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西空ともり
西空ともりは今一度状況を確認する。
とりあえず、服は……着ているか。
髪も乾いている。シャワー自体をそもそも浴びていなかったのか。
次に時刻。
洗面台の横の壁に目をやる。天井には届かないものの、高いところに時計があった。
学校へ行く前に遅刻しないように、いつだったかに付けてもらったものだ。
まあ、結局その時刻を見てギリギリまで髪を直すようになったので、意味は無かったのだが……。
時計は一二時四〇分を指していた。
西空ともり
西空ともりは思う。
???
???
過去のこと、父のこと、母のこと、
山本紅里夢
友のことを。
西空ともり
西空ともりと扉の間に、一人の少女が立っていた。
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともりは少女の体をすり抜け、脱衣所を後にした。
廊下を出るとすぐに甘い香りがしてきた。
お母さんが昼食にパンケーキをつくると言っていたから、たぶんそれだろう。
さらに進み、リビング手前まで来てそれは確信へと変わった。
うん、パンケーキだ。
お母さんは甘いものをつくるとき、こうやって鼻歌を口ずさむ。
私が風呂場で歌ってしまうのも、こういうところの遺伝なのかもな。
西空ともりはそんなことを思いながら、玄関へと向かった。
ドアはほとんど閉まっていたし、足音も立てていないから気取られてはいないはずだ。
しかし、いざあと一歩というところまで来ると、西空ともりの胸が騒ぎ始めた。
玄関のドアはさすがに開けば音がする。
その瞬間にお母さんは走り出し、私を止めるのではないか。
実は既にバレていて、今も背後からお母さんは近づいて来ているのではないか。
どれも現実的な考えでないことはわかる。
わかるのだが、不安で仕方が無かった。
というのも、西空ともりは今日まで、親不孝というものをしたことがなかった。
むしろお母さんが仕事に出ている時には、自分で洗濯をし、夕食をつくり、掃除機をかけて――
すべての家事をすることも多い。
西空ともりが迷惑をかけたことなんて、せいぜい部活をすぐに辞めたことぐらいだろう。
中学一年のとき、漫画が好きというだけで美術部に入った。
だが、いざ筆を持ってみると、絵を描くことはたいして好きでないと気がついた。
他の同級生を見ても、そういう人は少なく、自分を除いて五人はいたと記憶している。
それで、みんなで辞めようという流れになり、西空ともりも便乗した。
本音を言うと、友人ができればそれでよかったのである。
しかし、その部活引退後は五人での交流はなくなり、友人にはなれなかった。
いや、向こうは友人と思っていた可能性はある。
他クラス交流体育――確か創作ダンスと記憶している――で五人のうちの一人と同じグループになった。
そこで「おお、ともりじゃん!」とは言われたので可能性はある……。
可能性は……ある……はずだ……。
西空ともり
西空ともり
西空ともり
深呼吸をした。
西空ともり
こんなにも様々な思考をしておいて、
西空ともりは最も危惧しなければならないことを忘れていた。
今、外の気圧は下がっており、この扉は強い力で開けられる。
そして、風や雨は強く、その音はリビングまで聞こえるはずだ。
扉を開けた時の感触で、西空ともりは気圧やそれらをやっと思い出す。
続いて、だがもう遅いと思い、次には晴れやかな未来を思った。
白馬に乗った誰かが、自分を連れ去るような未来。二人だけの秘密基地へと行く未来。
そう思えたのは主に日の光のせいである。
外は晴れていた。燦々と光っていた。
西空ともり
山本紅里夢
西空ともり
山本紅里夢が待っていた。
西空ともり
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
西空ともり
山本紅里夢
西空ともり
山本紅里夢
山本紅里夢
西空ともり
西空ともり
西空ともり
山本紅里夢
指を振りながら舌を鳴らした。
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢はそう言い、歩き始めた。
西空ともりは慌ててそれを追う。
西空ともり
西空ともり
西空ともり
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
西空ともり
西空ともり
西空ともり
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
