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彼が来なくなってから

どれくらいたっただろう。

新村葵くん

とても、大人しくいつも小説を読んでる子だった。

帰り道が同じと言うこともあり

なにを喋るわけでもなく

少し距離を取りながら歩いていた。

とても不思議な雰囲気を持つ子で

そんな彼を私は好きだった。

一度だけ私は彼と話したことがある。

あれは天気予報が外れて

放課後に雨が降った時のこと

帰り道、雨に濡れながら帰る葵くんがいた

私は無言で彼に傘を傾けた。

大塚さん?

雪菜

びしょ濡れじゃん

雪菜

よかったら入ってて

雪菜

私、いつも鞄に折り畳み傘いれてるんだよねw

そうなんだ

じゃあ、入れさせてもらおうかな。

ありがとう。

言葉が途切れてしまった

何か話さないと

そんなことを考えてると葵くんの方から口を開いた

この花しってる?

雪菜

えっ

雪菜

えっと、確か

雪菜

彼岸花だっけ?

正解!

この時期にしか咲かない綺麗な花だよね。

雪菜

でも彼岸花には毒があるから触っちゃいけないって

雪菜

小さい頃よくいわれたなぁ

毒があるのは彼岸花の根だけだよ。

色んな意味で嫌われてる花だけど

僕は好きだな

雪菜

葵くん詳しいんだね!

僕の取り柄は植物と本に詳しいことだけだからね。

そう言って葵くんはふふと笑った。

雪菜

あっ、

雪菜

私のうちそこだから!

雪菜

よかったら傘持ってて!

えっ、でも、、。

雪菜

いいから!

私はそう言って葵くんに傘を押し付け

走り去る。

後ろを振り向けば苦笑いして立ってる彼がいるんだろうと思うと

顔が熱くなるのを感じた。

その日を最後に彼が学校に来ることはなかった。

彼はもともと身体が弱く

重い病で病院に入院しているらしいと

みんなが噂していた。

私は来る日も来る日も彼の登校を待ちわびたが

彼が来る気配はなかった。

そんなある日のこと

またもや天気予報が外れ

帰宅中に通り雨が降り注いだ。

雪菜

うそ!傘持ってないのになぁ、、

雪菜

今日は濡れて帰るか、、

私は家に向かって歩き出す

その時

雨が私から避けていった

大塚さん。

雪菜

えっ

雪菜

葵くん!?

背後には私に傘を傾ける葵くんが立っていた

傘、返しにきたんだ

そう言って微笑む葵くん

雪菜

葵くん!

雪菜

大丈夫なの?!

雪菜

みんなが入院したって噂してたから!

もう大丈夫。

体も軽いし

雪菜

よかった!心配してたんだよ!

ありがとう、もう大丈夫だからね

私達は少しだけ回り道をして

学校の事や友達のこと本のこと植物のこと

色んな話をした。

雪菜

はははははw

雪菜

葵くんの話は面白いよ!

雪菜

もっと早く色んな話、すればよかった!

僕もそう思ったよ!

雪菜

明日から学校来るんでしょ?

雪菜

明日も一緒に帰ろうよ!

そう言うと葵くんは俯いてしまった。

ごめん

もう、それはできないんだ

雪菜

どうして?

遠い所に行くから

雪菜

遠い所?

雪菜

転校するの?

まぁ、そんな感じかな

葵くんは寂しそうに笑った

雪菜

そっか、、、

今日はね

大塚さんに傘を返しに来たんだ。

雪菜

傘?

雪菜

そんなのよかったのに!

あの時は嬉しかったよ!

ありがとう。

それと、

葵くんは傘を下げた。

その時

葵くんの顔が近づいてきて

私はとっさに目を瞑る

唇に柔らかな感触がした

それはコンマ何秒のだったかもしれない

でも、私にはとても長く感じた。

傘の落ちる音で私は目を開ける。

雪菜

えっ?

そこには葵くんの姿はなく

爛々と咲き誇る彼岸花の上に落ちた

赤い傘があるだけだった

雪菜

次の日学校で知ったのは

昨日、葵くんが病院で亡くなっとたと言うことだった。

昨日の出来事は夢だったのか

現実だったのかはわからない

しかし彼岸花の前での口づけは

とても夢だとは思えない。

私は彼岸花の花言葉を調べてみた。

彼岸花の花言葉は

再会、また会う日を楽しみに

あの口づけが本物なら

また彼に会う日が来るだろう。

その日を楽しみにしている

それが私の初恋でした。

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