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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

ぼんやりと、視界が霞んでいる。

目の前には芥川がいる。

愛おしそうな笑みでこちらを見ている。

……芥川はそんな顔をしない。

一度たりとも、そんな顔は見たことがない。

だから、そう。これは、夢の中だ。

芥川龍之介

芥川は敦を『敦』とは呼ばない。

人虎、白虎、または貴様。

だから、本当にここは夢の中なのだ。

芥川龍之介

少々、時間が余ってしまったな。

芥川龍之介

素早く任務を遂行できたのは、敦が居てこそ行えたことだ。

芥川龍之介

……感謝する。

目を細めて、愛おしそうに敦の頭を撫でる。

細くて華奢でどこかへ飛んでいきそうな白い腕が、今、敦に触れている。

体の底からふつふつと喜びが舞い上がっていく。

死んでも向けられることはないと思っていた笑顔に、

言葉に、

行動に、

優しさに、

芥川を好きだという思いがまた舞い上がって、

嬉しくなって、

泣きそうになって、

唇を、強く噛む。

芥川龍之介

……敦、貴様は己の体を傷つけるのが、そんなにも楽しいのか?

芥川の親指が、敦の頬に触れ、下唇を拭う。

瞳には心配そうな色が潜んでいる。

芥川龍之介

もしそうであれば、その際は僕に申し出ろ。

芥川龍之介

貴様を傷つけていいのは僕だけだ。

芥川龍之介

そうでないなら、そんなくだらぬことは辞めろ。

芥川龍之介

僕には貴様を守る義理がある。

 弾けてしまいそうだった。

留めていたこの鮮やかな感情が、堰を切って弾けてしまいそうだった。

好きだ。

愛してる。

何があっても慕う自信がある。

いつか言いたいと思って、用意していた言葉が鮮明に浮かぶ。

ここが夢でなかったら、きっと言うのを躊躇っていたけれど、

夢なのだから少しくらい、ほんの少しくらい強欲になってもいいだろう。

中島敦

……龍は、僕のこと、どう思ってる……?

鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をした。

だけどすぐに持ち直して、

芥川龍之介

貴様からの好意から始まったとしても、僕は貴様の恋人だ。

芥川龍之介

なんの理由もなく、貴様の恋人にはならぬ。

芥川龍之介

……貴様こそ、僕のことをどう思っているのだ。

嬉しくて、嬉しくて。

今までの切なかった気持ちが反転して、

その反動で今すぐにでも芥川を抱きしめて、愛でも、叫んでしまいたかったけど、ぐっとこらえた。

だけど、今までの思いすべてを止めることはできず、

思わず、芥川の手を握ってしまった。

芥川は驚いたような顔をしていた。

中島敦

……好き、ずっと、好き……

中島敦

ずっと好き!

中島敦

ずっと、出会った時から、龍のこと、好き……

中島敦

全部好き、全部好きなんだよ……

中島敦

だけど、お前は、僕を……愛してくれなかった……

 栓が緩んだせいで涙が溢れ出した。

自分ですらも、涙が溢れるなんて思いもしなかった。

また、芥川を困らせてしまう……

だけれど、夢の中でそれは杞憂だった。

芥川は強く、敦を抱きしめたのだった。

芥川龍之介

……なにをふざけたことを……

芥川龍之介

僕が、いつ貴様を愛していないなどと云ったのだ……

芥川龍之介

ただ、貴様が愛おしくて、どうすれば良いか、わからなかったのだ……

芥川の体温が伝わる。

 はっと、目が覚める。

そこには芥川は居らず、自分のお風呂場だった。

ずいぶんと長湯していたせいで、めまいがする。

少し冷水にあたってから出ようと、ゆっくり体を起こした時、

ふと夢の中の芥川を思い出した。

初めて、芥川に抱きしめられた。

初めて、思いを聞けた。

心が、通じ合った。

思い出すたびに切なくなって、涙がぽろぽろ流れていく。

芥川を思う気持ちが、こんなにも募っていく。

こんなにも好きになっていってしまう。

中島敦

……龍……

人を愛することがこんなにも辛いなんて、思ってもみなかった。

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