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ー夜の美術館ー
そこはまるで棺のように静かだった。
誰もいない展示室の片隅、細く開いた天窓からするりと滑り込んできた黒い影が、 床に着地する。
足音ひとつ立てず、くすくすと笑う
ジル
ジル
影の正体は金髪をゆるく結んだ青年
革のジャケットの裾を払う仕草さえどこか芝居がかっているが、その身のこなしには無駄がなかった
彼の名前は__ ジル・アルマン・ド・ルヴァン
かつては貴族だったが、今は盗賊。
この夜もまた、「美術館の地下に眠る宝」を目当てに忍び込んだのだ
彼の指先が"ある展示物"の ガラスに触れた瞬間
ゴンっ
鈍い振動音とともに、展示室の奥にあった石像が一つ震えていた
ジル
ジルは片眉を上げ、笑った
ジル
だがその瞬間、背後から響いた声が彼の 冗談をかき消した
ミレイユ
振り返れば一人の少女が立っていた
光に照らされた彼女の瞳は、 真っ直ぐだった。
何の疑念もなく、何の恐れもなく。
ただ、何かに呼ばれたように__ ここに来たのだと言いたげな瞳。
ジルは一瞬、息を呑む
だが、次の瞬間には、 いつもの調子に戻っていた。
ジル
軽くウインクし、ニヤリと笑う
だがその裏で彼の胸の奥には、 別の言葉が沈んでいた
ジル
ミレイユ
少女が警戒もせずに放ったその問いに、 ジルは目を細めた
無防備すぎる。普通なら男と目が合っただけで声を上げてもおかしくない所だというのに
ジル
ミレイユ
ぴしゃりと言い返され、 ジルは笑い声をこぼした
ジル
ジル
彼は帽子を軽く外して、一礼した
ジル
ジル
ジル
ミレイユ
ジル
ジル
とその時だった
ゴゴッ...ゴォォォン...!
石像が呻くように低くうなった
展示室全体が微かに揺れ、ガラスが軋む
少女は思わず足をすくませる
ジルは即座に彼女の手を取った
ジル
ジル
ジル
ミレイユ
少女の視線の先、中央に鎮座していた一体の石像...古代の戦士を模したような威厳のある造形_が
ゆっくりと目を開いた
石ではない。瞳だった
深い光がこちらを見ている
ジル
ジルの胸が騒ぐ
ジル
彼は少女の手を引き、展示室を駆け出す
後ろで石像が、まるで世界の重力を引きずるような音を立てて立ち上がった
展示室を抜ける寸前、石像の放った眩い光が空間を貫いた
瞬間、床が崩れた__
ミレイユ
ジル
ジルは咄嗟に少女を抱き寄せ、自身の体で庇うように落下した。
重力に引かれ、ひとときの無音
そして__
どん、と重い着地音。石と土の匂い。 空気が変わった。
目を開けると、そこは古びた石造りの空間
地下に眠る、封印空間のようだった
天井の崩れた隙間から、微かな月明かりが降り注いでいる
ジル
ミレイユ
ミレイユ
ジル
ジル
ジル
ジルは口元に笑みを浮かべながら、少女をそっと立たせた
しかし、その瞳には__確かに焦りがあった
ジル
ジル
彼は壁際に近づき、埃にまみれた石板を 指でなぞった
そこにあったのは、かつて彼の父が残した「古代遺物調査」の記号__
見間違えるはずがない。貴族の身分を投げ打ってまで父が命をかけた"真実"の欠片
ジル
ジルは自嘲気味に笑った。 だがその声は震えていた
少女が彼の背中を見つめる
ミレイユ
ミレイユ
ジル
ミレイユ
ミレイユ
ミレイユ
ジルの背が、微かに揺れる
沈黙のあと、ぽつりと呟く
ジル
その声は先ほどまでの軽口とは違っていた
静かで、どこか寂しげで__ まるで誰にも届かないと、 わかっているような響きだった
ジル
ジル
ジル
ジル
ミレイユ
ジル
ジル
ジルは壁の奥、 半壊したアーチの向こうを見つめた
そこに、光の粉がふわりと漂っていた
ジル
ジル
少女はその横顔をただ見つめていた
最初は軽薄な盗賊だと思っていた
けれど、今の彼はまるで__
追放された王子のように、 静かな誇りを湛えていた
ミレイユ
ジル
ジル
ジルは、振り返り微笑んだ
その笑顔には、まだ陽気な仮面があった
けれど、それはもう"全部"ではなかった
ジルがアーチの奥へと進むと、 そこは天井の高い石室だった
薄闇のなか、円形の床には淡い光を放つ 文様が刻まれ、中央には再び__
あの石像が立っていた
ミレイユ
少女は息を呑んだ
確かに上で見たはずの石像だったが、 初めからここにいたような佇まい
どこか神殿を思わせる厳かさがある
それなのに、少女は不思議と怖く無かった
むしろ懐かしかった
ミレイユ
ジル
その時だった
石像がゆっくりと__まるで人が眠りから 目覚めるように顔を上げた
眼差しが少女をまっすぐ射抜く
そして確かに__"声"が響いた
サフィル
少女はハッとした
声は耳で聞こえたのではなく、心の奥、 深い水面に落ちた石のように、 静かに広がっていく
少女は、胸の奥から 引きずり出すようにして言った
ミレイユ
名を口にした瞬間、石室の空気が震えた
床に刻まれた光の文様がゆるやかに 広がり、中心に立つ像__
サフィルが静かに目を閉じた
まるでその名が封印を解く"鍵"だったかのように
サフィル
それは確かに声だった。 誰かに思いを馳せるような、遠い響き
ジルが思わず一歩後ろに下がる
ジル