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氷点下五度。

八月の空に粉雪が舞った。

関西のとある街のとある警察署。

スズキ刑事は、長い取り調べの合間に気分転換をしようと屋外に出てきた。

スズキ

ササキ先輩お疲れッす

ササキ

おッ スズキちゃん

ササキ

今日は一段と冷える。これ、正真正銘の異常気象や

スズキ

ホンマです

スズキ

この寒さ、いつまでつづきますかね 

ササキ

世間では氷河期がきおったなどと騒いどる……けったいなことや

ササキ

せやせや、スズキちゃん、缶コーヒー

ササキ

これでも飲んで、体、温めや

スズキ

あざーすッ

ササキ

で、勾留中の女はどうや?

スズキ

なかなか手ごわいです

ササキ

やろーな

ササキ

あんな美人そうそうおがまれへん

ササキ

おまえ自分を見失うなよ

スズキ

はい

スズキ

それは重々

ササキ

で、残り六時間で落とせるんか?

スズキ

はい

スズキ

なんとか

ササキ

相方は?

スズキ

横山先輩です

ササキ

ああ

ササキ

彼ね

ササキ先輩の “ああ” は、同情のああだ。

横山先輩は取り調べが厳しいことで定評がある。

運悪く取り調べに当たった被疑者は、たとえ黙秘を貫いたとしても

最後は心が折れて自白する。

ササキ

なら、完落ち間違いナシや

休憩を終えるとスズキは署内へ戻った。

スズキ

寒っ

室内にもかかわらず、まるで冷蔵庫の中を歩いているようだ。

原因の一つは暖房機具の故障だ。

残念ながらエアコンの修繕は、予算の兼ね合いで先送りされていた。

コン コン

スズキ

失礼します

スズキは取調室に入った。

中で紫色の唇をした横山が、机をバンバン叩いているところだった。

横山

男の死体はあんたの部屋にあったんや

横山

それもフリーザーの中でバラバラのカチンコチンやで!!

横山

これをどない説明する? いいかげん認めなはれ

横山

あんたが殺して、切断して、遺棄したんちゃうんかい!!!

女は黙秘している。

薄絹をまとい、怪しいまでに美しい笑みをたたえている。

横山

……あかん

横山

こうも寒いと

横山

調子が狂う

横山

スズキ交代や

スズキ

はい

横山

あと頼むわ

横山先輩はくしゃくしゃっと頭をかきながら出ていった。

スズキは机を挟み、女の真向かいに腰を下ろした。

スズキ

体調は?

スズキ

寒くありませんか?

ええ……

スズキ

食事

スズキ

もうじき来ると思います

女は静かに頷いた。

ややしばらくして

防寒着に身を包んだ婦人警官が昼食を持って入ってきた。

女は丁寧に礼を言う。

スズキ

それ……?

私がお願いしましたの

女の目の前に、硝子の器に盛りつけられたかき氷が置かれた。

スプーンを手にすると、少しずつ口に運び入れた。

スズキ

かき氷なんか食べて、寒くないんですか?

えぇ

美味しい……食感がとても繊細ね……

スズキ

二軒隣のあんみつ屋のかき氷だと思います

どうりで、とても懐かしい味がすると思ったわ……

先ほどの方

スズキ

横山が何か?

あの方、苦手です

でも、あなただったら……

話すのか?

女の瞳が潤んでいる。

キラキラとサファイア色に輝いていて目が離せない。

スズキは思わず美しいと思ってしまった。

ありがとう

スズキ

ぇ ?

まさか心を読んだ?

女は笑みを浮かべる。

僅かばかりに頷いた。

いけない。

スズキは心を落ち着かせようとする。

スズキ

では名前からお尋ねします

カタカナでフユと申します

鉛筆を持つ手がかじかむ。

スズキは雑紙に “フユ” と書き取った。

スズキ

なに……フユさんですか?

ただのフユです。ほかはありません

スズキ

……住所は?

