その週の○○は
少しだけ息をつく暇がなかった
カフェの新メニューも好評で
客足が途切れず
気がつけば洗濯物が山のように溜まっていた
〇〇
そう思い電源ボタンを押すが
〇〇
洗濯機は壊れたままだった
〇〇
ため息をひとつ
夜の街は静かで
コンビニの明かりだけが眩しい
○○はトートバッグに洗濯物を詰め込んで
近くのコインランドリーへ向かった
中は蛍光灯の白が冷たく放っていて
乾燥機の回る音だけが響いていた
国見の姿はなかった
〇〇
少しほっとして
少しだけ寂しい気持ちもした
洗濯機にコインを入れて
ソファに腰を下ろす
スマホを手に取ったまま
気づけば目が重くなっていく
○○はそのまま目を閉じた
数分後
コン...という小さな音で目を覚ますと
人一人分開けた隣に国見さんが座っていた
パーカーを着てフードを被っていたが
国見さんだった
組んだ足にスマホを置き
無表情のまま画面を見つめている
〇〇
〇〇
不意にそんな言葉が溢れた
国見
国見
国見
そう言ってスマホをポッケに入れた
○○は少し髪を整えながら
洗濯機の回る音を見つめた
〇〇
声をかけたのは○○の方だった
〇〇
〇〇
〇〇
国見は僅かに目を上げた
国見
〇〇
〇〇
とだけ○○が言うと
国見はふっと息をつくように立ち上がった
〇〇
国見
国見
〇〇
○○は急いで荷物を持ち立ち上がった
自動ドアの前で
ほんの一瞬
彼が○○の方に視線を向けた
その横顔がどこか懐かしく思えて
胸の奥が痛くなった
乾燥機の中では
また白いシャツが回っていた
駅近くの小さなカフェ
ガラス越しに外を眺めながら
○○は手元のカップを指でなぞる
国見がココアをひとくち飲むと
国見
国見
不意にそう言った
ぶっきらぼうだったけど
それが心配から来ているのがわかった
○○は少し笑ってミルクを混ぜた
〇〇
〇〇
少し笑いながら言った
国見
〇〇
○○は驚いて国見の顔を見た
国見
国見
国見
それだけ言って国見さんは外を見つめた
〇〇
と小さな声で呟いた
国見は確かにその言葉を聞いていた
でも聞こえないフリをした
国見
次に口を開いたのは国見だった
国見
国見
〇〇
思わず顔を上げた
国見
〇〇
〇〇
国見
国見
クスッと笑う国見の表情が珍しく柔らかくて
○○もつられて笑ってしまう
〇〇
〇〇
〇〇
国見
〇〇
〇〇
国見は一瞬だけ目を合わせたあと
すぐに逸らした
国見
国見
〇〇
〇〇
国見
〇〇
冗談めかして言ったのに
国見はふと表情を曇らせた
国見
国見
〇〇
カップを持つ手が止まる
その言葉。
どこかで、確かに
聞いたことがある
胸の奥が締め付けられる
〇〇
〇〇
国見
国見
国見
国見
〇〇
〇〇
国見は目を細めた
国見
〇〇
〇〇
国見
国見
息が詰まった
○○は微笑んで誤魔化すように言った
〇〇
国見はカップを口に運び
何も言わなかった
ただその視線に一瞬だけ
何かが沈んだ気がした
部屋に戻って電気をつけた
ストーブの前で手を暖めながら
ふと壁に立掛けた写真に目がいく
写ってるのは自分と隼人
あの頃
まだ学生だった頃
だけど
〇〇
見慣れたはずの写真なのに
どこか輪郭がぼやけて見えた
自分の中にある“その日”の記憶が
霞のようで曖昧で
掴めない
どんな会話をしたのか
どうしてその場所にいたのか
笑っていた理由さえ思い出せなかった
〇〇
〇〇
呟いてフレームをなぞる
本当はもっとあった気がする
だけど
隼人が居なくなったショックで
全部消してしまった
〇〇
〇〇
その言葉が何度も響く
〇〇
〇〇
そう呟いた声は静かにかき消された
重ねちゃいけないと
○○も気づいていたから。
コメント
1件
なんかもうこの時点で泣きそうなんですけど 続き待ってます!