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山野英真

……先輩たち、ほんとに部室にいるの?

山野英真

え、サボり?

鬼王篁

どうせ久留間先輩が言いだしたんですよ

鬼王篁

渋谷先輩、あの人には流されがちだし

鬼王篁

目つきは悪いけど基本的に真面目な渋谷先輩が

鬼王篁

自主的にサボるわけないんで

山野英真

鬼王くん、久留間先輩となにかあったの?

山野英真

ていうか、やっぱり敬語なんだね

山野英真

さっきは敬語、とってくれたのに

鬼王篁

あ、いや、これは

鬼王篁

……かなり意識しないと、タメ口になれないっていうか

鬼王篁

ちなみに、久留間先輩とは特になにもないです

鬼王篁

ただあの人、腹の底が知れないわりにヘラヘラしてるんで

鬼王篁

後頭部蹴り飛ばしたくなるときはありますけど

山野英真

それ、場合によっては致命傷だよ鬼王くん

山野英真

ていうか口調は、そっか

山野英真

やっぱりそっちの方が自然なんだね

鬼王篁

イヤ、ですかね

山野英真

ちょっと恥ずかしい感じがするだけだよ

山野英真

でもいつか、自然と敬語が取れてくれたら嬉しいな

鬼王篁

――そうですね

山野英真

お、お邪魔します……

久留間悟

あれ、ヤマちゃん

渋谷大

目ぇ覚めたのか

山野英真

あ、はい

山野英真

ご心配おかけしました

山野英真

ていうか、本当にここにいるとは……

久留間悟

この子にいろいろ聞かなきゃならなかったからね

久留間悟

じっちゃんにはナイショでよろしく

鬼王篁

バレてるに500円賭けます

久留間悟

ちょっと渋の字ぃ!

久留間悟

この子すぐに嫌なこと言うんだけどぉ!!

渋谷大

……え、覚悟の上じゃねぇの?

久留間悟

逃、逃がすわけにいかなかったんだから仕方ないじゃん……!!

山野英真

まぁまぁ、それはあとで分かることですし……

山野英真

それより

英真が不意に言葉を切り、肩身が狭そうに口を噤んでいた女子生徒を見る

穏やかでありながら、息が詰まるような緊張を強いる視線

それに射貫かれた女子生徒は、息を止めて身を強ばらせた

女子生徒

っ、あ……!

彼女に突如として襲いかかったのは、罪悪感だった

彼女が前回のお願いをお願いボックスに頼むその前から

この"よく分からない部活"がお願いボックスについて探っていることは

周囲の友人たちや、使った誰かの噂話からも知っていた

知っていてなおお願いボックスにすがったのは

まさかあんな事態を起こすと思ってもいなかったからだ

願いだけを見れば、彼女に後ろ暗いところなどない

もし突き止められたとしても、悪意がなかったことを伝えればいい

にもかかわらず、お願いボックスについて探っているまじもの研究会を

そして、ほとんど見知らぬ英真を異常なまでに恐れた

その理由が今はなぜか、まったく分からない

結果として、罪もない他人を突き落としたという恐怖と後悔が

彼女に呼吸困難を起こしかねないほどの罪悪感となって襲いかかっていた

その彼女を、ぼんやりと赤く光る英真の目が見つめ、やがて

山野英真

――よかった、なんともなさそうで

ただふにゃりと笑って、そう言った

発言に拍子抜けしたように、女子生徒の肩が落ちる

女子生徒

女子生徒

……それ、だけ?

山野英真

あ、えぇと

山野英真

ちょっと死ぬかと、思いました

女子生徒

え、あ、そうよねごめん

山野英真

もう誰にも、こんなことしちゃダメです

女子生徒

は、はい

山野英真

先輩たちに、詳しい話は全部話してもらえました?

女子生徒

うん

山野英真

じゃあ、これで終わりです。お疲れ様でした

責める気配が微塵も感じられない穏やかな口調のまま、室外へと送り出す

戸惑い気味に去って行く女子生徒を見送って

久留間は赤茶けた、クセの強い髪を見下ろした

久留間悟

ヤマちゃん、雰囲気変わったね

山野英真

鬼王くんにも言われたんですけど、そんなにですか?

渋谷大

そんなにだな

渋谷大

でも、堂々としてるのはいいことだ

渋谷大

……いいと思うぞ、そっちの方が

山野英真

へへ、ありがとうございます

山野英真

とりあえず彼女から聞いた話、教えてもらえますか?

久留間悟

もちろん、情報共有は大事だかんね

久留間悟

もうすぐ昼休みだな

久留間悟

渋の字、チャイム鳴ったらじっちゃん呼んできて

渋谷大

お前、たまには自分で呼びに行けよ

本田芙蓉

さて、進展があったと聞いたが

本田芙蓉

山野くんは、もう体は大丈夫かの

山野英真

はい、もうすっかり!

各自が弁当を広げた部室内は、すっかり昼食の雰囲気になっていた

それぞれ思い思いの弁当箱だが、渋谷と久留間に関しては巨大な重箱だ

風呂敷包みが2つも持ち込まれたときも二度見したが

そこから現れたのが三段重どころか四段重だったものだから声も出ない

おせち料理と見紛うばかりのその量に目がいくのを懸命に律し

英真は勤めて笑顔で声を張り上げた

本田芙蓉

ほうか、ほんなら良かった

本田芙蓉

さて、では話を聞こう

本田芙蓉

そこの二人は、あとで叱らにゃならんこともあるがの

渋谷大

ん゛っ!

久留間悟

ん゛ぅ゛っ!!

