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その週の○○は

少しだけ息をつく暇がなかった

カフェの新メニューも好評で

客足が途切れず

気がつけば洗濯物が山のように溜まっていた

〇〇

洗濯しないと

そう思い電源ボタンを押すが

〇〇

あ...そうだった

洗濯機は壊れたままだった

〇〇

はー...

ため息をひとつ

夜の街は静かで

コンビニの明かりだけが眩しい

○○はトートバッグに洗濯物を詰め込んで

近くのコインランドリーへ向かった

中は蛍光灯の白が冷たく放っていて

乾燥機の回る音だけが響いていた

国見の姿はなかった

〇〇

まぁ...そっか

少しほっとして

少しだけ寂しい気持ちもした

洗濯機にコインを入れて

ソファに腰を下ろす

スマホを手に取ったまま

気づけば目が重くなっていく

○○はそのまま目を閉じた

数分後

コン...という小さな音で目を覚ますと

人一人分開けた隣に国見さんが座っていた

パーカーを着てフードを被っていたが

国見さんだった

組んだ足にスマホを置き

無表情のまま画面を見つめている

〇〇

...びっくりした

〇〇

いなかったのに

不意にそんな言葉が溢れた

国見

乾燥機

国見

順番待ちです

国見

さっき来ました

そう言ってスマホをポッケに入れた

○○は少し髪を整えながら

洗濯機の回る音を見つめた

〇〇

...あの

声をかけたのは○○の方だった

〇〇

待ってる間

〇〇

よかったら

〇〇

お茶でもどうですか?

国見は僅かに目を上げた

国見

お茶ですか

〇〇

はい

〇〇

近くに夜までやってるカフェがあって

とだけ○○が言うと

国見はふっと息をつくように立ち上がった

〇〇

え...

国見

なんですか

国見

行かないんですか?

〇〇

あ、行きます

○○は急いで荷物を持ち立ち上がった

自動ドアの前で

ほんの一瞬

彼が○○の方に視線を向けた

その横顔がどこか懐かしく思えて

胸の奥が痛くなった

乾燥機の中では

また白いシャツが回っていた

駅近くの小さなカフェ

ガラス越しに外を眺めながら

○○は手元のカップを指でなぞる

国見がココアをひとくち飲むと

国見

夜のコインランドリーで寝るのは

国見

やめた方がいいですよ

不意にそう言った

ぶっきらぼうだったけど

それが心配から来ているのがわかった

○○は少し笑ってミルクを混ぜた

〇〇

最近ちょっと忙しくて

〇〇

気をつけます

少し笑いながら言った

国見

...みたいですね

〇〇

え?

○○は驚いて国見の顔を見た

国見

お店

国見

通りかかると

国見

いつも人でいっぱいなんで

それだけ言って国見さんは外を見つめた

〇〇

...来てくれればいいのに

と小さな声で呟いた

国見は確かにその言葉を聞いていた

でも聞こえないフリをした

国見

最初...

次に口を開いたのは国見だった

国見

融資の相談に来た時

国見

緊張してましたよね

〇〇

思わず顔を上げた

国見

顔に出てました

〇〇

うそ

〇〇

そんなにですか?

国見

はい

国見

すごく

クスッと笑う国見の表情が珍しく柔らかくて

○○もつられて笑ってしまう

〇〇

多分...

〇〇

必死だったんですよ

〇〇

どうしてもお店を続けたくて

国見

夢だったお店ですからね

〇〇

え?

〇〇

なんで私の夢って

国見は一瞬だけ目を合わせたあと

すぐに逸らした

国見

お店をやりたい人って

国見

だいたい夢なので

〇〇

あ...そうですね

〇〇

確かに

国見

忙しそうで何よりです

〇〇

最近ちょくちょく記憶が飛ぶくらいです

冗談めかして言ったのに

国見はふと表情を曇らせた

国見

冬が1番

国見

記憶が無くなりやすい季節なんで

〇〇

...え?

カップを持つ手が止まる

その言葉。

どこかで、確かに

聞いたことがある

胸の奥が締め付けられる

〇〇

...今

〇〇

なんていいました?

国見

え...あぁ

国見

冬は寒いから

国見

疲れも溜まりやすいし

国見

体調も崩しやすい

〇〇

違う...

〇〇

記憶がなくなりやすいって

国見は目を細めた

国見

聞いたことある豆知識でした?

〇〇

...昔に

〇〇

知人が言ってたんです

国見

いつも出てくる知人って

国見

元カレとかですか?

息が詰まった

○○は微笑んで誤魔化すように言った

〇〇

そんなところです

国見はカップを口に運び

何も言わなかった

ただその視線に一瞬だけ

何かが沈んだ気がした

部屋に戻って電気をつけた

ストーブの前で手を暖めながら

ふと壁に立掛けた写真に目がいく

写ってるのは自分と隼人

あの頃

まだ学生だった頃

だけど

〇〇

変なの...

見慣れたはずの写真なのに

どこか輪郭がぼやけて見えた

自分の中にある“その日”の記憶が

霞のようで曖昧で

掴めない

どんな会話をしたのか

どうしてその場所にいたのか

笑っていた理由さえ思い出せなかった

〇〇

...写真

〇〇

これしかないんだよね

呟いてフレームをなぞる

本当はもっとあった気がする

だけど

隼人が居なくなったショックで

全部消してしまった

〇〇

冬が1番...

〇〇

記憶が無くなりやすい

その言葉が何度も響く

〇〇

国見さんと隼人...

〇〇

やっぱり似てるんだよね

そう呟いた声は静かにかき消された

重ねちゃいけないと

○○も気づいていたから。

あなたがいない冬

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コメント

1

ユーザー

なんかもうこの時点で泣きそうなんですけど 続き待ってます!

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