母娘

拝啓 ヤスヒロさん

お元気ですか？…といっても返事が来ないことは承知してます

この間は、ありがとう。

お陰様で娘もこの歳になりましたよ。

貴方にも見せたかった。

やっと親の務めが一段落ついたな、と思います。

子供というのは不思議なものでね

いつもは年中怒られることばかりして私を困らせるくせに

いざ私が怒ると口だけで何も変わってないんですよ

そんな日が何年続いたことか

やっと懐いてくれたと思ったらすぐに離れてゆく

そしていつかは私の事なんて忘れて新しい家庭を築くのでしょう

あの子が小学生くらいのとき

癌だと診断されましたよね

私がこんなにもかってくらい 苦しかった時にも子供は 顔色一つも変えずにいつものように駄々をこねる

何で私はこの子のために ここまで身を削らなければならないの

ついにそう思うまでに至ってしまった時がありました

でもそれでも私がこうやって生きているのは

やはり娘のお陰なんです

本当に子供って不思議ね笑

あの時のあの子を見た時に

自分の為にこれだけ考えてくれてたんだ、もうこんなに大人になったんだって

ここまで頑張ってきて良かったって思えてね

この子のために頑張って生きよう

そう、思いました。

あれから12年くらいたったかしらね

今じゃ医療が進んで 癌の治療薬も出てるそうですよ

でも治療薬もタダだというわけでもありませんからね。

だから私も、いつこの世を去るか分からないけれど

もう少しは、精一杯 娘の隣に居たいと思います。

……。