西空ともり
山本紅里夢
山本紅里夢は駅前、居酒屋の並ぶ通りに入っていく。
普段はどの時間帯でも人のいるこの通りも、台風直撃ということで、がらりと静かになっていた。
酒の匂いも雨に消えている。
そして……この例えば適切ではないのだろうが、
ゲームのNPCのように道端に座った人がいた。
その一人だけは、まるで空から槍が降ろうとも、そこから身動き一つしないかのような。
そんな妙な空気を纏っていた。
西空ともりは一目見た瞬間に、その人こそが"ある人"なのだとわかった。
山本紅里夢は、この家出のためにここまでの覚悟を決めたのか。
「ならば私も……」と、西空ともりは思う。
近づいて行くと、さらにこの人は男だということもわかった。
髪が長くて目に掛かっている、鼻が高い。髭は何ミリか、まだらに伸びている。
ここ数日剃れていないようだ。まだらな伸び方からは、質の低い剃刀を使っていることも伺えた。
一歩、一歩と進むたびに空気は重くなる。
西空ともりは初め、この男をNPCと喩えるのは適切ではないと考えていたが、
それはある意味では正しかった、と考えるようになった。
人の消えたこの通りで、なぜこの男だけが残ったのか。
この男はもはや、この通りの一部であるからだと気づいたためだ。
よく見ると、男は何かを呟いていた。
雨で聞こえないほどの、ほんのわずかな声であるが、そこに西空ともりは確かな哀しみを感じた。
男は待っているのだ。台風が過ぎ去り、この通りに活気が戻る日を。
西空ともり
と思ったその時、山本紅里夢はその人の手前で曲がり、別の道に入った。
山本紅里夢
山本紅里夢
西空ともり
山本紅里夢
西空ともり
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
西空ともり
西空ともり
西空ともり
西空ともり
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
何かを久美子さんに手渡す。
西空ともりは、久美子さんがそれを手元で広げるまで、それが何なのかわからなかった。
西空ともり
山本紅里夢
山本紅里夢
西空ともり
西空ともり
山本紅里夢
山本紅里夢
西空ともり
西空ともり
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
西空ともり
西空ともり
山本紅里夢
山本紅里夢
西空ともり
山本紅里夢
西空ともり
西空ともり
山本紅里夢
久美子さんが歩き出したので、二人もその後ろを追って歩いた。
駐車場が見えたところで、久美子さんの足が止まる。
そして、思い出したように言った。
西空ともり
山本紅里夢
ともりと紅里夢は目を合わせる。
お互いに丸い目をしていた。
西空ともり
山本紅里夢
西空ともり
西空ともり
山本紅里夢
山本紅里夢
久美子さんはそれだけ言った。
二人は足を止めて、久美子さんから距離を取る。
山本紅里夢
西空ともり
山本紅里夢
山本紅里夢
西空ともり
西空ともり
山本紅里夢
西空ともりは、紅里夢の手を強引に握る。
紅里夢から見て、ともりはその時無言で、頬や耳を赤くしていた。
西空ともり
西空ともり
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
二〇四六年には既に、八〇歳以上の運転免許返納は義務付けられていた。
そのうえで、久美子さんはたった五万円で、犯罪の片棒を担いでくれた。
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
山本紅里夢
コメント
1件
お疲れさまです、寺島あおいです🤍 第29話、読み終えました。 ともりと紅里夢ちゃん、ついに家出を決行するんですね。扉の前で迷うともりの心情が細かく描かれていて、本当に切なかったです。「親不孝をしたことがなかった」という一文に、彼女の生真面目さと優しさが詰まっていて胸が締め付けられました。 でも紅里夢ちゃんとのやり取りは相変わらずの掛け合いで、特に「言ってみたかったセリフ言えたー!」の連続には思わず笑顔に。彼女の明るさが、この暗い状況の中でちゃんと光になってるのが好きです。 そして久美子さん……84歳で彼女たちの逃亡を助ける。しかも「マシュマロを孫に振る舞いたい」という一言で、一気にあったかい空気になりました。家出という逃げの先に、また新しい「家族」みたいな関係が生まれる。この皮肉だけど優しい展開が、とても響きました。 最後の「私はずっと一緒にいるよ」――紅里夢ちゃんが言うこの言葉が、今回の話で一番沁みました。