聞こえない

今日はTOP4の撮影日

いつもより早く起きた俺は

スマホ画面を覗き込んで

少し引っ掛かりを感じていた

俺のよく知る彼の名前

グループLINEでの1文だった

うっしーの言葉で気づいた

確かに、レトさんの家で

動画を撮ることにはなってたし

ゲームもレトさん家にある

最早どうしようもない状態だ

いつも声で話してるせいで

文字を打つのを諦めた俺らは

今日どうするか、を軽く話した

結果、看病することになった

うっしーがなんか言ってるけど

それは聞かないことにする

ガッチさんの問いも

聞こえなかったことにする

ｶﾁｬ

俺とうっしーの雑談を無視して

ズカズカと歩くガッチさん

毎日のように来てるせいで

最早第2の自宅みたいなもんだ

寝室にでもいるのかと思ってて

一応…と見に行ったリビングで

普通に座っててびっくりした

他の部屋を見終わった2人も

合流して驚いたような声を出す

うっしーの言う通りだと思う

長所でもあり短所でもある所

諭すような優しい話し方に

レトさんは困ったように笑う

ガッチさんがいつもの適当

じゃなく、年相応の

優しい声で聞きだしてくれる

でも

来て欲しくないとか、

そんなんじゃないと思って

そう言っても困った表情で

笑うレトさん

自分で言っておいて

違うというのはよくわかった

止める間もなく

用意をして玄関へ向かう2人

喋れないレトさんと二人になる

パッと自分のスマホを手に取り

文字を打つ

俺の考えてることが

当たっていなければいいのに

喋れないんじゃなくて

聞こえてないんだよね？

スマホのメモにうった文字を

ずい、とレトさんに見せる

レトさんはハッとしてから

また困ったように微笑んだ

悲しそうな顔で

一言一言喋ってくれる

まだ喋れるだけ助かる気もする

なんでそうなったかとか

分かることある？

首を傾げ頬を掻くレトさん

もうお手上げ、と言うように

両手を上げて困ったように笑う

レトさんに見せられた画面は

俺が昨日あげた動画

そっか…それは災難だな

わざと明るく振る舞うレトさん

俺が直せる訳でもないのに

するり、と口から抜け落ちて

それは俺の本心だったと思う

普通の人でも

耳を済まさなければ聞こえない

それくらいの声で呟いた

実際

俺はレトさんを追ってはじめた

だから、レトさんを追って

実況を辞めるのは

悪くないんじゃないか、と思う