の声

悪いが裏口から入ってくれ

紫雲 かぎり

かしこまりました

言われるがまま屋敷の裏に回ると、

一人の男性がドアを開けて顔を覗かせていた。

”佐藤 太郎”

さすがは”芝田”の便利屋だ

紫雲 かぎり

シバタ?

紫雲 かぎり

その方がワタシの紹介を?

”佐藤 太郎”

まぁそんなもんだ

”佐藤 太郎”

ほら、さっさと入れ

屋敷の中に入ってすぐ

紫雲は異臭に気が付く。

紫雲 かぎり

(濃い血の匂いと)

紫雲 かぎり

(この何とも言えない甘い匂い)

脳裏を過るのは、

豊潤を愛でる会の

”狂宴”

だが、

屋敷には目の前にいる

佐藤の姿しかなかった。

”佐藤 太郎”

処分して欲しいのは

”佐藤 太郎”

この二つのキャリーケースだ

佐藤はお酒の入ったグラスを片手に

広い居間に置かれた

二つの大きなキャリーケースを叩く。

”人を入れる”には

充分な大きさがあった。

紫雲は、

そのキャリーケースから垂れる血と

床に広がる血の海、

そして、

返り血を浴びている佐藤を見る。

目の焦点が合わず、

瞳孔が開きっぱなしだ。

紫雲 かぎり

(あまりにもあからさまだ)

紫雲 かぎり

(わざと血を残している、というより)

紫雲 かぎり

(薬物の副反応で正常な判断が出来ない状態なのだろう)

紫雲 かぎり

(そうでなければ)

紫雲 かぎり

(こんな姿を第三者に晒すわけが無い)

”佐藤 太郎”

おい、なんだよ

”佐藤 太郎”

突然黙り込んで

紫雲 かぎり

いえ……

紫雲 かぎり

中身のことを考えれば

紫雲 かぎり

一般人が持ち込む処分場には運べないな

紫雲 かぎり

と思いまして

”佐藤 太郎”

……

”佐藤 太郎”

じゃ、オレらの処分場を……

”佐藤 太郎”

ああ、ダメだ

”佐藤 太郎”

んなことしたら

”佐藤 太郎”

オレが薬を持ち出したのがバレる

”佐藤 太郎”

そうだな……

”佐藤 太郎”

おう!そうだ!

”佐藤 太郎”

山に捨てりゃあいい

紫雲 かぎり

!?

”佐藤 太郎”

処分場を買う前まで使ってたあの場所なら

”佐藤 太郎”

バレないだろ

佐藤はグラスをテーブルの上に置き

血に濡れたままの手で

スマホを操作し

画面を見せてきた。

それは県境付近の地図だった。

”佐藤 太郎”

この赤いピンが刺さってるとこ

”佐藤 太郎”

この辺りに深い崖があってな

”佐藤 太郎”

そこに捨ててきてくれ

紫雲 かぎり

…本当に安全な場所なんですか?

”佐藤 太郎”

大丈夫大丈夫!!

”佐藤 太郎”

オレが下っ端だったころ

”佐藤 太郎”

よくこっから”使用済み”を捨ててたんだ

”佐藤 太郎”

中には生きてるヤツもいてよぉ

”佐藤 太郎”

”たすけて”って言いながら

”佐藤 太郎”

落ちてったが

”佐藤 太郎”

オレはまだ捕まっちゃいない

佐藤は両手を大きく広げ、

自慢げな表情を浮かべた。

”佐藤 太郎”

ってことだから

”佐藤 太郎”

あとは頼むぜ!

紫雲 かぎり

ちなみに報酬は?

”佐藤 太郎”

…チッ、抜かりねぇな

”佐藤 太郎”

ちょっとそこで待ってろ

佐藤は悪態を吐き、

紫雲に背を向けて

居間を出ていく。

紫雲 かぎり

(随分とまぁ不用心な)

紫雲はポケットから取り出した薬を、

テーブルに置かれたグラスに入れる。

マドラーでかき混ぜながら、

かたわらに置かれたスマホを手にし、

操作する。

足音が戻って来るのを察して、

素早く全てを元に戻した。

”佐藤 太郎”

これだけありゃ充分だろ?

そう言いながら現れた佐藤の手には

札束が一つ握り締められていた。

紫雲 かぎり

ありがとうございます

紫雲 かぎり

では、”不用品を処分”してきますね

紫雲は作り笑顔を浮かべて

札束を受け取った。

車に戻り、

指定された場所付近に

監視カメラが無いか確認する。

紫雲 かぎり

(旧道…)

紫雲 かぎり

(加えて数年前の大雨で一部の山が崩れ)

紫雲 かぎり

(通り抜け出来なくなっている)

紫雲 かぎり

(付近に民家も無いし)

紫雲 かぎり

(”不用品”を捨てるにはうってつけの場所ってわけか…)

紫雲 かぎり

(シバタの紹介だと言っていたが本当だろうか?)

紫雲 かぎり

(”狂宴”で出た死者は処分チームに任せるのが会のルールだ)

紫雲 かぎり

(薬を勝手に持ち出したり)

紫雲 かぎり

(処分チームを介さないところを見ると)

紫雲 かぎり

(これは一種の”事故”なのかもしれない)

紫雲 かぎり

(巻き込まれた方はたまったもんじゃないが)

紫雲 かぎり

……はぁ…

重いため息をこぼし、

パソコンの画面に目をむける。

そこには”佐藤太郎”の顔が映っていた。

スマホのインカメラの映像だ。

”佐藤”は一人で喋りながら酒を飲んでいる。

睡眠薬を入れた酒を。

紫雲 かぎり

(いや、プラスに考えろ)

紫雲 かぎり

(今まで被害者がどこに運ばれたのかわからなかった)

紫雲 かぎり

(このイレギュラーは)

紫雲 かぎり

(きっと、いい方向に導いてくれるはずだ)

そう思ってエンジンをかけると、

目的地へと車を走らせた。

崖を見下ろしても、

鬱蒼と茂る木々が見えるだけで

底がどうなっているのかまでは

わからなかった。

ただ一つ言えることがあるとすれば、

それは

ここに捨てられた死体は

余程のことが無い限り

見つかることはないだろう、

ということだ。

紫雲 かぎり

(だから)

紫雲 かぎり

(ここに捨てられてきた)

車のトランクを開け、

二つのキャリーケースを下ろす。

紫雲 かぎり

(今はまだ”その時”じゃない)

紫雲 かぎり

(でも、必ず君たちの無念も晴らすから)

紫雲 かぎり

(…待ってて…)

崖から落とされた二つのキャリーケースは

太い木の根元に引っ掛かり

崖の上からでもよく見えた。

紫雲 かぎり

あとは……

紫雲は来た道を戻り、

”佐藤太郎”の家をもう一度訪れた。

今度はインターフォンを鳴らさず、

そのまま裏口に向かい

そっと家の中に入った。

”佐藤”は居間の床にうつ伏せの状態で

よく寝ているようだった。

紫雲 かぎり

(彼女たちの死を)

紫雲 かぎり

(無駄にするわけにはいかない……)

紫雲は”佐藤”のスマホを手に取り、

その中のデータを全て

手持ちのパソコンの中にコピーした。

『不用品の処分』 END

便利屋・紫雲かぎり〜サクリファイスの花〜

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