コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
アンティークショップでS美の目に停まったのは、一体の西洋人形だった。
S美
S美はひと目見ただけでそう思った。
しかしその後すぐに、
S美
S美は自分の気持ちに戸惑った。その人形は『欲しい』とは思ったが、『可愛い』とも『美しい』とも思わなかったからだ。
S美
S美
T雄
I香
店の奥を見ていた友達のT雄とI香が話しかけてきた。3人は休日にショッピングへ出掛けていたのだ。
T雄
I香
T雄
2人にも不気味さが伝わったのか、T雄とI香は口々に買うのを止めようとしてくる。
S美
強硬に反対されたS美は、人形を買うのを止めて、2人と共にその店を立ち去った。
……だが、その翌日……
S美
S美は1人でアンティーク屋を訪れていた。
昨日と変わらず、ひっそりと佇むように置いてあったその人形を手に取り、カウンターへと向かう。
2人が昨日あれだけ止めたにも関わらず、S美はもう人形がほしいという気持ちを抑えきれなくなっていた。
S美
S美
カウンターの向こうにいる、事務作業をしていた店主に話しかけた。
S美
すると店主は、こちらを見たかと思うと、よく通った声で一言告げる。
店主
S美
店主の言葉に、S美の心はズキリと痛んだ。
店主
店主
店主
店主
店主
店主
S美
店主
店主
店主
S美が人形を買った、その日の真夜中……。
S美
人形
S美
寝ていたS美の耳元に、人形を飾った棚の方から、奇妙な声が聞こえてきた。
人形
S美
人形
S美
人形の言葉は図星だった。S美の心がキュッと痛む。
人形
人形
人形
人形
S美
人形
S美
S美
S美
人形
人形
人形
人形
S美
S美は強く叫んだ。その途端──
ピタッ……
人形の声は止まった。それ以降、人形は一言も喋らなかった。
だが……それからS美の、苦難の日々が始まった。
毎晩、毎晩……人形は寝ているS美に対し、からかうような口調で責め立ててきたのだ。
人形
人形
はじめの内は、S美が音を上げると、大人しく口を閉じた。
だが、次第に……
S美
人形
少しずつ、人形の制御が効かなくなっていた。どれだけ懇願しても、人形はお構いなしにS美を責め立ててくる。
S美
人形
S美
人形
人形
人形
人形
人形
人形
S美
ブンッ!
高笑いをあげる人形に、思わずS美は、枕元の目覚まし時計を放り投げた。
ガシャン!
時計は人形の左腕の部分に命中した。その瞬間、
ズキッ──!
S美
S美の左腕に、鈍い痛みが走った。
固くて丸い何か──そう、目覚まし時計をぶつけられたような痛みを感じたのだ。
人形
人形
S美
……その後も夜な夜な、人形はS美を責め続けた……何度も、何度も……
その内に、S美は精神をすり減らし、少しずつやつれていった。
I香
T雄
S美
S美の異変に気付いたI香とT雄が、心配そうな顔で気遣ってくる。
彼女たちの気持ちが、S美にとっては苦痛だった。
人形を買ってから2週間……。
ある日、見知らぬ番号から、電話がかかってきた。
店主
S美
店主
店主
S美
気遣う店主の言葉に、S美はどうしても『お願いします』と言うことができなかった。人形には毎晩苛まれているのに……。
S美
店主
S美
店主の言葉は図星だった。人形に責め立てられてもなお、S美のI香に対する罪悪感は残っていた。
S美
店主
店主
店主
店主
S美
店主
店主
店主
店主
S美
店主
S美
店主
店主の言葉に、S美は震え上がるような恐怖を覚える。
それでも、あの人形を手放すつもりにはなれなかった。
人形
人形
S美
人形の追及は、その後も延々と続き……S美の精神は、限界を迎えつつあった。
I香
S美
T雄
S美
ブンッ!
肩を掴んできたT雄の腕を、S美は必死に振り払った。
S美
ドサッ……
その勢いに自分で自分を支えきれず、S美は倒れ込んでしまう。
I香
T雄
2人の慌てる声を聞きながら、S美は気を失った。
S美
S美が目を覚ますと、そこは病院だった。枕元にI香とT雄が座っている。
I香
T雄
I香
I香は泣き腫らした顔に、また涙が流れた。
S美
S美
S美は彼女の様子を見て、自分も耐えきれなくなってしまう。
ベッドから身体を起こしたS美は、泣きながら2人に、全てを打ち明けた。
T雄
S美
S美
S美はI香の顔を見るのが怖くて、うつむきながらI香に謝り続けた。
I香
I香
パチンッ!
