城中が燃えている。
夜だと言うのに 窓の中も外もオレンジに照らされて眩しいほどだ。熱い。
魔術で火を出さなくても充分明るい。 俺はまだ制御が上手く出来ないから、魔術を使う時は火気厳禁!だけど。
……今はそんな事言ってる場合じゃない。
あ。
あの蛇革の腕輪は見覚えがある。 俺が父さんの誕生日にあげたやつだ。仕立て屋のおばちゃんに教えて貰って俺が編んだやつだ。
父さんは肌身離さずこれを身に付けていた。 それが今床に放り出されてる。…凄い嫌な予感がする。
__その腕輪を拾い上げて気づいた。 血で べったりと湿っている。
心臓が口から飛び出してしまいそうだ。 なんとか腕輪から視線を剥がし、更に気付く。
床に点々と血の痕。
怖い。嫌だ。 __体の内側でそんな声が木霊してるのに、俺の足は血の痕を辿っていた。
______男が倒れていた。
剣と魔術の練習で疲れた時でもその背中を見ると肩の力が抜けた、
この世で一番大好きな背中に、銛(もり)が突き立っていた。 オレンジ色に照らされた柄。
それはまるで墓標のようだった。
乳白色のスープに蛇の頭が浮かんでいる。
__どうもこの軍のメンバーは豪胆揃いらしい。
いや普通に悪趣味だ。 蛇の頭部を美味しそうに頬張る向かいの男を見て、俺は眉をひそめた。
よく食べれるよな…。 蛇革産業はこいつらが滅ぼした「国」の主要産業だったと言うのに。
霧我
向かいの男がスープ皿に直に口をつけながら こちらを見る。
鴉
スプーンを握ってみるも食欲など湧かない。 むしろ胃液が逆流しそうだ。
霧我
轟姫
力豪
雅美
霧我
男の口がニタリと横に裂けた。 その歯には蛇の鱗がこびりついている。
鴉
剣と魔術の国、コルティアの王は、今は不在だ。
王と対立する思想を持つ者達の反乱の末、殺害されたのだ。
王族や護衛に携わる人が住む城は燃え、コルティアは一夜にして暴力が物を言う弱肉強食世界と為った。
___国王と、護衛騎士総長の命を奪ったのは、「四聖(しせい)」と呼ばれ、当時4部隊に構成されていた護衛騎士隊の各隊トップであり
現在 俺の前で蛇にフォークを突き刺す、こいつら4人だ。
エレメンツ 四元素 と名を改めた4人が今のコルティアを支配している。
国王思想に寄り添う「国王派」の殲滅。 殺しも厭わない過激派集団。
今日も「国王派」の男を、見せしめと家族の前でなぶり殺した____…
力豪
轟姫
雅美
霧我
4人の視線が一瞬だが確実に俺を撫でた。 俺は唾と胃液を押し返しながら首を振った。
鴉
霧我
雅美
力豪
鴉
轟姫
轟姫
霧我
霧我
鴉
あの4人はきっと、 俺が外部に武器や情報を流している事に気づいてる。
モタモタしてると俺は消される。
鴉
____遠く鐘の音。 就寝の時刻を告げる鐘だ。
鴉
……………遅い。
四元素どもに仕掛けた「盗聴蛇」が帰って来ない。
鴉
俺は舌打ちしながら自室のドアを開け_________
霧我
鴉
自室のドアを開けると 四元素が立っていた。
彼らの手には俺が仕掛けた盗聴蛇____の亡骸。
鴉
力豪
霧我
霧我が廊下の奥の暗がりに首をめぐらせた。 四元素が脇に退き、通路を空ける。
___闇を引きずり、 1人の老人が現れた。
鴉
四元素の頭脳。老いとは無縁の剣術。
俺と同時期にこの軍に入ったにも関わらず、瞬く間にこの軍の頭(かしら)に為った男。
常闇 残夢
トコヤミ ザンム 常闇 残夢
力豪
力豪(りきごう)が重々しく息を吐き出し、 霧我が肩で笑いながら背中の銛(もり)を抜いた。
霧我
轟姫
雅美
鴉
よく見なくても、四元素は全員武器を携えている。 確実に俺を狩る気だ。
このままでは殺される。
鴉
鴉
俺は生きねばならない。
俺は…
ガシャーーン!
力豪
轟姫
右頬を何かが掠める。炎の矢。 轟姫(とどろき)の魔術だ。
立ち止まったら駄目だ。 風切り音。
激痛。
鴉
足首を貫くのは鋭利な手裏剣。 雅美だ。
立ち止まったら駄目だ!
鴉
走れ
走れ。走れ。走れ。
走れ…!
四元素と残夢率いる「侵攻軍」の国民支配は苛烈を極めていた。
大部分の国民の戦意は喪失し、大人しく侵攻軍に服従していたが、 そうでは無い者達もいる。
失われた国王政権を取り戻し、信仰軍討伐を目的とする 「対抗勢力」___
レジスタンス。
イロハ
イロハ
ゴーム
イロハ
レジスタンス総本部にはここ最近、カラスがよく来る。
黒く鋭い嘴(くちばし)がくわえているのは、盗聴蛇に取り付ける専用の盗聴機。
ゴーム
イロハ
ミファエル
イロハ
ゴーム
イロハ
ゴーム
ゴーム
ゴーム
イロハ
ミファエル
ミファエル
鴉
ミファエル
振り向くと満月を背にミファエルが佇んでいた。 彼女の銀髪は、月光を浴びて神秘的な輝きを放っている。
アレン
ミファエル
時々夢を見る。とんでもない悪夢だ。
父さんが殺された日の夢。 忘れたくても忘れられない、 背中に突き立った銛(もり)。
ミファエル
アレン
アレン
アレン
ミファエル
アレン
アレン
ミファエル
背後からアレンに腕を回しながら、ミファエルは小さく呟く。
アレンも特に振り払ったりはせず、ミファエルの手に自身の手を重ね、そっと目を瞑った_____…
ガサッ
アレン
___が 静寂は破られた。
ミファエルが パッと飛び退き、アレンの背にも緊張が走る。
柔らかい草を踏み分け現れたのは____
鴉
黒衣の騎士。 片足を引きずり、顔は苦し気に歪んでいる。
アレン
鴉
鴉
アレン
かくて二者は出会い
後に歴史に刻まれる壮大な「反乱」の幕が上がる。
コメント
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コンテストふぁいとです!!🫶🏻🔥