今日も抱かれている
──けれど
ボクにそんな資格があるのか?
紅紫
(もし“彼女“に知られたら──)
“彼女“──阿左美リエ、阿左美慎哉の“元“妻
紅紫
(ボクと出会わなければ)
幸せな家庭を築けてたはずなのに……
紅紫
(なんでボクは、あのとき……)
紅紫
(拍手をした? どうして声をかけた?)
当時17歳の彼は『カノン』を弾いていた
あまりの綺麗な音色に聴き惚れた
ピアノを弾き終えると思わず拍手をしていた
紅紫
(……ただ黙って)
紅紫
(音楽室から彼が出るのを待っていれば)
慎哉
慎哉
何を考えてた?
紅紫
……っ……
慎哉
ずいぶん余裕だな?
紅紫
……ち、違っ……
チュ
紅紫
…………!!
慎哉
……ん……
何も考えられなくなる
紅紫
(……ダメ)
紅紫
(流される……)
数時間後
紅紫
…………はぁ
慎哉
……すー…………
ボクに腕を回したまま、寝息を立てている
紅紫
今日こそはと思ったけど……
紅紫
言いそびれちゃったな
このままじゃいけないのはわかってる
紅紫
(ただ問題を先送りにしてるだけ)
視線を慎哉の顔に向けた
紅紫
……これ以上、死神のそばにいたらダメ
紅紫
きみは転生すべきだよ
彼が転生したら、これまでの記憶はすべて失われる
それでもいい
紅紫
生まれ変わって
紅紫
ボクじゃない誰かと幸せになってね
慎哉
…………すー
紅紫
安心していいよ
紅紫
きみの罰は、ボクが代わりに受け持つから
紅紫
紅紫
(ボクのことは……)
忘れて
まどろみが意識を包み込む
紅紫
……ふぁ
あくびをすると紅紫は瞼を閉じた
紅紫
……すぅ、すぅ
慎哉
慎哉
……勝手に俺の幸せを決めるな
ぎゅっと抱きよせる
慎哉
後悔なんてしていない
慎哉
あんたがそばにいれば──
慎哉
それでいい








