テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
車は夜の静けさの中を滑るように進んでいた
遠くに見える街の灯り
煌びやかな上層部の街並み
その中に、朔弥は場違いなほど無垢な存在だった
車内には沈黙が流れている
前から聞こえるのは、タイヤが地面を撫でる音と
時折のウィンカーのカチカチという音だけ
運転席の男が、軽い調子でぽつりと話しかけてきた
運転手
運転手
高峰理人
高峰理人
高峰は少し笑って続ける
高峰理人
、、、返事は無い
呼吸の音すら聞こえそうな静寂だけが返ってくる
だが、高峰は特に気にした様子もなく、肩をすくめてフロントに目を戻した
高峰理人
高峰理人
それだけ言って、再び口を閉ざす
それ以降、車内に言葉は一切なかった
高峰も黙り、運転に集中し
助手席に座っている男は終始一点を見つめたまま微動だにせず
朔弥はただ、不安と緊張を抱えたまま身を小さくしていた
やがて、車はゆっくりと坂道を上り、門の前で一度停まる。
高峰が無言で何かカードをかざすと、静かに門が開いた
黒塗りの車は邸宅の広い敷地内へと入っていく
夜でも明るく照らされた、整備された庭園
レンガ造りの重厚な屋敷が姿を現す
まるで別世界だった
――ここが、“買われた先”
何も知らない朔弥にとっては、地獄か、救いか、判断もできない場所
車が静かに停まり、高峰が降りる
そして運転席のドアを閉めると、後部座席のドアに手をかけ
高峰理人
とだけ言って朔弥に視線を送る
それでも、朔弥の瞳には何の光もなかった
全てがここから、変わっていく