にこやかな本田の仕草に、弁当を掻き込んでいた渋谷と久留間の喉が詰まる

しかしなんとか飲み下し、覚悟を決めた様子で、久留間が口を開いた

久留間悟

え、えー……っと

久留間悟

陸上部の吉崎が負傷した事故の発端になったのは

久留間悟

やっぱりお願いボックスに投函された願い事でした

渋谷大

内容は、前にヤマちゃんが見たとおり

渋谷大

一回目の内容とかは――その

渋谷大

怪異のルールに反するから、あんまり詳しくは聞いてない

渋谷大

けど大会の日、吉崎、取材受けることになってただろ

渋谷大

あの子は吉崎が好きで、校外にライバルを作りたくなかったらしい

渋谷大

だから

鬼王篁

願いは『取材を受けられないようにして欲しい』とか?

鬼王篁

その結果が、電車のホームからの転落……

鬼王篁

確かに取材もなくなったけど、血の気がひいたでしょうね

鬼王篁

一歩間違えれば、人が死んでいたわけですから

本田芙蓉

……ずいぶんと極端なやり方をする

本田芙蓉

ここまで強引なやり方は、高名な縁切りの神しか知らんな

本田芙蓉

生まれたばかりの学校の怪異とは思えん

願い事からかけ離れた叶いかたに、思わず本田から低いうなり声が漏れる

そんな中で、英真が一つの疑問を口にした

山野英真

彼女、なんでオレを突き落としたんでしょう

久留間悟

本人も分からないって言ってた

久留間悟

突然、ヤマちゃんが一番ヤバいって思いついたんだって

本田芙蓉

天啓――いやこの場合、悪魔の囁きと表現すべきか

本田芙蓉

そやつはずいぶんと山野くんに

本田芙蓉

もしくは、憑いておる閻魔王に危機感を抱いておるのかもしれん

山野英真

オレに……

鬼王篁

閻魔様の神気でも感じ取ったんですかね

渋谷大

かもな

渋谷大

確かにこの子、最初に見た時点で、常人と違う感じあったし

英真はしばらく黙り込み、考える

しかしやがて、思い切った様子で視線をあげた

山野英真

……その件について、ちょっと話したいことがあるんです

本田芙蓉

ほう

本田芙蓉

それは今の君の状態にも、関係があるかの?

山野英真

……先生、なんでもお見通しなんですか?

細められた皺だらけの目元に、思わず苦笑が漏れる

山野英真

信じてもらえないかもしれないんですけど

山野英真

さっき意識を失っている間に、会ってきたんです

山野英真

――閻魔様に

本田芙蓉

……なるほどのぉ

本田芙蓉

ただ憑いておられるだけではなさそうじゃと思っておったが

久留間悟

まさか閻魔様の器とは

久留間悟

そりゃ罪も見えるってもんだよなぁ

山野英真

し、信じてもらえるんですか?

山野英真

突拍子もない話だし、てっきり

渋谷大

んなこと言ったら俺らの存在自体、突拍子もないしな

渋谷大

実際に罪が見えてるらしいことも確認済みなんだし

渋谷大

信じる要素しかねぇだろ?

無骨な手がくしゃりと英真の頭を撫でる

それをくすぐったげに受け入れ、英真は照れくさそうに頬を緩めた

そんな中、篁だけが困惑に顔を引きつらせる

鬼王篁

タメ口、ますますむずかしそうなんですけど

山野英真

そ、そうかもしれないけど

山野英真

今はほんとに、ただの!ただの人間だから!

山野英真

ちょっと前世の記憶らしきなにかがあるだけだから!

山野英真

対等で!!

鬼王篁

ただの人間にあるまじき要素しかないんですけど

鬼王篁

……でもそこまで言うなら頑張りますよ、俺も

鬼王篁

アンタ、面白いし

山野英真

そういうこと言うときだけ敬語取れるの?

雑な扱いこそが楽しいと言わんばかりに、ケラケラと笑い転げる

友人と呼ぶにはぎこちないが、確実にそこに近づいている様子に

久留間は食べ終わった重箱を片付け、静かに笑んだまま席を立つ

久留間悟

さ、じゃあ今のところは解散

久留間悟

放課後になったらお願いボックスに突撃かな

山野英真

鬼王篁

今からじゃないんですか

久留間悟

昼休み、半分過ぎてるしねぇ

久留間悟

長引いて5時間目までサボるかもって事態は避けなきゃでしょ

久留間悟

なわけで、HR終わったら理科棟の一階に集合ね

山野英真

理科棟?

山野英真

屋上に通じる階段があるのは、中央棟じゃ

渋谷大

もう一か所あったんだよ、知らない奴が多いだけで

鬼王篁

でも、理科棟の最上階は準備室ですよ

鬼王篁

階段もそこまでしかないし

渋谷大

って、思うよな

渋谷大

俺も聞くまで知らなかったし、驚いたけど

山野英真

――あるんですね、その先が

久留間悟

それは放課後確かめよう

久留間悟

ヤマちゃんの目に、どんな醜悪なのが見えるか楽しみだ
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コメント

5

ユーザー

ああ、最後が近付いてくる...(´;ω;`) え、お願いボックスに投函された願いってそんな穏やかなものだったの...? もっとなんかあの、凄まじい感じの、例えば“死 にそうな思いをさせてほしい”とかそんなやつかと... だとしてもなぜそんなふうに強い力(?)を持っているのか...もしかして、カタヅケ屋のラスボス的なアレ...?いやいやそんな訳... 次回も楽しみにしてます!

ユーザー
ユーザー

ラストに近づいて参りました 果たして25日0時までに最終話まで書ききれるのか……! ※25日がTELLERへの課金更新日

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