S美
T雄
S美はI香に強烈なビンタを食らう。T雄は慌ててS美をかばった。
S美
I香
S美
S美は顔を上げて、自分を守ろうとするT雄の肩越しにI香を見る。
I香
I香
I香
S美
I香
S美
S美の両目からも涙があふれる。
T雄
I香
T雄
T雄も、目尻に涙をにじませながら、I香とS美に向かって、しっかりと頷いた。
その日の夜……。
パチパチパチ……
S美は自宅の庭で、焚き火をしていた。
サラサラサラ……
S美は人形に、ひとつまみの塩を優しくふりかける。そして和紙で丁寧に包み込む。
人形
S美
人形
人形の声が、初めて上ずった。
人形
S美
人形の言葉に、S美は確信を持って否定した。
もう自分の心に、罪の意識は残っていない。I香が許してくれた今は、とても安らかな気分だ。
スッ──
こうこうと燃える焚き火の上に、人形をかざした。
人形
人形の悲痛な声が響いた。S美の両手も、チリチリと焼けるように痛い。
だが……両手以外に、熱の痛みはない。やはりもう、この人形に自分の罪悪感は残っていないのだ。
これはもはやS美ではない。ただの呪われた人形だった。
S美
S美は手を離す。人形はあえなく、焚き火の中に落ちていく。
人形
上品な見た目の人形にふさわしくない、野太い断末魔が響いた。
……やがてそれも、すぐに途切れる。あとは物言わぬただの人形が、燃え続けるだけだ。
S美の身体に異変はない。人形の呪いは……これで終わったのだ。
S美
S美は1人でそっとつぶやく。
充分に燃えきったのを確認してから、バケツの水で火を消し、後始末を終えた。
S美はリビングへと戻り、自分の寝室に向かう。
ベッドに潜り込んですぐ、意識は闇へと落ちる。
久しぶりに味わった、安らかな眠りだった。
……ウーー……ウーー……
S美
ウーー──ウーー──
S美
ウーー──ウーー──カンカンカン!
S美
S美
ガバッ!!
即座に飛び起きたS美は、すぐに部屋を飛び出した。
S美
ガラッ!
S美
庭への引き戸を開けて、S美はようやく息をついた。
ちゃんと火は消えている。少なくともウチではない。
ウーーーーー!! ウーーーーー!! カンカンカン!!
S美
S美は妙な違和感を覚えた。消防車の音は本当に聞こえる。
それも、1台じゃない。何台もの消防車のサイレン音が、ひっきりなしに聞こえてくる。
S美
S美
S美は最悪の事態を想定し、いつでも逃げ出せるように、準備をしておくことにした。
自分の部屋に戻り、まずは携帯を手に取る。
どこで火災が起きているのか、SNSで確認しようと思い、通知を見る。
その途端──S美は恐怖で凍りついた。
S美
次々と流れ込むニュースが、S美は信じられなかった。
この街だけではない……日本の各地で火事が起きている。
それも、人間が燃えるという怪奇現象によって……。
S美
S美の呼吸が止まった。
○○マンションはI香の住んでいるマンション……そして××町は、T雄が暮らしている街だ。
S美
S美は祈る気持ちで、2人に電話をかけた。
だが……かなり繋がりにくい中、必死にかけ続けて、ようやく返ってきた言葉は、2人とも──
『……お客様がおかけになった番号は、電源が入っていないか、電波の届かない場所に──』
S美
S美は全身から力が抜け、へたりこんでしまった。
S美
S美
店主
通話
00:00
S美
突如、あのアンティークショップから電話がかかってきた。S美は震える指で応答する。
店主
S美
店主
耳をつんざく怒鳴り声が聞こえてきた。
店主
S美
店主
S美
S美
S美
店主
店主の恨むような声が聞こえてくる。
店主
店主
店主
S美
そこでようやく、S美は全てを理解した。理解してしまった。
店主
店主
店主
店主
店主
S美
ガンッ!!
S美は携帯を放り投げた。頭を抱えて床を転げ回る。
S美
S美
S美
のたうつS美の耳元に、声が聞こえた。
声の方に、目を向けた。
人形がいた。 燃やしたはずの人形が、燃やす前と変わりない綺麗な身体で、そこに立っていた。
ただし、声は違った。あの野太い男の声ではなかった。
人形の声は……S美の声だった。
S美の部屋で、悶えるS美を、S美の声が罵る。
S美を責めるS美の声は、いつまでも、いつまでも、延々と続いた。