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ピエロと少女

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ピエロと少女

1 - ピエロと少女

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2019年08月10日

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ぼくは『ピエロ』です。人は僕を『嘘吐き』と嘲笑います。そうして笑います。ぼくが笑い損ねれば、ざまあみなさいと笑います。

明日は来てほしくないときみは泣きます。この世界だけあればいい、『嘘』も『本当』も、『わたしの世界』には必要ないと、きみは喚くのです。

穂佳

ピエロさん、いる?

穂佳

おはなしがしたいの

ピエロ

いるよ

ピエロ

どうしたんだい、こんな夜遅くに

穂佳

わたしを殺してくれない

穂佳

わたし、もうこの世にいたくないのよ

ピエロ

それはよくないよ

ピエロ

きみは優しい子だ

ピエロ

ぼくはきみに救われた

穂佳

そんなことないわ

穂佳

やっぱりあなたは嘘吐きね

ピエロ

ぼくはそうやって『生きて』きたんだ

穂佳

『生きて』?

穂佳

自分として生きられないのなら、それは『死んで』いるのと変わらない

ピエロ

そうなのかな

ピエロ

ぼくは『エゴ』で生きていたくない

ピエロ

ぼくは『他人』が嫌いだから

穂佳

かわいそうな人

穂佳

そうやって嘘ばかり吐いていると

穂佳

いつかほんとうにわからなくなるわよ

ピエロ

……ご忠告ありがとう、レディ

ピエロ

代わりに唄を歌いましょう

穂佳

ふふ

一冊のノートがありました。ぼろぼろの表紙に『DIARY』と書かれた、誰かの日記でした。

そこにはぼくがどう生きていくべきか、書かれていました。僕はその通りに笑って、泣いて、怪我をしてきました。人に笑われる。人を笑わない。

すべてぼくはその通りに生きてきました。だからこそ、彼女の存在はイレギュラーなものでした。

彼女はぼくがお惚けるのを非常に嫌いました。だからきみは生きられないのだと罵りました。

ピエロ

穂佳ちゃん?

穂佳

なぁに、ピエロさん

穂佳

昨日のこと怒ってるの?

ピエロ

そんなわけはない

ピエロ

きみの考えはきみの考え。ぼくはそれを尊重するよ

穂佳

……やっぱりわたし、あなたのこと大嫌い

ピエロ

ひどいなあ

穂佳

思っていないのに、どうしてそうやって笑えるの?

穂佳

完璧に出来るのにどうしてわざわざ失敗するの?

穂佳

ねえ、どうして?

ピエロ

ぼくがピエロだからさ

ピエロ

ピエロは泣きながら笑えるんだよ

人は間違っていると言います。『ピエロ』が『人』に恋をするなど頭がいかれていると言います。嘘しか吐けない『ぼく』が、どうして、きみと愛し合えるでしょうか。

これはきっと罰です。嘘を吐き続けるといつか本当になると誰かは言います。でも、ぼくにとっては、それは嘘ではないのです。

どうやったって信じてもらえないはずなのに、ぼくは膝をついて、きみの声を聞きます。きみの息を聞きます。きみの音を聞きます。

ピエロ

月が綺麗だね

穂佳

そうね

穂佳

こんな日はどこかに出かけたいわね

ピエロ

ぼくが連れてってあげるよ

ピエロ

どこがいい?

穂佳

……やっぱりいい

穂佳

あなたがそばにいて、こんな夜みたいに月が一緒に見られたら──それだけでいい

ピエロ

ほんとう?

ピエロ

ぼくは何だってできるよ

穂佳

あなたにはあなたしか出来ないことがある

穂佳

わたしの隣にいて。たまにおどけて、ふざけて、一緒に生きていきたい

ピエロ

いいの? ぼくはピエロなんだ。嘘吐きなんだよ

穂佳

構わない

今日は『ピエロ』ではなく、『ぼく』できみと話そうと思いました。そう思っていたのに、結局ぼくはノートに、エゴに、自分に縛られて、また笑うのでした。

ピエロ

穂佳ちゃん?

でも、いつもの場所に彼女はいませんでした。ぼくは慌てました。その時に気づいたのです。ぼくは彼女のことをなにひとつとして知らないことに。

ピエロ

確か苗字は……

あたりの民家を駆けずり回り、きみの苗字を探しました。でも見つからない。

ピエロ

穂佳ちゃん……

誰も泣かせたくありませんでした。きみがなにか絶望に包まれているのならば、ぼくはきみを慰めてあげたかったのです。

たとえきみが、緩やかな死を求め続けていたとしても。

穂佳

これを飲んだら死ねるかしら

人の視線が怖かった。人の声が怖かった。誰かが自分の背を突き刺して、最低の行為をするのではないかとびくびくしていた。

穂佳

ごめんねピエロさん

あのピエロが嫌い。まるで自分でないみたいに、にこにこと笑うあの『嘘吐き』が大嫌い。

だけど、どうしてだろう? 彼ともう会えないのだと思って、涙が止まらなくなるのだ。誰を思っても涙も出てこないくせに。

穂佳

ごめんねピエロさん──

ピエロ

待って穂佳ちゃん!

穂佳

ピエロさん!?

ピエロ

ここにいた……

ピエロ

何をしようとしているんだ?

穂佳

……死ぬのよ

穂佳

わたしね、いつも思っていたの。この世はひどく不公平なのよ

穂佳

あなたみたいに優しい人が、泣きながら笑わなくちゃ生きていけない

穂佳

そんな世界、もう懲り懲りなのよ!

ピエロ

……確かにそうかもしれない

ピエロ

この世は不条理で、君みたいに泣く人もいる

ピエロ

もしかしたら、君の選択は正しいのかもしれない

穂佳

なら、あなたも一緒に逝きましょう

穂佳

わたし、あなたとなら怖くない

ピエロ

それは出来ない

ピエロ

……今だから言うけど、僕の人生はあるノートによって決められているんだ

穂佳

……だからあなたはピエロなのね?

ピエロ

それでね、そこにはこう書いてあるんだ

ピエロ

『愛しい人を哀しませないように生きなさい』──ってね

ごめんなさい。僕は嘘を吐きました。初めて『DIARY』に逆らいました。

ノートに『愛しい人を哀しませないように生きなさい』とは書いていません

『愛しい人を作るべからず』──そう書いてありました

僕はあなたが好きです。ずっと、ずっとあなたが好きです。

だから僕は、『ピエロ』を止めました。

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