いくつかございますが

普段はツンドラ地方にいることが多いです

スズキ

ということは国籍は……

北極圏育ちですが、隣接するどの国にも属しておりません

スズキ

パスポートは?

持っていません

スズキ

それでは、不法入国ということになりますが

違いますわ

許可はちゃんといただいております

許可?

ここで押し問答していても話しが進まない。

あとで調べれば済むことだ。

スズキは話しを進めることにした。

スズキ

フユさんが今現在のお住まいタワーマンション

スズキ

最上階はペントハウスというのでしょうか

スズキ

持ち主が他にいらっしゃいますね

ええ

スズキは手帳を取り出した。

スズキ

持ち主はジャハ・サルージャさんとありますが

スズキ

この方とのご関係は?

ビジネスパートナーです

スズキ

中東の王族と?

ええ

契約しております

スズキ

契約?

スズキ

いったいどんな?

つい好奇心が先に立つ。

それは……

言えませんわ

スズキ

なるほど

スズキ

わかりました……    
話が前後しますが

スズキ

年齢を教えていただけませんか?

年……

どこから数えたらよいのか……

スズキ

生年月日をいただければ

いつ生まれたか自分でもよく分からなくて……

女の顔が曇った。

だからとても難しい質問です

……

スズキはまたもや心を無にした。

これから訊かなきゃならない核心のために、些細なことはスルーすることにした。

スズキ

それでは

スズキ

本題に入ります

スズキ

食料庫にあるフリーザーに遺棄した山田さんについて

スズキ

知っていることをお話しください

女は憂いに満ちた表情でスズキを見つめた。

旅支度をしてましたの

スズキ

ちなみに

スズキ

どちらへ

毎年、南半球にある別荘地へ参ります

ところが

どこで、どう知ったか分かりませんが

ユーチューバーと名乗る男が訪ねてきまして

世界のためだと称して

私を監禁しました

スズキ

それは、いつ頃の事ですか?

今年の三月二十一日です

スズキ

春分の日ですね

スズキの手帳に季節外れの大雪とある。

はい

お陰で旅立てなくなりました

スズキ

あなたの住まいで、ユーチューバーの山田さんは何を?

ペントハウスの窓に定点カメラを設置しまして

居座りました。私の部屋で、昼夜を問わず動画を作成していました

スズキ

その動画は?

男は四ヶ月分、まとめてスクープすると言っていましたが……よく分かりません

スズキ

実は、僕らはごく短い動画を探し出しました。叫び声、あれはフユさんでしょうか?

スズキ

ペントハウス……あそこで、何があったんです?

……

スズキ

言いたくない?

……

女の瞳が左右に動いた。

核心はここにあるとスズキは感じとった。

スズキさんは……

もうお気きづきでしょう?

私がごく普通の人間ではないこを、とっくに感づいていらっしゃる

スズキ

何のことです?

自分が発する無情な言葉に心がうずいた。

スズキ

山田さんを殺した経緯をお聞かせください

女は悲しげにうつむき

観念したのか、少し間を置いてから話し始めた。

男の目的は私の存在を動画に残すためです

夏がいつまで経ってもこないのは、自分が関与したと言いたいがため

スズキ

山田さんは、あなたを監禁したうえに

スズキ

その模様を

スズキ

配信しようとした?

はい

スズキ

その間に通報、もしくは逃げ出す機会はありませんでしたか?

とある方にご相談申しあげておりましたが

偉い方のご意見がなかなかまとまらずに

中には私を厄介者と思っていらっしゃる方もちらほらで……

しばらく留まるよりほか、ありませんでした

スズキ

どなたのことを念頭に置いて、話しをされていますか?

古の時代より神に支える一族、ジャーマンや国を代表する方々です

スズキは鉛筆を置いた。

スズキ

その話をすべて信じろと?

