無陀野無人
四季、少し話がある

一ノ瀬四季
?

無陀野無人
…腕を見せろ

一ノ瀬四季
…え?な、…何で?

無陀野無人
……見せられない理由でもあるのか?

一ノ瀬四季
…ぁ…。い、や……

無陀野無人
花魁坂から話は聞いている

無陀野無人
任務で仲間を庇って負傷したらしいな

無陀野無人
傷はまだ治らないのか?

一ノ瀬四季
…治ってきてる……けど

一ノ瀬四季
…まだ、全然…。結構深かったみたいでさ…(笑

無陀野無人
笑うな

一ノ瀬四季
…!

一ノ瀬四季
ごめん……

一ノ瀬四季
…でも、何でそんな怒ってんの…?俺怒られるような事した……??

無陀野無人
前にも伝えたはずだ。自分の身体は大切にするべきだと

無陀野無人
お前は自己犠牲がすぎる。仲間が負傷しそうになる度にお前が庇っているだろう?

一ノ瀬四季
仲間助けんのは当たり前の事じゃん…

一ノ瀬四季
それに俺…、仲間が目の前でやられんのは嫌だよ

一ノ瀬四季
…それなら、自分が怪我した方が幾分か良い…!

無陀野無人
……は?

一ノ瀬四季
…ッ゙。

一ノ瀬四季
…悪ぃけど、これに関しては意見曲げるつもりねぇぞ

一ノ瀬四季
俺は仲間を守れればそれで良い…!!

無陀野無人
自分が死んだ後でも同じ事が言えるか?

一ノ瀬四季
言えるよ

一ノ瀬四季
仲間を救えんなら俺はどうなってもいい

無陀野無人
……

一ノ瀬四季
…ッ゙、ぇ……?

無陀野無人
いい加減にしろ

無陀野無人
…庇われて置き去りにされる人間の気持ちを考えた事があるか?

無陀野無人
それは地獄そのものだ。…一生そいつの死を背負って生きていく事になる

無陀野無人
その相手が自分にとって大切だった分だけ深く傷つき、最悪の場合命を絶つ者も少なくない

無陀野無人
…履き違えるなよ?そんなのただの自己満足だろ?

無陀野無人
お前が命を懸ける必要は無い

無陀野無人
……お前は自分の立場をまるで分かってない

無陀野無人
子供は大人に守られながら生きていくものだ

無陀野無人
お前が死ぬくらいなら俺が死ぬ

一ノ瀬四季
…は……?

無陀野無人
お前と言っている意味は同義だぞ?

無陀野無人
これで少しは言葉の重みが分かったか?

一ノ瀬四季
…っ゙…何でそうなんだよ…!!

一ノ瀬四季
ムダ先が死ぬ必要ねぇだろ…!

無陀野無人
俺もさっきからそう言っている。お前が死ぬ必要は無いと

無陀野無人
…俺がどんな気持ちでお前の言葉を聞いていたのか、少しは理解出来ただろう?

一ノ瀬四季
…ッ゙、理解出来た…けど

一ノ瀬四季
けど……、仲間が傷つく所はやっぱり見たくねぇんだよ…っ゙……

無陀野無人
だったら何故己が盾になる事しか頭に浮かばない?

無陀野無人
誰も死なないよう強くなる。そんな理想的な考えがお前にはないのか?

無陀野無人
四季。何度も言うがお前は自己犠牲がすぎる。

無陀野無人
お前が父親を失った後、俺がお前に何を言ったか覚えてるか?

無陀野無人
経験を無駄にする非合理的な馬鹿になるなと言ったんだ。

無陀野無人
お前のエゴやモラルは目の前で誰も死なない事なんだろ?

無陀野無人
だったら強くなれ

無陀野無人
自己犠牲なんて誰も得しない馬鹿な手段は選ぶな

一ノ瀬四季
……ごめん

無陀野無人
俺も悪かった

無陀野無人
…痛むか?

一ノ瀬四季
ううん、大丈夫!

一ノ瀬四季
…元はと言えば俺が悪ぃんだし……。こっちこそごめんな、ムダ先

一ノ瀬四季
傷つけるような事言っちまって……

無陀野無人
…だからって手をあげるのは俺が未熟だからだ。すまない

一ノ瀬四季
大丈夫!

一ノ瀬四季
俺の為だって分かってるから!

一ノ瀬四季
…それから、ムダ先ってやっぱ優しいよな

一ノ瀬四季
いつも仲間の事を第一に考えてる

一ノ瀬四季
凄ぇ人情深ぇとこは昔から変わんねぇよな

無陀野無人
俺は優しくない。当たり前の事を言ってるだけだ

無陀野無人
…多かれ少なかれ、誰かの命が無差別に奪われる事は俺のモラルに反する

無陀野無人
例え見知らぬ人でも、死んだ報告を受けるのは気分が良くなるものではないだろう?

一ノ瀬四季
おう

一ノ瀬四季
…もうこれ以上、無差別に命が奪われねぇように強くなるよ

一ノ瀬四季
ムダ先

無陀野無人
何だ?

一ノ瀬四季
…俺、ほんとはさ

一ノ瀬四季
鬼に生まれたこと、後悔してたんだよ

一ノ瀬四季
鬼ってだけで殺されそうになるし、大事な物何もかも奪われて、こんなのおかしいだろって…

一ノ瀬四季
でも、ムダ先に会ってからは違ぇ

一ノ瀬四季
…親父が死んで、これからどうすればいいかも分かんなくなってた俺を救い出してくれた。…皆そうだよ

一ノ瀬四季
皆、ムダ先に救われてんだ

一ノ瀬四季
…俺、ムダ先には絶対死んで欲しくねぇ

一ノ瀬四季
何かあったらすぐ呼んでくれ。…俺が絶対ぇ強くなってムダ先を守るから

無陀野無人
…!

無陀野無人
期待してる

一ノ瀬四季
おう!!

無陀野無人
四季

一ノ瀬四季
ん?

無陀野無人
…死ぬなよ

一ノ瀬四季
ムダ先置いて死ぬ訳ねぇだろ?

一ノ瀬四季
自分も相手も両方救って勝つって言ったじゃん

一ノ瀬四季
今考えた俺の信念だ

無陀野無人
…それは夢物語すぎる気もするが、悪くないな

一ノ瀬四季
ムダ先がそうしろって言ったんだろ?

無陀野無人
そうだったな

出会いあれば別れありと言うように、手に入れた瞬間から失う事が全ての事に平等に与えられる
どれだけ願っても、手を伸ばしても…もう絶対に叶わない夢や願いだってある
どうせそうなら、暗い過去に縋り付いて生きるより、その経験を活かして誰かの幸せを守る方が幾分か素敵だと思った
無陀野無人
…?!

一ノ瀬四季
ふはっ(笑

一ノ瀬四季
ムダ先もそんな可愛い顔すんだ…(笑

無陀野無人
チュ)

一ノ瀬四季
ん゙…ッ?!

無陀野無人
ペロ…)

一ノ瀬四季
…ッ゙/(ビクッ

無陀野無人
あまり大人を揶揄うなよ?

一ノ瀬四季
(…これが大人の色気ってやつか……///)

この先、例えどんな苦境に立たされようとも、絶対に鬼が少しでも生きやすい世界に出来るように闘い続ける
このありきたりでごく普通の幸せを奪われない為に__。