彼が来なくなってから
どれくらいたっただろう。
新村葵くん
とても、大人しくいつも小説を読んでる子だった。
帰り道が同じと言うこともあり
なにを喋るわけでもなく
少し距離を取りながら歩いていた。
とても不思議な雰囲気を持つ子で
そんな彼を私は好きだった。
一度だけ私は彼と話したことがある。
あれは天気予報が外れて
放課後に雨が降った時のこと
帰り道、雨に濡れながら帰る葵くんがいた
私は無言で彼に傘を傾けた。
葵
雪菜
雪菜
雪菜
葵
葵
葵
言葉が途切れてしまった
何か話さないと
そんなことを考えてると葵くんの方から口を開いた
葵
葵
雪菜
雪菜
雪菜
葵
葵
雪菜
雪菜
葵
葵
葵
雪菜
葵
そう言って葵くんはふふと笑った。
雪菜
雪菜
雪菜
葵
雪菜
私はそう言って葵くんに傘を押し付け
走り去る。
後ろを振り向けば苦笑いして立ってる彼がいるんだろうと思うと
顔が熱くなるのを感じた。
その日を最後に彼が学校に来ることはなかった。
彼はもともと身体が弱く
重い病で病院に入院しているらしいと
みんなが噂していた。
私は来る日も来る日も彼の登校を待ちわびたが
彼が来る気配はなかった。
そんなある日のこと
またもや天気予報が外れ
帰宅中に通り雨が降り注いだ。
雪菜
雪菜
私は家に向かって歩き出す
その時
雨が私から避けていった
葵
雪菜
雪菜
背後には私に傘を傾ける葵くんが立っていた
葵
そう言って微笑む葵くん
雪菜
雪菜
雪菜
葵
葵
雪菜
葵
私達は少しだけ回り道をして
学校の事や友達のこと本のこと植物のこと
色んな話をした。
雪菜
雪菜
雪菜
葵
雪菜
雪菜
そう言うと葵くんは俯いてしまった。
葵
葵
雪菜
葵
雪菜
雪菜
葵
葵くんは寂しそうに笑った
雪菜
葵
葵
雪菜
雪菜
葵
葵
葵
葵
葵
葵くんは傘を下げた。
その時
葵くんの顔が近づいてきて
私はとっさに目を瞑る
唇に柔らかな感触がした
それはコンマ何秒のだったかもしれない
でも、私にはとても長く感じた。
傘の落ちる音で私は目を開ける。
雪菜
そこには葵くんの姿はなく
爛々と咲き誇る彼岸花の上に落ちた
赤い傘があるだけだった
雪菜
次の日学校で知ったのは
昨日、葵くんが病院で亡くなっとたと言うことだった。
昨日の出来事は夢だったのか
現実だったのかはわからない
しかし彼岸花の前での口づけは
とても夢だとは思えない。
私は彼岸花の花言葉を調べてみた。
彼岸花の花言葉は
再会、また会う日を楽しみに
あの口づけが本物なら
また彼に会う日が来るだろう。
その日を楽しみにしている
それが私の初恋でした。