だから通報できなかったのです

こうして色々と話さないといけませんから

女は訴えかけるように言った。

スズキ

真実かどうかの判断に

スズキ

証拠は極めて重要です

スズキ

仮に話がすべて本当だとして

スズキ

それでもあなたが山田さんを殺した

女は涙を浮かべた。

それがどういうわけか

女の涙は不思議な現象を起こした。

目尻に浮かんだ涙が空気に触れると

煌めきながら結晶化してゆくのだ。

涙だけじゃない。

空気中にある水分までもが一瞬にして凍ってしまった。

.🔹゚。*.・❄。.・゚✳。※゚・

ザラメ砂糖のような氷塵が    ダイヤモンドのごとく輝きながら空間を漂った。

気温は下がり

湿度も下がる。

どうぞ、温かくなさってください

さもないと心臓が凍ります

スズキ

ご心配には及びません。僕は寒さには強いほうですから

スズキは立ち上がった。

足元でジャリと音がする。

床に散らばった無数の結晶を踏みつけていた。

スズキ

少し苦しそうだ

スズキ

腰縄は外せませんが、楽にしてさしあげます

少なくとも彼女はウソは言っていない。

スズキは女の腰縄を緩めた。

少なくとも踏みしめた雪は本物だ……

スズキ

つづきをお話しいただけますか?

女はふたたび話し始めた。

複数のカメラを前に男は生放送の配信を始めました

四ヶ月にもおよぶ冬景色を織り交ぜながら重大発表があると言ったのです

スズキ

そのときフユさんは?

私はキッチンに繋がれていました

恐ろしいことに

男は実験だと言って、中二階のリビングから

沸騰中の電機ポットを投げつけてきました

自分でも何をしたかよく覚えていません

気がついた時には、すべてが凍りついていました

スズキ

沸騰した湯の行方は?

一瞬にしてツララとなって、男の胸を貫いていました

スズキ

男は?

凍りついていました

バランスを失ない

中二階から落ちました

キッチンの床にぶち当たり

そして、バラバラに……

スズキ

それで、あなたはどうしました?

手錠は金属割れを起こしていましたので簡単に外せました

男の肉片が溶け出すのが恐ろしくて

急いでフリーザーの中に隠しました

そして……視聴者の通報で

警察官が家に来て……

女は口を閉じた。

スズキ

他に補足や言いたりないことは、ありますか?

いえ……

スズキ

それでは、これから供述調書を作成しいたします

スズキ

要所要所で、もう少し細かな点をお聞かせ願おうかと思います

これで終わりではない?

スズキ

はい

スズキ

概要はだいたいお聞きしまた。今度は内容に矛盾点が無いか更に詳細をうかがいます

スズキさん、私のしたことは正当防衛です

偶発的に起こってしまった事故なんです

スズキ

わかります

スズキ

ですが、それを証明するのは……

証明の場は裁判だと

言いかけたところで

取調室のドアが勢いよく開いた。

横山

スズキ

横山

よーやった

横山

女は殺人容疑で再逮捕や

横山

あんたの正当防衛は死体を隠した時点で成立せいへん

スズキ

横山先輩……

横山

凶器!

横山

凶器をどこへ隠しとる?

スズキ

先輩?

スズキ

凶器はツララと思われます

スズキ

ですから、すでに溶けてしまったと考えられますが

チッチッチッと横山は舌打する。

横山

スズキ

横山

美人ほど

横山

平気で嘘をつく

横山

まぁ、その嘘もや、もう少しマトモな嘘をつきなはれ

横山

頭のおかしな女を装って

横山

無罪を勝ち取ろうなどと

横山

言語道断や

横山

白状せい!!

横山

凶器はどこや!!!

横山は凄みを見せた。

女の顔は驚きに満ちた。

横山

白状するまで

横山

この部屋から一歩たりとも出られまへん

横山

覚悟しいや!

