怪盗 時雨桜

〜ユキ(真冬) side〜

深夜一時

ボクは、とある富豪の屋敷にいた

詳しく言うと、その近くの茂みかな

いつもの時雨桜のコスチュームを 着て、侵入するタイミングを 伺ってるところ

コスチュームについては、 ほとんど広まってる噂の通り

くノ一の格好で、 長い白髪を一つに結わえてる

……ウィッグをした、 言わば女装のような感じ

それプラス、ちょっとした機能がある 赤と青のカラコンを、オッドアイ みたいに片目ずつ入れてる

だからって、なんでボクは、 女装で怪盗をしてるんだろう

……真相は、このコスチュームを 作った人にしか分からないんだけど

この声は、頭につけてる髪飾りに内蔵 された、通信機から聞こえるソラの声

今朝彩莉にも説明した通り、 ボクが実行担当、ソラは情報収集係

それと作戦当日は、 こんな風にサポートもしてもらう

ちなみにソラは、家にいるよ

通信機内蔵の髪飾りは、 枝垂れ桜がモチーフになってる

時雨桜の名前の由来って、実はこの 花言葉から来てるものなんだ

事前に話し込んだ作戦を 思い出しながら、暗闇を走っていく

周りに人がいないかを素早く 確認してから、サッと室内に入った

丁度今は、警備員の交代がある時間 だから、一瞬だけ、警備が薄く なるんだよね

誰にも会わず、監視カメラもソラの力 を使って潜り抜けて、今回の ターゲットがある部屋まで辿り着いた

ここまで、いつも通り

誰にも姿を見られていないし、 侵入してることすらバレていない

去年、ボクが学校内で有名になった けど、ああやって表舞台に出るのは、 極力避けるようにしてる

予告状なんて、以ての外

一応、物を盗んだよっていう証拠に、 桜の花びらを一枚置いていってるけど

今回もサクッと盗んで、 花びらを置いて逃げるだけ

そう思って、部屋に入った

……って、分かりやすく部屋の 真ん中に飾られてあるじゃん

いかにもお高そうな台座が、部屋の 中心に、目立つように置かれていた

たしかこの後は、ソラにハッキングを してもらって、このガラスケースに 仕掛けられてある警報を切って……

異変に気づいて、 ソラの言葉を遮って言った

よく見ると、宝石があるはずの ガラスケースの中が、 何故か空っぽになっていた

ソラにとっても想定外だったらしく、 二人揃って呆然としてしまう

突然部屋の奥から、 聞き覚えのある声が聞こえた

暗くてよく見えないけど ……って、えっ！？

怪盗ブラッドムーン

ボクらの怪盗仲間で、 半分ライバルのような存在

その内の一人、ウィズが、そこにいた

久しぶりに会った友達のように 話しかけられる

リーフっていうのは、九葉のこと

たしかに今日、ボクらというより、 彩莉に会いに来ていた

あの時、九葉が来ることを 教えてくれたのは、ウィズこと、 九葉の兄の友弥君だった

そのおかげでこっちも動けたし、 ボクと彩莉の“関係”もバレずに済んだ

この二人は兄妹で、さらに怪盗の 相方なのに、どこか対立してるって いう、少し不思議な関係

そう言ってウィズが見せてきた のは……今回の、ボクらのターゲット

すかさず、ソラから指示が飛んでくる

ちなみにこの声は、ボクにしか 聞こえない音量に設定してある

だから、かなりの至近距離じゃない 限り、誰にも聞こえない

なるべくいつも通り話しかけて、 ソラの指示通り、隙を突いて奪って、 そのまま逃げる

演技なら、ボクの得意分野だ

やっぱり、ターゲットが 被っていたらしい

けどどういうわけか、 こっちの情報が漏れている

ソラには“ブラッド”が来るなんて 聞かされてないのに、あっちはボクが 来ることを知っていた

そう言うと同時に、 部屋のドアに向かっていったウィズ

……って、まずい、 このままじゃ逃げられる！！

何とか捕まえようとするけど、相手が 素早くて、上手く捕まえられない

そして嫌なことに、 台座のガラスケースをずらしたウィズ

＿＿直後、けたたましい警報が 屋敷中に鳴り響いた