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金髪の子……?でも「私なら」って言ってるということはこの子は……? さらにディテフさんのところでも謎の人物がいて、続きが気になります!
私の名前はディテフ。
異世界研究所の館長を務めてる、千年を生きた男。
……とまぁ格好つけるのはこのくらいにして。
ディテフ
ディテフ
ディテフ
ディテフ
ディテフ
クロト
クロト
クロト
少ーしからかっただけでムキになって返してくるクロト君。
いいねぇー若気の至りってやつかな?
私はもう千年も生きてるから、若気も何も無いけれど。
こうやって若者を揶揄うのはとても楽しい。
ディテフ
ディテフ
ディテフ
クロト
クロトは黙り込んでいる。
……怒らせちゃったかな?
まぁ、いっか。先に手を出したのはこちらだし、殺されはしないだろう。
でも色々複雑なんだろうね。
自分の好きな娘の子孫なんて。
私が驚くくらい、凄く容姿似てるし。
生まれ変わりとか思っちゃったのかなぁー?
……それだけは絶対にありえないのにね。
ディテフ
クロト
ディテフ
ディテフ
ディテフ
ディテフ
クロト
千年を生きてきた私がどうしても伝えたかったこと。
それは、前世の思いに引きずられ、今をおざなりにするなよ、ということ。
彼女に似ているからという理由だけであの子を好きになってしまうなんてもってのほか。
これ程相手に失礼なこともないでしょ。
────それにしても。
まだ彼が彼女を慕っていたとは驚きだ。
なぜ彼女があんな行動をしたのか、その理由を知っているからだろうか。
……いや、恐らく違うだろう。
まるで、彼女の核に纏わる記憶が、全て無くなってしまったかのような言動。
掘り起こすべきか、否か。
ディテフ
短い逡巡の末、何も関わらないことに決めた。
────今下手に彼と関わると、支障が出てしまう。
それは避けたい。
クロト
クロトは返答に迷ったのか、逃げることを選んだようだ。
構わないよ。いずれ向き合う問題だ。
私がこうして一千年向き合い、答えをだしたように、いずれ君も。
ディテフ
クロト
ディテフ
ディテフ
ガタンと音を立ててドアが閉まった。
私はクロトが出ていった瞬間、背後で動いた気配に声をかける。
大きなため息を一つ添えて。
ディテフ
ディテフ
ディテフ
ディテフ
ディテフ
○○○
○○○
○○○
○○○
○○○
そう言って部屋に戻る○○○。
仕方のない子だ。昼夜逆転生活は体に良くないというのに。
○○○が戻っていくのを見送りながら、私は一人呟く。
ディテフ
ディテフ
金色の光が見える。
それは暖かい光だ。
優しい光だ。
こちらに手を伸ばしてくれる、救いの光。
泣いてしまいたくなるくらい安心する。
────ピピピピッ!
…………あれ?
ここは──どこ? 私は、誰?
なーんて記憶喪失のようにぼんやりとしていたのは、ほんの一瞬の事。
私の名前は麗美。
ここは日本のとある市街地。
今、私は中学三年生だ。
────あれ? 中学、生?
……何故そんなところに私は疑問を抱くのだろう。
まあ、いいか。
きっと、私寝惚けているんだ。
そう考えながら、私はずっと鳴りっぱなしのアラームを止めようと手を伸ばして……。
アラームを自分の足の上に落としてしまった。
麗美
麗美
お母さん
お母さん
麗美
麗美
お母さん
お母さん
麗美
お母さん
私は目元の辺りをゴシゴシと擦った。
なぜだろう。
どんどん涙が、溢れてくる。
お母さん
お母さん
麗美
麗美
麗美
麗美
今回の劇の題材は、ギリシア神話。
それに色々と手を加えたのが、今回の劇“不死鳥”。
ギリシア神話とは名ばかりで、銃も大砲も電子機器も出てくる。
なぜそうなった、と言いたくなるような劇の中身。書いたの誰なんだろう……。
でも、これが中学校で最後の劇。主役を獲る最後のチャンス。
頑張らないと。
先生
先生
場所は変わり、体育館。
サングラスをかけた顧問の先生がやじを飛ばしているのを見て、友達は舌打ちをした。
友達
友達
麗美
麗美
慌てて練習しているふりをする。
側転、倒立前転は何とかできるようになったけど……。
運動神経が人並み以下の私にバク転はキツいんですが、先生。
主役になりたいと思っている私へのいじめですか?
