元貴とパートナーになって、早くも二ヶ月が過ぎていた。
菊池さんから聞かされた時は、最初全然理解が追いつかなくて、信じる事が出来なかった。 それでも、電話口から聞こえる切羽詰まった声と、苦しそうな呼吸音が微かに聞こえ、急いで指定された場所に行くと、サブドロになっている元貴が居て、先程聞かされた事は全部現実の事なんだと理解した。 嘘なら良かったのにと言う気持ちと、こんな状況なのに、元貴がSubだと言う事を喜んでいる自分が居て、嫌気がさした。 ただ、その時は、元貴がおれじゃない誰かとPlayをしたと言う事実に、そんな事を思う立場でもないのに、理不尽に腹が立ち、Glareを抑える事が出来なかった。 その後は、緊急事態だったとしても、ただ怒りに任せCommandを発し、元貴のコントロール権を奪い酷い事をしてしまった自覚はあったが、元貴が気絶するように眠りについた後も、おれは、酷い事をしたと言う思いよりも、Domとしての支配欲が満たされているという思いの方が大きかった。
元貴を綺麗にしてベッドに寝かせ、すやすやと眠る元貴を見つめながら、元貴がSubだったら良かったのにと思い悩んだ日々を思い出した。 ダイナミクス検査を受けた時、自分がDomだと判明したが、正直、薄々そんなような気もしていたから特に驚きはなかった。 むしろ、元貴がNormalだった事の方が衝撃で、何となくだけど、本能でなのか、元貴はSubだと思っていたからだ。
おれはサッカーと音楽の事しか考えていない時からずっと元貴に思いを寄せていた。 そして、おれはDomで元貴はSubだと思っていたから、これは運命なんだとさえ、幼い自分は思っていた。 だけど、元貴に聞かされたダイナミクス検査の結果はNormal。 DomはSubと一緒にと言うのが当たり前だったし、Domの性質を考えるとその方がいいのは自分でも分かっていた為、ダイナミクスと言うどうする事も出来ない運命に、おれは絶望した。 それでも、元貴の側に居たいと言う気持ちに嘘は付けず、どんな形でもと言う思いで、一度は解散したが、また元貴とバンドを組み、バンドメンバー兼、親友と言う立場になり、おれも時が経つにつれて、受け入れられるようになっていた。 それは、大人になるにつれ、ダイナミクスを持つ者と、そうではない者が一緒になるのがどれほど難しいかと言うのを周りの話で思い知ったのもあるし、基本的に抑制剤を使っているとは言え、自分の中にあるDomの欲を発散したい衝動に駆られる時もあったからだ。 ま、おれがDomじゃなかったとても、おれの想いを元貴が受け入れてくれるかどうかは分からないんだけども... それでも、伝える事すら出来ない想いは、自分の気付かないうちにストレスとして溜まっていく訳で、本当にどうしようもなくなった時はPlayをする時もあった。 少しは発散出来るものの、根本的なものは何も解決していないのだから、いつもどこか満たされない気持ちでいたのに、あの日、元貴にCommandを発し、それに元貴が従った瞬間、驚くほど満足感に満たされた。
やっと、望んでいたものが手に入った。
Play中、そんな自己満足でしかない感情で支配された。 そして、今まで我慢していたものが溢れ出し、させなくてもいい事まで... 戸惑いながらも、Subの欲求に勝てず悦に入った元貴のあの顔は、誰にも見せたくないと思った。 おれだけのモノにしたい。 絶対に手離したくない、と。
次の日の朝、元貴とパートナーにならないかと話した時、本当は一番大事にしなければいけない事を、元貴の一瞬の沈黙に怯えたおれは、それを隠して、それっぽい理由を並べ言葉巧みに元貴から了承を得た。 元貴とのPlayは、やはり今まで感じた事の無いほどの満足感を得る事が出来た。 2回目からは、きちんとSafe wordを決めたのに、元貴はどんな命令にもSafe wordを言う事はなく、おれは少しずつどこまでなら受け入れて貰えるのか試すようになっていった。 際どい命令も、戸惑い、恥ずかしながらも受け入れてくれる元貴に、もしかしたら、おれの元貴への想いも受け入れてくれるのではと期待するようになった頃、涼ちゃんと2人で親しげに話している元貴を見かけて、心がザワついた。 2人の光景は、至って普通の光景なのに、以前は涼ちゃんとPlayをしていたと聞いていからか、涼ちゃんに嫉妬している自分がいた。 涼ちゃんに向ける元貴の笑顔にもイラつき、その夜おれは、一線を越えてしまいそうになったけど、あと一歩のところで踏みとどまったのは、理性が働いたとかそんなまともな理由ではなくて、嫌われる事への恐怖からだった。
いつからだろう。 元貴への想いが歪み始めたのは。 前は純粋に元貴の事が好きだったのに、今は嫉妬や焦り…黒い感情でいっぱいだった。 ここ二ヶ月、元貴にしてきた事は、全て元貴の気持ちを無視した行為で、こうした行為をしたところで、元貴の心は手に入らないのに、自分勝手に苛立ち、それを元貴にPlayと称してぶつけていた。
Subの弱い立場を利用して。
元貴がおれの命令を従う度に、おれの中のDomは喜び、その反面、おれの心は蝕まれていくのに、やめる事が出来ない。
もう、戻れない所まで来てしまったのだろうか...?
コメント
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うえっへへぇ〰️
こんにちは! 毎回すっごく楽しみに更新待ってます✨️ ツボなお話しをいつもありがとうございます〜🍀