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走らないお婆さん

第1話 - 走らないお婆さん

318

2019年03月26日

#ホラー

#意味が分かると

#マラソン

適当人間

武嶋紀明

先輩、お疲れ様です。

馬嶋弘

おう、お疲れ様。

馬嶋弘

スタートラインの受付は全員終了したのか？

武嶋紀明

一応は。

馬嶋弘

じゃあ、TV局の人に話を通すぞ。

武嶋紀明

あ、でも、1人おかしな人が居て！

馬嶋弘

どういうことだ？

武嶋紀明

応募履歴では18歳って書いてあったんですけど、明らかに81歳ぐらいの車を付いてるお婆さんが来て…。

武嶋紀明

本人はプロフィールの年齢を打ち間違えたって言うんですけど、歩行車も押してるし、絶対別人だと思うんですよね。

馬嶋弘

出場させなければ良いだろ？

武嶋紀明

それが、てこでも動かないって言ってスタートの邪魔をしてくるんですよ。

馬嶋弘

可笑しなばあさんが居たもんだな。

馬嶋弘

当選のハガキは？

武嶋紀明

あ、それは持ってました。

武嶋紀明

名前や住所の記入もしてもらいましたが、当選した時のものと一字一句間違えてません。

馬嶋弘

なら、本当に年齢を打ち間違えただけかも知れないな。

馬嶋弘

今回は芸能人のXXさんも走るし、TV局も何社か来てるから、開始時刻はずらせない。

馬嶋弘

武嶋、お前が付いてれば大丈夫じゃないか？

武嶋紀明

本気ですか？

馬嶋弘

当たり前だろ？

馬嶋弘

これ以上可笑しなことをされちゃ、たまったもんじゃないからな。

武嶋紀明

分かりました。

馬嶋弘

何か変わったことがあれば、すぐに連絡してくれ。

武嶋紀明

とりあえず、おばあさんの背中にゼッケンを付けておきますね。

武嶋紀明

番号は420番です。

武嶋紀明

万が一の時に、周知しておいてください。

馬嶋弘

420だな。

馬嶋弘

給水とかのスタッフにも気を付けるよう伝えておくよ。

武嶋紀明

お願いします。

武嶋紀明

まさか、俺が伴走することになるとは思いませんでしたけど。

馬嶋弘

悪いな。

馬嶋弘

今度飯でも行こう。

武嶋紀明

期待してますよ！

馬嶋弘

一応、スタートは最後尾にしておこう。

馬嶋弘

今日参加する選手に、何かするために参加しているかも知れないからな。

武嶋紀明

そうですね。

武嶋紀明

分かりました。

武嶋紀明

最後尾で走る事にはなんの躊躇いもないようです。

馬嶋弘

あ、持ち物検査はしてあるか？

武嶋紀明

いえ！

武嶋紀明

今から、確認します！

馬嶋弘

頼むぞ。

馬嶋弘

確認はまだか？

馬嶋弘

もう、スタートするぞ？

武嶋紀明

先輩、大変です。

武嶋紀明

物騒なものは入っていませんでしたが、彼女、位牌を持ってました。

馬嶋弘

位牌？

武嶋紀明

これを持って行かなきゃ始まらないんだって、凄い剣幕で怒るんですよ。

武嶋紀明

とりあえず、人に害は無いと思うので、許可して良いですか？

馬嶋弘

別に構わないが…。

馬嶋弘

そのばあさん、なんか変な病気持ってんじゃないのか？

武嶋紀明

変なって？

馬嶋弘

精神的な？それか、痴呆症。

武嶋紀明

それは、失礼ですよ！

馬嶋弘

悪い悪い。

馬嶋弘

でも、あからさまに行動がおかしい気がしてな。

武嶋紀明

そこは、否定しませんけど。

馬嶋弘

じゃあ、とりあえず、スタート出来るって形で、連絡するぞ。

武嶋紀明

お願いします。

1時間後

武嶋紀明

先輩。

武嶋紀明

このおばあさん、絶対、ゴール出来そうにないです。

馬嶋弘

なんでだ？

武嶋紀明

1時間で、2km地点をようやく通過しました。

馬嶋弘

マジか！

馬嶋弘

7時間で14km…。ハーフも無理だな。

武嶋紀明

とりあえず、10kmの給水地点を目指します。

馬嶋弘

そうだな。

馬嶋弘

最後尾にして正解だったよ。

武嶋紀明

ほんとですね。

馬嶋弘

時間超過しないように気を付けろよ。

武嶋紀明

はい、気を付けます！

馬嶋弘

お前、おばあさんとか弱いからな笑

馬嶋弘

普段の仕事でも、時間超過してるし笑

武嶋紀明

まぁ、否定しません笑

馬嶋弘

とりあえず、今日はまだ負傷者が出てないから走者の2/3がこっちを通過したら、お前の応援に行くとするよ。

武嶋紀明

お願いします。

2時間後

武嶋紀明

先輩！

武嶋紀明

おばあさんが、コースを変えて歩き始めました！

武嶋紀明

全然言うことを聞いてくれません！

武嶋紀明

不在着信

武嶋紀明

不在着信

武嶋紀明

不在着信

武嶋紀明

先輩！

武嶋紀明

連絡ください！

馬嶋弘

悪い悪い！

馬嶋弘

