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日本国民
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俺は春が嫌いだ。
あの春の悍ましい光景が、今でも鮮明に記憶されている。
後悔の沼に飲み込まれ、呼吸もままならない。
そんな日々に、終止符を打とうと今日ここに来た。
日本
大きな桜の木が一本だけあるこの場所に、毎年春になると君は現れた。
だから毎年この季節になると毎日ここへ足を運んだ。
だが桜が散ると君はここへ来なくなり、俺の前から姿を消した。
何故かは解らないが、そんな摩訶不思議なところが君の魅力でもあった。
君がいなくなるといつも寂しくなるが、
君は一度も俺を哀しませたことがなかった。
桜の木に登って無邪気に此方を見下ろす君が好きだった。
純粋さの中に仄かに香る甘美が君にはあった。
いつも春には満開な桜と君の満面の笑みが視界に広がっていた。
俺は春が好きだった。
あの日までは。
桜が散りはじめた4月中旬頃。
今日も君に会えると思ってここへくると、
木に登り此方を見下ろす君はいなくて、
木の枝に引っ掛けられたロープに首を吊っている君がそこにはいた。
地面には転がった足場とぐちゃぐちゃになった紙切れ。
そこには君の筆跡で小さく『ごめん』の三文字。
状況の理解はできているけど、信じたくなくて、
君に触れてみるけども、もう冷たい。
抱きしめても、何もかえってこない。
身体から血の気が引き、力が入らなくなる。
君の前で初めて涙が溢れ出しそうになる。
なんで君はこんなことしたのだろうか。
俺は君のこと全部わかってるつもりだったのに、全然わかっていなかった。
なにか悩みでもあったのか?
いやでも君はそんなそぶりしたことなかった。
信用してくれていたなら言ってくれればよかったじゃないか。
俺は信用されていなかったのか?
春にしかいなかったのも何か理由があったのか?
だとしたら君は俺に何を伝えようとしていたんだ?
なんで?
わからない。
様々な憶測が脳内に広がるが、何もわからなかった。
ただ、君が首を吊っているという事実だけが強烈で、
とにかく辛くて、苦しくて。
君の苦しみに鈍感だった自分が、
君の支えになれなかった自分が心底憎くて、
後悔の沼に飲み込まれ、視界は涙で染まり、何も見えない。
何もわからないから、その日は感情に任せ、一日中咽び泣いた。
でも時間は待ってくれるわけがなく、日は沈んで辺りは暗くなっていた。
結局帰らないわけにもいかず、不安定な足取りで帰宅した。
もしかしたらいつか君に会えるかも、と自分に言い聞かせ、
何年も何年もここへ足を運んでは後悔する。
いくら会いたいと願っても、君はもういない。
前まではこんなに寂しい春を過ごしたことがなかった。
春限定だったが、君はいつも俺の側で笑ってくれていた。
君は何を考え、何を感じていたのだろうか。
俺がもっと君のことを分かろうとしていれば、
君はまだここにいたのか?
何年も時間を費やしても、結論には至らなかった。
わからないから、考えるのを辞めてしまおう。
君を理解したいけど、怖いから知らないままでいたいという醜い本音が、
やっぱり何も考えたくないという結論に繋がってしまう。
もう一度君に会いたい。
飾られた言葉で表せられるほどの余裕なんてない。
桜が散り行く春、君が散ったあの日のことを忘れられずにいる。
ずっと辛いなら、もう終わらせよう。
君のいない世界は、
なんだか呼吸がうまくできなくて、生きづらい。
ずっと君のことを考えて、後悔に打ちひしがれる。
そんな日々に、終止符を打とうと今日ここに来た。
ここに未練なんてない。
君と同じように足場を用意し、君が遺した手紙を握り締めた。
君が使ったままの縄に首を通し、息をのむ。
君の身長に合わされているからか、結構余裕がある。
恐怖に浸る時間なんていらないから、準備が整ったらすぐに足場を蹴った。
やっと君に会える。
首が絞められて、頭に血が上るのがわかる。
息が吸えない。
自分の掠れた声が聞こえる。
まだ生きようとしているのだろうか。
足は地面に着こうとし、手は首を絞める縄を掴もうとしている。
苦しい。
でも、君も同じ苦しみを味わったのだと考えると、
君と同じ感覚になれて嬉しいとも思える。
手足に力が入らなくなってきて、思考もだいぶ鈍ってきた。
頭に靄がかかっているようだ。
もうすぐ君に会えるという合図だろう。
ぼやける視界の中で、微笑む君が鮮明に見えた。
終
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