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神からの説明――そこから、物語は幕を開ける。 主人公、神谷瑠夏は、生前、善い行いを重ねて命を終えた。その功績により、神になる資格を得たという。神から告げられたのは、世界を創造できる力、そして、創られた世界はただ見守るだけで良いということ。さらに、自らの世界へ人を送る(転生)、その世界へ自ら降り立つ、そして自身の姿を自在に変えることができるという驚くべき事実だった。 生前の瑠夏は、熱狂的な『文豪ストレイドッグス』のファン、いわゆる箱推しだった。神の力を得た彼女は、迷わず『文スト』の世界を基礎から創り上げることを決意する。何よりも願うのは、推しキャラクターたちが決して命を落とすことのない未来を見守ることだった。 しかし、瑠夏の知る時代はまだ遠い先のこと。武装探偵社が設立された時代まで遡ろうとしたところ、時間の流れを読み誤り、よりにもよって泉鏡花が入社した時代まで跳んでしまった。 飛躍した時代は、一般人には些細なズレとしてしか認識されないだろう。だが、江戸川乱歩や太宰治といった鋭敏な観察眼を持つ者たちには、明確な違和感として感じ取られてしまう。 飛ばしすぎたと内心で焦りながらも、推しに一目会いたいという衝動に駆られた瑠夏は、探偵社へと向かう。もちろん、入社などという大胆な考えはなく、あくまでモブキャラクターとして姿を変え、依頼を持ちかけるという形を取った。 そこで、予期せず江戸川乱歩と遭遇する。最初は喜びで胸がいっぱいになった瑠夏だったが、乱歩は彼女に漂う時代背景の欠如に気づき、その正体を問い詰めた。 狼狽した瑠夏は、言葉に詰まり、思わず神界へとテレポートしてしまう。後から思えば、それは疑いを深める以外の何物でもない行為だったが、当時の瑠夏は、喜びと焦りがないまぜになったパニック状態であり、そこまで思考が及ばなかったのだ。 落ち着きを取り戻した瑠夏は、今度はポートマフィアへ行こうと考える。しかし、何のつてもなく足を踏み入れられる場所ではないことは明白だったため、透明化の能力を使って潜入を試みた。 首領、森鴎外のいる部屋に辿り着き、感動に浸っていると、微かな気配を悟られてしまう。一触即発の状況の中、間一髪でテレポートし、神界へと逃げ帰ることができた。 その頃、地上では、森鴎外から話を聞いた中原中也と、探偵社での出来事を一部始終見ていた太宰治が出会っていた。話の流れから瑠夏の存在が浮上し、二人はそれぞれ独自に調査を開始することになる。 探偵社に戻った太宰は、改めて乱歩にこの不可解な現象について考察を依頼する。すると乱歩は、ふと太宰に問いかけた。「君は、昔の記憶に違和感を覚えたことはないか?」 太宰は自身の過去を振り返り、曖昧な部分があることに気づく。なぜ乱歩がそのようなことを尋ねるのかと訝しんでいると、さらに乱歩は核心に迫る質問を投げかけた。「この世界は、創られたものではないのか?」 まさか、と思いつつも太宰が深く考察すると、全ての辻褄が合致することに気づかされる。そして乱歩は、一つの結論に辿り着く――瑠夏こそが、この世界を創り上げた神なのではないかと。 次に出会った時に直接確かめようと思った矢先、瑠夏は慌ただしくどこかへ消え、すぐに姿を現すことはないだろうと乱歩は考えていた。 しかし、その時は意外にも早く訪れた。神界では、姿を変えて地上へ行けば誰にも気づかれないという安易な結論に至った瑠夏が、再び探偵社へと向かったのだ。 だが、そんな浅はかな考えは、瞬く間に乱歩に見破られる。「君は、一体何者だ?」鋭い眼光が瑠夏を射抜く。 逃げることもできたはずだった。しかし、憧れの推しに言葉をかけられたことへの喜びが勝り、瑠夏は問いかけられるまま、答えることしかできなかった。 全ての質問に正直に答えてしまった瑠夏は、このままではモブとしての平穏な日々は送れないと悟り、自分がこの世界に存在していたという記憶そのものを消去してしまう。 しかし、消去された部分は空白になるのではなく、曖昧な情報で補填されるだけだった。このままではまた同じことの繰り返しになると考えた瑠夏は、謎多き情報屋という新たな設定を思いつき、消去された記憶の穴を埋めることにした。 それからというもの、瑠夏は誰かに会うたびに姿を変え、推しが死なないための最低限の情報だけをそっと渡していく。最善の未来へと導くことは困難を極めるが、瑠夏は今日も、愛する推したちが生き残る未来のために奔走している。