第5中足骨の疲労骨折の患者が来て、対応してたら気づかなかったよ。

馬嶋弘

今、ばあさんはどうなってる？

馬嶋弘

不在着信

馬嶋弘

不在着信

馬嶋弘

不在着信

馬嶋弘

おい！

馬嶋弘

武嶋、何があった？

馬嶋弘

返信しろ！

馬嶋弘

通話
00:03

馬嶋弘

なんで、ばあさんが出たんだ⁉︎

馬嶋弘

武嶋、どうなってる⁉︎

馬嶋弘

今どこだ⁉︎

武嶋紀明

本町丁目交差点

馬嶋弘

本町の何丁目だ⁉︎

武嶋紀明

日

馬嶋弘

は⁉︎

武嶋紀明

馬嶋弘

一丁目だな⁉︎

馬嶋弘

待ってろ！

武嶋紀明

大丈夫って言ってるよ

馬嶋弘

あんた、ばあさんか？

武嶋紀明

そうだよ

武嶋紀明

うち方がわからないから

武嶋紀明

声で入れてるよ

馬嶋弘

そうか。

馬嶋弘

ばあさん、武嶋はどうした？

武嶋紀明

泣いてる

馬嶋弘

え？

武嶋紀明

全部話した

武嶋紀明

ら

武嶋紀明

泣いた

馬嶋弘

どういうことか説明してくれ。

馬嶋弘

いや、まずは、何のためにこのマラソンに参加したのか教えてくれ。

武嶋紀明

孫

馬嶋弘

孫？

武嶋紀明

死んだ

馬嶋弘

は？

武嶋紀明

ここで

馬嶋弘

本町一丁目でってことか？

馬嶋弘

もしかして…

馬嶋弘

2ヶ月前の、スピード違反で逃げてた車と接触して死んだっていう…大学一年生の…。

武嶋紀明

もりながゆか

馬嶋弘

うちの病院に救急搬送されて、まもなく亡くなった、あの子の…。

武嶋紀明

祖母です

馬嶋弘

その節はご愁傷様でした。

武嶋紀明

はい

馬嶋弘

でも、何故今回の大会に？

武嶋紀明

孫が今回初めて当選してたんです

武嶋紀明

毎晩走ってました

武嶋紀明

嬉しかったんだと思います

武嶋紀明

事故をした日も走り込みをしてました

武嶋紀明

イヤホンをする癖があったので

武嶋紀明

その日もしていたのだと思います

武嶋紀明

サイレンの音は聞こえていたでしょうが

武嶋紀明

自分には関係ないからと走っていたのでしょう

武嶋紀明

青信号を走って渡ると

武嶋紀明

時速100キロを超えた車が突っ込んだのだと聞きました

武嶋紀明

ゆかが毎日走っていたのを

武嶋紀明

無駄にしたくなかった

武嶋紀明

だから

武嶋紀明

私がゆかの代わりに

武嶋紀明

走ることに決めました

武嶋紀明

足はとっても遅いけど

武嶋紀明

それもゆかのためだから

武嶋紀明

ゆかを乗せて

武嶋紀明

動くもんだと思えば

武嶋紀明

膝の痛みなんてどうってことないもの

武嶋紀明

昔はよく

武嶋紀明

こうやって

武嶋紀明

乳母車をついていたものよ

武嶋紀明

コースが違うのはわかっているけれど

武嶋紀明

私の足では到底ゴールにつけないから

武嶋紀明

せめて毎日走っていたコースぐらいは連れて行ってあげたいの

武嶋紀明

そんな話をしたら

武嶋紀明

この人の涙が止まらなくて

武嶋紀明

今は一緒にコロッケを食べてます

馬嶋弘

事情は一通り分かりました。

馬嶋弘

怪我のないようにゆっくりゴールしてください。

武嶋紀明

はい

武嶋紀明

あ

武嶋紀明

そういえば

馬嶋弘

どうしました？

武嶋紀明

短い時間だけど

武嶋紀明

先生がゆかの救命措置をしてくれたんでしょう？

馬嶋弘

私は、何も出来ませんでした。

馬嶋弘

心臓マッサージも結果的に肋骨を折ってしまいましたし、彼女の延命には繋がりませんでした。

武嶋紀明

いいのよ

武嶋紀明

ゆかを助けようとしてくれて

武嶋紀明

ありがとう

武嶋紀明

これからも

武嶋紀明

沢山の人を助けてあげてくださいね

馬嶋弘

通話
16:44

次の日

武嶋紀明

昨日は本当にすいませんでした。

馬嶋弘

いや、俺の方こそ悪かったよ。

馬嶋弘

初心を忘れて、人を雑に扱ってた。

武嶋紀明

森永さん、特別賞喜んでましたよ。

馬嶋弘

せめてもの罪滅ぼしだよ。

武嶋紀明

俺、来年もボランティア参加しますね。

馬嶋弘

おう、そうしてくれ。

馬嶋弘

来年は、誰も欠ける事のない大会になると良いな。

武嶋紀明

ほんとですね。

馬嶋弘

まぁ、今晩辺り飲みに行こう。

馬嶋弘

俺はコロッケも食えてないし。

武嶋紀明

良いですね！

武嶋紀明

それは、すいません💦

馬嶋弘

冗談だよ笑

馬嶋弘

大事なことを教われたから。

武嶋紀明

ほんとですね！

武嶋紀明

今日も一日頑張りましょう！

馬嶋弘

そうだな。

馬嶋弘

じゃ、また後でな。

武嶋紀明

はい！

武嶋紀明

よろしくお願いします！

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