揺れ続けて、どれくらい経つのだろうか
何も考えずに家を飛び出し
何も考えずに来た電車に乗って
ただ揺られている
「そろそろ降りなければ」
そう思った僕は
徐に席を立った
帰巣本能というのは 怖いものだ
アイツのいる町に 帰ってきてしまった
僕は頭をゆっくり掻きむしる
踵を返そうとした時
おばちゃん
おばちゃん
おばちゃん
おばちゃん
おばちゃん
あぁ全く 帰巣本能というのは怖いものだ
おばちゃん
自然としかめっ面になってしまう
父
父
クソ親父が笑顔で肩に手を置いてくる
やめてくれ、触んな
父
父
父
父
父
父
プツッと 何かが切れた気がした
きっと、 堪忍袋の緒
父
うるせえ、うるせえ
僕は闇雲に走り出した
初秋、 柔らかい筈の風が痛々しかった
おばちゃん
おばちゃん
いつの間にか おばちゃんも着いてきていた
おばちゃん
母さんは死んだ
縁切り神社の 階段で
不慮の事故だと噂された
おばちゃん
おばちゃん
おばちゃん
おばちゃん
おばちゃん
おばちゃん
普段はお調子者の おばちゃんが目を真っ赤にしてるんだ
僕は目を見張った
おばちゃん
おばちゃん
おばちゃん
おばちゃん
おばちゃん
おばちゃん
おばちゃん
おばちゃん
おばちゃん
おばちゃん
そんなこと知らなかった
本当に驚いた
おばちゃんの豹変ぶりを目の当たりにした時よりもずっと
怒りの方が大きかったのかもしれない
おばちゃん
僕はまだ子供だ
神社には 深い茜が差し掛かっていた
全部、単純なことだったんだ
親父を理解しようだなんて 考えてすらいなかった
クソだ
親父も、クソだ
父
父
父
父
父
クソに仮は作らない
父
父
親父は何か考えてから 直ぐに顔を上げて盛大に笑った
父
父
父
風はやはり痛々しい
おばちゃん
おばちゃん
これは
秋の暮れ 縁切り神社の
1つ歳を重ねた 2人の物語
コメント
13件
母親の事故を乗り越えられない息子と、必死で向き合う父親。 とても素敵な親子のお話ですね。 「2人の物語」という言葉がピッタリのお話でした(* ´ ▽ ` *)