内心でそう毒づいていると、こちらに先輩が向かってきた。
先輩
先輩は県内でも有名な演芸部のある高校に通っていて、今日はその練習が休みで久しぶりに母校に顔を出しに来たそうだ。
演芸部を覗いたのは偶然らしいけど……なにぶん同級生と比べても演技が飛び抜けて上手かった先輩のことだ、どこまで本当か疑わしい。
後輩いじりに来たのかも、なーんて。
先輩もそこまで暇じゃないか。
友達
麗美
友達は憧れの先輩に声をかけられ、気が動転してしまっているのか声が裏返っていた。
先輩
気持ちは分からなくもない。
先輩
だって凄い綺麗、美人!
先輩
先輩を見ていると、一種の芸術品を見ている気分になってくる。
なんでだろう。不思議だなぁ
先輩
友達
麗美
先輩と友達が呆れたようにため息をついた。
……?
先輩
麗美
私が考え事をしている間に、先輩が何か話してたみたい
考え事……そんなにしていた、かな?
それに……何だろう。今日はやけに時間の進みが早い気がする。
自分だけが、周りから置いていかれるような感覚。
先輩
ああああ、先輩が静かに怒ってる……!
この後、先輩の怒りを静め損ねた私は、グラウンド五周全力ダッシュを命じられたのだった。
次の日の朝。
私は友達と登校していた。
友達
麗美
麗美
麗美
友達
麗美
麗美
そう言って私は友達をくすぐり始めた。
友達
友達はひとしきり笑った。私もたくさん笑った。
でも、どちらも心の底からは笑えていないのだ。
そうしていると、いつの間にか学校にたどり着いていた。
彼女は校門前で、私の顔を覗き込む。
友達
麗美
友達
友達は首をかしげてクスッと笑った。
それからしばらく経った。その間の記憶は、曖昧であまり覚えていない。
私の最終公演の役職は……
主役では、無かった。
麗美
お母さん
気を抜けば涙が出そうだったから、途切れ途切れに話す。
麗美
お母さん
お母さんは、頬に手を当てて眉を下げた。
見るからに落ち込んでいる我が子に、何をすればいいのか困っているのだろう。
そう思っていたのに。
お母さん
お母さんは急に自分の頬を叩いた。
驚き固まっている私をよそに、大声で宣言する。
お母さん
麗美
麗美
麗美
麗美
ていうか祝わないで? 余計にしんどくなっちゃうから。
お母さん
お母さん
麗美
私が貰えた役は脇役の"神"の役。
ただ上から降りてきて静かに涙を流すだけの、それだけの役。
だがそれをお母さんに伝えたところ、お母さんは手をブンブンと振ってきた。
お母さん
麗美
お母さん
お母さん
お母さん
お母さん
麗美
お母さん
お母さん
お母さん
お母さん
お母さん
お母さんは、手をシュンシュンと前へ突き出す。
……突拍子のないことばかり口にする母から、明るいことばかり口にする母から、なんだか逃げ出したくなる。
だって、私今、そういう気分じゃない。
部屋に篭って、沈んでいきたい。
……駄目な子だ、私。
麗美
お母さん
麗美
麗美
お母さん
お母さん
お母さん
お母さん
お母さん
お母さん
お母さんが何を言ってるのか、私はほとんど理解できなかった。
……でも。
お母さんの真っ直ぐな言葉は、私の中のどろどろとした気持ちをゆっくりと浄化していった。
沈もうなんて、もう思えないくらい。
麗美
麗美
麗美
お母さん
お母さんは頷いて私を抱き締める。
ただひたすらに、温かかった。
母の腕の中で、私は問う。
麗美
お母さん
麗美
お母さん
お母さん
────最終公演、当日。
友達
麗美
麗美
友達
麗美
友達
友達
麗美
友達は私と同じく主役のオーディションに落ち、神の使い役になった。
友達の出番はさっき終わった。
ん? でもそう言えば友達も緊張してたじゃん!
自分だけ終わったからって、余裕アピール?
