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やばい好きだわ
植剣雪頼(ミツルギ ユウラ)が俺の誘いを断らないことを
もちろん俺は知っている。
俺たちが初めて出会ったのは
10年前
中学生の時だ。
思い返してみても
同い年のガキの集団の中で
ゆうらの存在は異質だった。
空間が切り取られたのかと思うほど
彼女の周りの空気だけが
きらきらと煌めいて見えた。
ゆうらを初めて見つけたあの日から
俺の心の中には
彼女が住み着いている。
久我 杞円
と、呼びかけると
彼女はいつも緊張した表情で振り向いて
俺の目を見てから
ふわっと笑う。
蕾が開くように。
俺はその一瞬が
好きで好きでたまらない。
一瞬が永遠にも感じるほどに
愛おしい。
久我 杞円
久我 杞円
俺が尋ねると
ゆうらはしばらく視線をさまよわせて
小首を傾げた。
答える言葉を探すときのゆうらのクセだ。
さまよう視線の先にいる誰かさんの影に
俺はやきもちを隠せない。
でも
植剣 雪頼
一言でもその声を聞いてしまえば
嫉妬はもろく崩れてしまう。
植剣 雪頼
植剣 雪頼
俺が欲しかった答えとは違ったが
それでも可愛いと思ってしまうのは
惚れた弱味と言えなくもない。
早帰りデー
ノー残業デー
プレミアムフライデー
課長が追い立てるように、フロアの明かりを消した。
俺はスマホをいじる振りをしてゆうらを待つ。
伏せた視線の端をゆうらのスカートが通り過ぎ
心の中で10秒数えてから
彼女の後を追った。
久我 杞円
たまたま気付いたテイの演出だが
タイミングはばっちりだ。
久我 杞円
久我 杞円
植剣 雪頼
植剣 雪頼
久我 杞円
久我 杞円
久我 杞円
俺の誘いをゆうらが断らないことを
もちろん
俺は知っている。
待ち合わせは商店街のこもれび広場
俺はまだ残ってるやつらに声をかけてくるから
ゆうらは先に行って待ってて。
久我 杞円
課長
課長
そう言ったのは課長だった。
職場のカレンダーに赤ペンで堂々とハートマークを書き込んでも
ゆうらは気付かない。
今日は朝からみんな浮き足立ってただろ。
早帰りデー?
ノー残業デー?
プレミアムフライデー?
答えは全部NO!だ。
12月25日、金曜日。
週末の明日は仕事も休み。
だとしたら
やることはひとつに決まっている。
例えば俺がゆうらに
好きだと告白したとしよう。
ゆうらもきっと
俺のことを好きだと言うに決まっている。
だが
ゆうらの好きはLIKEであってLOVEではない。
ゆうらが俺の誘いを断らないのもそのためだ。
認めたくはないが認めよう。
ゆうらは俺のことを異性として認識していない。
もっと言えば、彼女は俺のことを
保護者か何かだと思っているフシがある。
課長
課長に言われるまでもなく
痛感しているのは俺だ。
こもれび広場には
雪をイメージした白いクリスマスツリーに
青い電飾がきらめいていた。
決して多くはない通行人の大半が
幸せオーラ全開のカップルたちだ。
そんな中でゆうらだけが一人
ぽつんとベンチに座っていた。
ゆうらをひとりぼっちで待ちぼうけさせるなんて
普段の俺にはできないが
今日は別。
むしろ、狙いはコレ。
真っ白なクリスマスツリーの下で
ラブラブカップルに囲まれて
何も思わない女子がいるだろうか。
久我 杞円
なんて、ふつうに誘っただけじゃ
ゆうらは絶対に気付かない。
課長
課長
万が一
ゆうらからクレームがきたら
発案は課長だと正直に言おう。
手足がかじかんできた頃合いを見計らって
俺は温かい飲み物を買った。
久我 杞円
と、呼びかけると
彼女は緊張した表情で振り向いて
俺の目を見てから花のように笑う。
植剣 雪頼
植剣 雪頼
植剣 雪頼
そんな困った顔ですら愛おしい。
目の縁が少し赤いのは、涙をこらえていたためだろう。
課長の発案とはいえ
ゆうらを泣かせた罪悪感で胸が苦しくなる。
植剣 雪頼
久我 杞円
久我 杞円
植剣 雪頼
久我 杞円
久我 杞円
久我 杞円
ダメだ。涙がでそう。
植剣 雪頼
植剣 雪頼
ゆうらが小さな声で、何かをつぶやいた。
久我 杞円
植剣 雪頼
植剣 雪頼
ゆうらがふわっと笑った。
こんな純粋なゆうらを騙すなんて
俺はなんという罪深いことをしたんだろう。
植剣 雪頼
植剣 雪頼
久我 杞円
久我 杞円
久我 杞円
彼女の冷たい指先を包むように
俺は温かい缶を握らせた。
手の中の缶を見て、ゆうらは拗ねたように頬を膨らませた。
植剣 雪頼
植剣 雪頼
久我 杞円
久我 杞円
植剣 雪頼
植剣 雪頼
植剣 雪頼
久我 杞円
ゆうらは俺を無視して立ち上がると、クリスマスツリーに近づいた。
俺もあわてて後を追う。
植剣 雪頼
植剣 雪頼
植剣 雪頼
そう言うとゆうらは
俺のネクタイをつかんで自分の方へ引き寄せた。
瞬間。
柔らかく触れる、冷たい唇。
ゆうらが甘い吐息でささやいた。
植剣 雪頼
植剣 雪頼