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兵士
監視官に腕を掴まれ、ふらりと立ち上がる
呼吸をするのも億劫だった
自分の意思なんて、ここでは何の意味も持たない
鉄の扉が開けられ、目の前には漆黒の車が停まっていた
見たこともないような、無骨で重厚な車
何の説明もされないまま、ただ背中を押される
乗れ――そう言われているのだと悟り
無言で車内に足を踏み入れた
狭い後部座席
前に座っていたのは、さっき自分を 「買う」と言った男だった
鋭く整った横顔
黒いスーツを着こなし、表情はない
柊 朔弥
男はただ、無言で窓の外を見ている
そのまま車の前部からドアが閉まる音がして、運転席に座った男が言った
運転手
運転手
運転席の方から喋り出す男
柔らかそうな髪を後ろでまとめ、どこか軽い雰囲気を纏っている
男
運転手
運転手
ふう、と息を吐きながらエンジンをかけ、ハンドルを切る
黒い車はゆっくりと施設を離れていった
外の景色が動く
けれど、朔弥にはそれを見ようという気すら起きなかった
どこに連れていかれるのか
何をされるのか
このまま死ぬよりは少しマシなのか
それとも――もっと酷いことが、待っているのか
分からない
考えたくもない
ただ、揺れる車体のリズムに身体を預け、 朔弥は小さく目を伏せた
胸の奥に、まだ焼き付いて離れない『2472』の数字と
名前すら知らない男の沈黙だけが、重くのしかかっていた