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「ごめんね。今日の予定、行けなくなっちゃった。」 1つのメッセージが桜のスマホに表示される。 そのメッセージを見た途端、桜は肩を落とした。布団から起き上がろうとしていた体をもう一度布へと埋め込み、 はぁ、と1つため息を着く。

画面が暗くなったと思ったスマホから、ピロンという音と共にもう1つのメッセージが入った。 布団へと放り投げてしまったスマホを手繰り寄せ、届いたもう1件のメッセージを確認した。

「本当にごめんね、埋め合わせは今度絶対にするから。」

文章からも申し訳なさが痛いほど伝わってきて、桜には怒る気も起きなかった。 今週の週末。カフェにでも出かけようと提案してきたのは蘇枋だった。 その雰囲気がデートに行こう。そう言っているようで、桜は顔を赤くしながら蘇枋を突っぱねていた。

それでもなんだかんだは楽しみにしていて、昨日も、この日が楽しみで寝るのが少し遅くなってしまったくらいなのだ。 それなのに当日の朝から、 このメッセージ。 桜の気分はどこか下がってしまい、やる事もたった今全てなくなってしまったので、いっその事もう一度眠ってしまおうかとすら考えた。

...寝れねぇ。

先程のメッセージに、あの蘇枋がと驚いてしまったのか、 先程まで微睡んでいた瞳は、見事に覚醒してしまっていた。 蘇枋が当日、しかも急に来れないと連絡を寄越すのは初めてだったからだ。

散歩にでも行くか。

もう一度眠る事を諦め、 そこら辺に乱雑に置いてあった黒いパーカーを白いTシャツの上から羽織った。

散歩っつっても、どこまで行くかな...

行きたい場所も、行く場所も特に無く、足の進むままに景色を楽しみながら進んだ。 小鳥が小枝に飛び乗り、木の実を突ついている様子や、 絵の具で塗りたくった様な青い空に浮かぶ雲の流れるをじっくりと見つめる。

桜に気がついた小鳥達は、 小さな翼を広げ飛び立って行った。 その光景を見て、 少し昔の事を思い出す。

あの頃は、お前らが羨ましかったな、ちょっと羽を広げただけで飛び立てて、

どこにでも行けて、

それがどうしようもなく綺麗で、 自由で、羨ましくて。 プレハブ小屋の小さな窓から、ずっと小鳥を見つめていた。 あの小さな空間から、 俺はにげだせあのだろうか。 1歩、踏み出せはしたのだろうか。

なんか、急に蘇枋に会いたくなってきたな。

口が裂けても、こんな事言ってはやらないけれど。 自然大きこの場所を離れ、 桜が向かおうとする場所はただ1つ。

少し遠くまで歩いてしまった所為か、ここまで来るのに多少時間が掛かってしまった。桜が商店街に着く頃には、すっかり当たりは夕焼け色に染まっていた。 相当な時間歩いたのか、 ふくらはぎ辺りが少しだけ痛い。

人々が流れる様に商店街を行き来する中、桜が目にしたのは、 暗い赤色のサラリと風に揺らされた髪の毛。それにはよく見覚えがあったから。 目が離せない。

すおっ、

思わず小さく声が漏れる。 こんなに距離が離れていれば、 聞こえているわけが無いのに。 それでもその後ろ姿は、 くるりと桜の方へと振り向いた。 よく見知った赤い隻眼が、 桜の姿を凝視した。

その瞳が大きく丸々と広まり、 びっくりした様な表情をする。 前へと進めていたはずの歩を1度止め、 桜の方へと人をかき分けて小走りで駆け寄ってきた。

蘇枋

桜君?こんな所でどうしたの?

まさか俺に会いたくなっちゃった? そう言う赤い隻眼は細められ、完全に桜を揶揄っている。 それでも図星を突かれた桜は、 一言も話すことなく、頬を赤く染め 蘇枋から視線を逸らした。

蘇枋

まさか、図星だった?

そ、そんな訳ねぇ!!!

蘇枋

ふふっ、そっかぁ、違ったかぁ~

ニコニコ甘ったるい笑顔を浮かべる蘇枋。どこかその言葉は思ってもいない事を話している様で、 蘇枋をガシガシ手のひらで軽く殴った。

蘇枋

痛い痛い。

嘘つけ。ホラ吹き野郎。

不貞腐れた桜の頬をムニムニと揉みながら、蘇枋は笑みを深くする。 今この瞬間が幸せだと言わんばかりの蘇枋の表情に、桜の恋愛センサーがビビッと反応した。

蘇枋

それで、桜君はどうしてここに?

散歩。お前にドタキャンされて暇になったから。

蘇枋

うっ、それは本当にごめんね...

仕返しと言わんばかりに 今日の事を刺激してやると、 蘇枋は顔を顰めて、本当に申し訳なさそうな顔をして見せた。 今回のことはこれで許してやろう。 桜は蘇枋にとことん弱いのだ。

で、それはいいけどよ、

お前こそなんでここにいんだよ。

蘇枋

俺は用事の帰りだよ。

ニッコリと急に胡散臭い笑顔を貼り付けた蘇枋に、本当かよ。とすら疑ってしまう。これ以上このことについて喋る事がないのか、 蘇枋は砂糖をドロドロに煮詰めた様な甘い表情をしながら、桜の片手に指を絡めた。

蘇枋

今日はこんな時間だし送っていくよ。

はっ!?べ、別に1人で帰れるしっ!!

急に蘇枋との距離が近ずき、 桜が猫の様に飛び退いた。 それでも絡められた指は、蘇枋によって固く繋がれていて、離される事はない。

蘇枋

うーん。やっぱり嘘。俺が君と一緒にいたいんだ。

蘇枋

もっと、沢山ね。

せっかく会えたのも運命みたいで、更に離れがたくなっちゃった。 そういう蘇枋の頬は、どこかほんのりと赤く染まっていて、 桜の顔は、それよりもずっと、もっと赤く染まりきっていた。

蘇枋

ダメ...かな。

桜よりも少し高い身長を、少しかがめ、わざと上目遣いをする様にこちらをじっと見てくる蘇枋。 その視線がとても熱くて、 見つめ合うだけでも恥ずかしくて、 先に視線を逸らしたのは桜だった。

し、知らねぇっ!!勝手にしろ!

蘇枋

うん。ありがとう。

ニコリと愛しい恋人を見つめ、優しく笑う蘇枋に、桜は終始顔が赤いままだった。手からほんのり伝わる温もりに、どこか冷めていた心まで温かくなる様な気がした。 あぁ、今日こいつに逢えてよかったな。

桜が微かに、蘇枋の手を握り返した。

星降る涙を掬いたい。

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