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君と出会ったのは
ある夏の日の昼下がり
授業が面倒くさくなって
屋上でサボりを決めた
あの日だった
──ガチャ
あの日は、先客がいた
隣のクラスの不思議な美少女
望月さん
彼女のことを知っていたのは
彼女が可愛かったから…
なんて、そんな単純な理由じゃない
彼女は困ったように笑った
だけど、僕は知っている
彼女が複数の女子から
悪質ないじめを受けていることを
僕たちは、それから毎日
午後は 2人してここに来て
駄弁って授業をサボっていた
そんなある日
彼女は僕に
こんな質問を投げかけた
彼女の質問の意図はわからない
だけど僕は真剣に考えた
その質問をした時の彼女の顔が
少し楽しそうで
可愛いなんて思ってしまって
僕の答えに対し
君は声を出して笑った
彼女の笑った顔が愛らしくて
僕は思わず顔を逸らして
ついでに話も逸らした
彼女は上目遣いで僕を見る
僕は少し考えてから口を開いた
彼女の目は輝いていた
僕はなんだか嬉しくて
首を思いっきり縦に振った
まさか、それから3ヶ月後
その言動を後悔することになるなんて
僕は思ってもいなかった
それから僕たちは
お互いに他愛のない話をして
ただ時が流れるのを待った
本当にいつも通りだった
だから、気づかなかったんだ
…いや、気づけなかった
君の本心に
太陽が沈み始めた頃
君はふと口を開いた
そう言って君は
転落防止のための柵を簡単に乗り越えて
じりじりと屋上の隅に足を運ぶ
僕の言葉は空気のように
全てかわされた
君はそのまま手を広げて
僕の方を向いたまま
ふわりと宙を舞う
君は、笑っていた
僕の目を見て、笑っていた
「好きだよ」
君の言葉が
最後に君が言い残した言葉が
僕の耳にこびりついて離れない
離すことを許さない
気づきたくなんてない
気づいてはいけない
僕も、君のことが──
好きだったなんて
あの時、君が出した答えは
間違っていなかったよ
人は鳥のように飛ぶことが出来る
あの時の君は
まさに鳥そのものだった
僕はあの時
ほんの一瞬だけ
君の背中に
翼が見えた気がしたんだ
君がいなくなってから僕は
初めて君の気持ちがわかった
空を飛びたいという
君の純粋な願いが
僕も、空を飛びたい
君のもとへ飛んでいきたい
言い逃げなんてずるいじゃないか
僕の答えも聞かずに
君は空へと羽ばたいて
その気になれば人も空を飛べる
君はそう言っていた
僕の背中にも
君と同じような
翼があればいいな
好きだよ
コメント
23件
思わずため息を付いてしまうようなきれいな文章で、心が癒やされました… 好きです(唐突な告白)
望月さんの辛さは彼女だけしかわからなくて、それでも鳥越くんなら止められたかもしれないなんて思ってしまう… でも反対に彼女は空を飛びたかったのだからこれでも良かったのかなぁとか… 表現は綺麗で意味は深くて、素敵なお話でした
文章がほんと綺麗… もし鳥越くんが望月さんの言葉の真意に気づけていたら、彼女を止めることができたのかな…