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鳥籠の中の小鳥

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鳥籠の中の小鳥

1 - 1羽 記憶の断片

♥

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2025年05月29日

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手から、腕から、背中から、冷たくて固い感触が伝わってくる。

俺は…寝転がっている?身体が動かない、指1本動かない。

…つ……だけは……

……に……ろ…

頭の中で声が反響する。

声は途切れ途切れで、発声している男の顔にはもやがかかっている。

気づいたら俺は走り出していた。さっきまで動かなかった筋肉が必死に動いている。

しかし、十数メートル走ったところで転んでしまった。体を冷や汗が伝う。

そして…

…っは!?

気づいたら俺は病室の寝台で眠っていた。

隣で機械の心電図が電子音を奏でている。そんな音を呑気に聴きながら先程見ていた夢を思い出す。

俺はどこにいた?あの男は誰だ?なぜ走った?その後何が起こった?

…何故だ、考えれば考えるほど頭から抜けていく。

男の声も、男の容姿も、床の冷たい感触も…

……俺自身の事も。

俺はなぜここで寝ている?俺はどうやってここまできた?俺はいつまで寝ていた?

…俺って…誰だ?

俺、俺、オレ、ボク?ボク?おれ?

なにも、わからない、頭が、しろく…

…気絶しそうになった瞬間、病室へと大きな足音が近づく。

…はぁー。

着いた瞬間、その人は大きなため息を着いてぐったりしていた。

麗、意識が戻ったんだね…

目の前の男がそう俺に言う。…麗?おそらく俺のことだろう。

あぁ愛しの麗、よかった…

…ところで、貴方、は?

…ボクの事"も"忘れてしまったのかい?

ふふ、なら仕方ないね…

ボクは"籠(かご)"。君の恋人さ。

…ああそう。恋人なのか。

……は!?こんな!?男が!?恋人!?

うぅ、ボクの事も忘れてしまうなんて…

まぁ、これからたっぷりお世話してあげるからね。

そして、たぁっぷり、ボクのこと思い出させてあげる…♡

そして、男がこちらへと近づき、俺の唇にキスをする。

…んむっ!?

…ふふ、午後になったらもう1回お迎えに来てあげる。

それまで寂しくなっちゃうだろうから、おまじないのキスだよ。

そう言い、キスした後の俺の唇をれろ、と軽く舐めとる。

…美味しいね。それじゃ。

…は?

己の唇を指でなぞる。籠の唾液がまだ残っているようだ。

記憶の抜け落ちた脳、見知らぬ男…

俺、どうなるんだ…?

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