テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

地球で最後の二人〈4話完結済〉

一覧ページ

「地球で最後の二人〈4話完結済〉」のメインビジュアル

地球で最後の二人〈4話完結済〉

1 - 地球で最後の二人 1話 全人類消失

2019年11月19日

シェアするシェアする
報告する

雪子がログインしました。 新規トークルームが開設されました。

雪子

このアプリ、誰かいらっしゃいますか? こちらは北海道オシャマンベシェルターの富良野雪子です。どなたかいらっしゃったらお返事ください

雪子

久しぶりに伺いました。どなたかいたらお返事ください

雪子

こんにちは! 一年ぶりにログインしてみました! どなかいらっしゃいませんか?

雪子

二年ぶりですね。北海道の雪子です。誰かいますか?

雪子

こんにちはーって、誰もいるわけないですよね笑笑笑 いま、わたしは裸です! もし、どなかいたら画像をお送りしちゃいますよ! なんちゃって。誰かお返事くれませんかね? 国内でわたし以外に生きている人はいないんですか?

雪子

誰か

雪子

お願い

雪子

前回から半年ぶりのログインになりまぷり。北海道の雪子あらため、ぷりぷりぷり太郎でーす! 今日のオシャマンベは晴れだぷり。一面の銀世界だから、影一つないぷり。だから、外に出ても大丈夫ぷり! 〝闇〟に襲われる可能性はゼロぅ! ぷり太郎、裸ですラジオ体操したぷり。だからとっても元気ぷり! さあ、みなさんご一緒に、ぷりぷり言おうぜえ!

奏太がログインしました

奏太

ぷり

奏太

えーと、なんですこれ笑

奏太

こんにちは。こちらは奏太です。ぷり太郎さん、まだいらっしゃいますか?

雪子

ええええええええええ!???

雪子

????!!、?????

雪子

えええ?

奏太

ぷり太郎さん、大丈夫ですか?

雪子

死にたいです

雪子

すみません。大丈夫です。いや、上みたいな書き込みしておいて何ですけど、ほんと問題ないんです

奏太

それはよかったぷり

雪子

!!!!???涙涙涙。死んでいいですか?

奏太

ダメです笑 ようやく見つけた生存者に死なれちゃ困りますから

雪子

それはどうも。でも、ようやく見つけた、はこちらのセリフですよ。どうしてもっと早く連絡をくれなかったんですか? アマチュア無線に掲示板、ツイッター、あらゆる手段で呼びかけていたんですよ?

奏太

うちのシェルターは長いこと外部通信ができない状態だったんです。ぼくが修理に修理を重ねて、今日、ようやくネットに入れたんですよ

雪子

通信機を修理? 賢いんですね。ちなみにどちらのシェルターなんですか?

奏太

つくば第三

雪子

つくば? じゃあ、玲子さんと敏弘さんを知ってます?

奏太

父と母です

雪子

お二人の子供なの? お子さんがいたんだ!? ねえ、お二人はお元気?

奏太

ぼくが十二の時に〝ティンダロスの猟犬〟いえ、あなたのいう〝闇〟に食べられました

雪子

それはお気の毒に

奏太

いえ。最後の瞬間まで二人は幸せだったと思います

雪子

ん? 待った。亡くなったのが、あなたが十二のとき? あなた、いま幾つなの?

奏太

十五ですけど

雪子

わっか!

奏太

そういう、ぷり太郎さんは幾つぷり?

雪子がログアウトしました

奏太

うわ!すみません!

奏太

もしもーし、雪子さん?

奏太

ねえ

雪子がログインしました

雪子

わたしは十九。あなた、年上に対する態度ってものを覚えなよ

奏太

いやー、ごめんなさい。ぼく、あんまり人とやりとりしたことがなくて。なにしろ、筑波シェルターの生き残りはぼくだけなんで

雪子

!?

奏太

雪子さんも一人なんでしょう?

雪子

ええ。たぶん日本の生き残りはわたしたちだけよ

奏太

日本の? ほかの国にはまだ生き残りがいるんですか!? 以前、母さんから、外国は全滅したって聞いたんですけど

雪子

そっちのシェルターは通信ができなかったんじゃないの?

奏太

受信装置だけは生きてたらしいんですよ

雪子

それ、たぶん受信装置も壊れてるよ。中国には生存者がいるわ。二千人くらいかな。あとオーストラリアにも

奏太

二千!?

雪子

あっちのシェルターは〝闇〟への備えが日本のとは比較にならないみたい。聞いた話だと、原子炉を備えてるらしいわ。施設内には何十万個ものLEDがあるとか。オーストラリアの人たちは、中国があそこまでできたのは、あの人たちが〝呼び出した〟からだっていってる

奏太

じっさいのところ、〝闇〟が初めて現れた時はどんなだったんです? 父さんも母さんも教えてくれなかったんです

雪子

突然だったの。ある日いきなり地球の夜の地域が沈黙したの。一斉に何十億もの人が〝闇〟に精神を食い尽くされたわ。わずかな生き残りが情報をくれたの。やつらは姿が見えない。暗がりに近づくと危険だ。光を灯し続けろって

雪子

でも、各国の政府がまともに対処できる時間はなかった。地球が周り、夜がぐるりと進んだ。はじめの二十四時間のうちに人類の九十パーセントが精神を喰われたわ

雪子

どうにか対処できたのは、事態が始まった時、朝を迎えたばかりだった極東地域だけ。政府は〝光を消さずに眠る〟ように推奨したけど、ちょっとした油断や停電からどんどん人は減ってね。政府は突貫工事であちこちにシェルターを作ったわ

奏太

でも、そのシェルターも完璧じゃなかった

雪子

そういうこと。わかってると思うけど、一瞬たりとも闇を作らないのは難しいのよ。とくに電力供給が不安定だとね。先に謝っとくわ。たぶん、最後の日本人はあなたになる。そう遠からず、こっちの電力はダウンするわ

奏太

嘘でしょう?