横山

早よう出たかったら

横山

ゲロした方が早いで

ひどい……

女は美しい顔をゆがめ、横山をにらみつけた。

不意に女の目が輝きを失ったかと思ったら

うつろな表情で宙を見つめた。

スズキ

フユさん?

ゴン 

ゴン カン ゴン バシッ

バン!

屋外で激しい音がする。

磨りガラスにも関わらず、天候が悪化しているのは一目瞭然だった。

バリン!

突然、窓ガラスが割れた。

ガラスを突き破って、こぶし大の氷が入り込んできた。

スズキ

ヒョウです

横山

雹?

二人は割れた窓の隙間から外を覗いた。

横山

うぇ……氷が降っとる……

地面は大量の氷で埋め尽くされ、ありとあらゆるものがへこんでいた。

スズキ

車……

スズキ

アウトですね……

横山が新車だったとうめいた。

ややしばらく経って

警察署長の青山が取調室に飛び込んできた。

青山署長

二人とも

青山署長

取り調べは終わりだ!

青山署長

スズキ、女性の腰縄を解いてあげて

横山

署長?

青山署長

上からの命令だ

横山

でも署長! 人が一人、死んでいます

青山署長

もっと大勢が死んでいるんだとさっ

横山

はぁ?

青山署長

わしも、ようわからん

青山署長

直ちに釈放せよと、長官みずから直々に電話を寄こしたんだ

スズキは急ぎ女の腰縄を外した。

スズキ

フユさん

スズキ

だいじょうぶ?

綺麗な顔を覗き込んだ。

女の瞳に輝きが戻っていた。

良かった……。スズキは内心ほっとした。

青山署長

お嬢さん。一階の受付に官邸秘書官が迎えに来ております。ご案内致します。

女はすっと立ち上がった。

スズキさん

スズキ

はい

そこまで送っていただけます?

スズキ

署長よろしいでしょうか?

スズキは署長の許可を得ると、女と一緒に廊下に出た。

先ほどの冷気はうそのようになくなっていた。

玄関の前に、黒塗りの乗用車と女性秘書官が待っていた。

秘書官が来ようとするのを、   女は待つようにと手で制した。

スズキさん……

またお逢いできます?

スズキ

えっ?

スズキ

あ……はい……

スズキのまごついた様子に

女は愛らしい微笑みを浮かべた。

十二月になったら、自宅にいらしてください

女は口をすぼめ、ふっと息を吹きかけた。

.。・゚・✳。゚*

冷気がスズキの頬をなでるようにかすめる。

女はゆっくり前を向くと一歩を踏み出した。

冬を乗せた黒塗りの乗用車は車廻しを滑るように走り出した。

暑つ……

街に日差しが戻ってきた。太陽の熱は、降り積もった雹を解かし、そこかしこに大きな水溜まりをつくった。

スズキはネクタイを緩めながら署内へと戻った。

この夏の異常な寒さは農作物の生育に大きな被害をおよぼし、食糧難を引き起こした。

冷温は燃料高騰にも一役かった。

数ヶ月もの間、人びとに深刻な影響を与えつづけた。

一方、南半球においては、行き場のない夏がいつまでも居座っていた。

連日五十度を越える酷暑が続き、水不足による甚大な被害をもたらした。

冬が去った二週間後

遅刻した夏がようやくやってきた。

西の空が赤く燃えるころ

寂しげに、ひぐらしがカナカナカナと鳴き始めた。

スズキ

ササキ先輩

スズキ

今年の夏は大変な冷夏でしたが

スズキ

それでも僕は冬が待ち遠しくてなりません

この作品はいかがでしたか?

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コメント

9

ユーザー

蛍くんへ 女に秘密 男はイケメン そして悪いやつ これ好きなパターンです。

ユーザー

上手く表せないけど、女性の特殊な能力、それを知ってしまったYouTuber。監禁され正当防衛で人を☆☆☆てしまった女性。 それらを引っ括めて愛し合えるといいですね。

ユーザー

赤トンボさん ありがとうございました!

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