朝の光が差し込むキッチンにはかすかな調理音が響いていた。
普段よりずっと早い時間。まだ誰も起きていない。
陽葵だけが、静かにバタバタしている。
陽葵
卵焼き、サラダ、温かいスープ。飲み物は三種類…
陽葵
……これで、足りるかな。
昨日と一昨日、悠翔が倒れるほどの全力を出した姿が陽葵の頭から離れなかった。
すごく嬉しかった。でも――。
陽葵
(流石に動きすぎ…!!休んで!!)
そのとき、階段を降りる足音が聞こえた。
悠翔だった。
髪が少し乱れたまま、眠そうに目をこすりながら顔を出す。
悠翔
……陽葵?おはよう…早いね。
陽葵
悠翔くん!? まだ寝ててよかったのに!
悠翔
いや、なんかいい匂いで起きちゃっただけで……
陽葵
とりあえず座って!
陽葵は半ば抱えるようにして、悠翔をソファに誘導する。
クッションを整え、膝掛けをかけ、背中の角度を微調整した。
悠翔
……そこまでしなくても。
陽葵
するの!!
悠翔がゆっくりと飲み物を手に取った。
陽葵
ちょっと熱い? 大丈夫?
悠翔
大丈夫だって……
陽葵
じゃあ、次は朝食のスープね。飲む前に混ぜたほうがいいかな……?
悠翔
いや、それも自分でできるって……
陽葵
でも、悠翔くん、こぼしたら危ないから私が混ぜる!
悠翔
……。
悠翔
助かる。ありがとう…。
悠翔
?
陽葵
じゃあ、次はトーストね。焦げないように……あ、バターも塗るから待ってて!
悠翔
……陽葵こそ疲れるでしょ…。
陽葵
悠翔くんの疲れがよくなることを祈っているんだよ!
悠翔
…昨日寝てかなり良くなってる。心配ない。
陽葵
え?
陽葵
だったら早く言ってよ〜!
悠翔
いや、あまりにもすごい支度してくれるから、止めるのもちょっと…って思って。
悠翔
少し、陽葵も休もう。
悠翔
みんなすでにもうよく頑張ってる。
悠翔
また疲れたらお願いするよ。
陽葵
…ありがとう!
悠翔
この家の中で、穏やかで温かい時間が流れ始めていた。