うわぁ、なんかイラってくる……。
私の出番までの時間はあっという間に過ぎていった。
友達
友達
友達
友達に背を押され、私はちらりと振り返る。
彼女は神の使いらしい激励を送ってくれた。
友達
緊張は、もうない。
私はもう、大丈夫だ。
うっ 。
眩しい……っ。
初めてのときはもっと慣れていなかったけど、今も慣れないなぁ。
お客さんの視線がこっちを向いている。
早く、静かに涙を流さないと……!
────そう目を閉じた時だった。
声が、聞こえてきたのは。
麗美
言葉を発しちゃいけないのに思わず声が出た。
……誰の声? 演芸部員は誰も声を発さない。お客様もそうだ。皆、この劇を楽しみにしてたんだから、それを台無しになんて、するはずない。
ズキンと、頭が痛んだ。私に何かを、訴えかけるように。
────────あぁ、そうだ。そもそも、こんな劇、あったっけ。
────ブチッ。
────あれ。ここ、どこ……?
私は…………だれ?
何しにここに……来たんだっけ?
周りは暗い。何も見えない。誰もいない。
だから、ここは私の居場所じゃないと思った。
ここは、私ではないと否定した。
────その瞬間。
麗美
あまりの激痛に顔を歪める。
同時に、感情の波が一気に押し寄せてくる。
────痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
嫌だ嫌だ嫌だいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!
こんなのは──こんなのは、私の感情じゃない。
私は、だって、もう────。
流れ込む何かを、必死で堰き止めたくて、頭を抱える。
私はだって、失いたくないよ。もう二度とあんな思いは嫌。
──それに、それに、私は。
気がつくと、側に誰か立っていた。
その子の周りだけ、明るい。
金色の、光。
麗美
激痛のせいか、うまく呂律が回らない。
自分が何が言いたいのかさえ分からなかった。
そんな私を、金髪の少女は軽蔑したように睨め付ける。
たったそれだけ。そう言われても、何も感じなかった。
怒りさえも湧いてこない。
自分がどうしようもない人間だってことくらい、私にも分かってる。
──もう、いいでしょ? そんな私に何をしても無駄だよ。
諦観の眼差しでぼんやりとその子を見上げる。
強い光のせいか、彼女の顔の細部はよく見えなかった。
あぁ、叫んでいる。
私に。臆病でどうしようもない、私なんかに────。
ポタポタと、温かい水が頭上から降ってきた。
────この子、私なんかのために、泣いている。
……驚いた。
麗美
あぁ、今すぐ立ち上がって、彼女を抱き締めてあげたいな。
ちゃんと大丈夫って、伝えてあげたい。
それから、まだあなただって、やり直せるよって伝えたい。
だって私にだって、そのチャンスが回ってきたのだ。
それなら、あなたも、きっと。
麗美
麗美
麗美
足に力を込めて、立ち上がる。彼女の顔を両手で挟む。
彼女の目元は少し腫れていて、金の瞳を真丸に見開いている。
心からは笑えないけど、それであなたの心が休まるなら。
私を助けようとしてくれたあなたに、私はいくらでも、演じてみせる。
あなたは私を“私”と言ったけれど、私とは違う、あなたのためなら。
麗美
麗美
──思い出したら辛くなる。だから嫌だったよ。だから封じようとした。忘れようとした。
でも。
でもさ。
それで何か変わったことなんて、ない。
全てを忘れられたことなんて、ない。
だったら、欠損した記憶を引っ張り出すことなんて、私にとって簡単なことでしょう?
それだけ地球に、家族に、友達に、知人に、想い出に執着してたんだから。
前にだって、進んでみせる。
答えなんかとっくに決まってる。
周りの闇が、そんな私を足止めするように纏わりついてくる。
そっちは危ないよって、忠告してくれている。
……でも、ごめんね。私、進まなきゃ。
麗美
麗美
胸に手を当て、皆に語り掛ける。
麗美
麗美
麗美
麗美
金髪の女の子が、少しだけ頬を持ち上げる。
「行ってらっしゃい」って、そう言われた気がした。
闇がゆっくりと晴れてゆき────。
真っ白な光に、包まれた、その先で。
「合格じゃ、人の子よ」。
紅赤の髪をした人が目の前に現れ、こう呟いた。