雪子

ソーラーパネルが死にかけてるの。工業用3Dプリンターで製造してるけど、それ以上の速さで壊れるから、まったく追いつかない。もってあと三ヶ月かな。ほんとごめんね

奏太

三ヶ月?

雪子

気にしないで。ここまで生きられてラッキーなんだから。ね、それより、話そうよ。わたし、日本人と話すの、久しぶりなんだ!

雪子

応答なし

応答なし

雪子

あれ? つながらない? なんで?

奏太

おかしいですね。今度はこっちからコールします

奏太

応答なし

応答なし

奏太

こっちも同じですね。音声データが飛んでない

雪子

えー

奏太

たぶん原因はこっちです。通信装置を修理したといったでしょう? 厳密には修理ではなく、ブースト装置を作ったんです。データ破損を第六世代の量子コンピュータで強引に補正してるんですよ。うまくいったと思ったんですが、文字データ以上のものは送れないみたいですね

雪子

あー

雪子

量子、ね

雪子

うんうん、量子量子!

雪子

……

雪子

ごめん。量子コンピュータって、なに?

奏太

一言ではいいづらいんですけど

奏太

ぼくたちのこの世界は、唯ひとつの世界ってわけじゃありません。たとえば、今朝、雪子さんが朝食にパンを食べたとします。しかし、ご飯を食べることを選択した世界も存在するんです。おやつを食べた世界もあれば、何も食べなかった世界もあるでしょう。無数の世界が同時に存在するんです

奏太

ぼくの手元には一台のコンピュータがあります。このコンピュータは、ほかの世界でも同じように存在します。そして、こいつは計算するときに、ほかの世界にある無数の自分自身の能力を使用できるんです。だから、たった一台でもスーパーコンピュータ並みの計算力があるんですよ。これが量子コンピュータです

雪子

いってることの半分も分からない

雪子

あなた、物凄く頭がいいのね。そんなすごいものを一人で作ったわけ?

奏太

まさか。父さんと母さんの研究を引き継いだだけですよ。二人の〝ティンダロスの猟犬〟についての研究の副産物です

雪子

さっきから、〝闇〟をその変な名前で呼んでるよね。なんなの?

奏太

“ティンダロスの猟犬”は、有名なホラー小説に出てくるモンスターです。世界線を超えて獲物を追い続ける怪物。父さんたちは〝闇〟はそれに似てると考えてたんです

雪子

どゆこと?

奏太

〝闇〟は人の意識を食べてしまう。残された肉体はやがて活動を停止し、人は死ぬ。ここまではいいですか?

雪子

うん

奏太

では、闇に食べられる〝意識〟とは何でしょう?

雪子

えーと、脳細胞にあるニューロンの発火?

奏太

残念ながら、ひとりの人間の脳を一台のコンピュータと見た場合、脳内にあるニューロンの計算力では肉体を動かすのが精一杯です。思考するだけの〝意識〟は生まれません

雪子

じゃ、わたしがこうして考えてるのは何なの?

奏太

たったひとつの脳では計算力が足りません。でも、〝ほか〟とリンクすれば? つまり、ぼくたちの脳もまた、一種の量子コンピュータなんです。近似の世界にいる自分自身の脳とのリンクのなかに〝意識〟が生まれているんです

奏太

〝闇〟が意識を喰らうというのは、ようは、一個の脳の他世界のそれとのリンクを切断しているんです

雪子

そんな説、初めて聞いた

雪子

結局〝闇〟ってなんなの? なんで、暗がりにいる人だけが意識を食べられちゃうの?

奏太

父さんと母さんは、遠い未来の誰かが過去に放った量子生命、ある種のコンピュータウィルスだっていってました。なぜ、暗がりに入ると襲われるのかはわかりません。ただ、やつらははるかな古代から人類を襲ってたんです。ぼくたちのなかにある暗闇への恐怖は、先祖がやつに苦しめられた記憶だと

雪子

放った? 誰が?

奏太

神様……みたいな存在ですかね

雪子

それじゃあ、神が人間を滅ぼそうとしてるわけ?

雪子

神?

雪子

くそー!

雪子

神さまのバカヤロー!

雪子

いま見てるなら、わたしの願いをかなえろー!

奏太

雪子

ディズニーランドで遊ばせろー!

雪子

タピオカミルクティー飲ませろー!

雪子

恋をさせろー!

奏太

恋? 笑

雪子

笑わない!

雪子

お子様には分からないかもしれないけど、死の間際は、みんな愛に殉じるものなの! 仙台の桜川さんと金沢の百合樹さんはかっこよかったんだから。互いのシェルターに限界が近づいていて、絶対に無理とわかっていたのに、二人は相手に会うために旅立ったの

雪子

わたしもあんな風になりたかったなあ

奏太

すみませんね。ぼくしか残ってなくて

雪子

いやいや、そんなことないって

雪子

うーん

雪子

あー

雪子

あー

雪子

……

雪子

笑顔

雪子

……

雪子

……

雪子

ね、奏太くん

雪子

わたしたち、恋人にならない?

奏太

は? ぼくたち、今日話したばかりですよ。いや、正確には話してすらない。文通?

雪子

別にほんとの恋人ってわけじゃくてさ。ごっこよ。恋人ごっこ。死にゆくおねーさんに、それくらいしてあげてもよくない?

地球で最後の二人〈4話完結済〉

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