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揺れ続けて、どれくらい経つのだろうか

何も考えずに家を飛び出し

何も考えずに来た電車に乗って

ただ揺られている

「そろそろ降りなければ」

そう思った僕は

徐に席を立った

帰巣本能というのは 怖いものだ

アイツのいる町に 帰ってきてしまった

僕は頭をゆっくり掻きむしる

(中田さんちのラーメンでも食って帰るかあ)

踵を返そうとした時

おばちゃん

あらっ…まぁ!

おばちゃん

俊典ちゃん?

えっ…?

おばちゃん

やだ、俊典ちゃんじゃない!
大きくなったわねぇ!

あぁ…

おばちゃん

里帰り?偉いわねぇ
おばちゃんもちょうど帰りだから一緒に行きましょ!

あ、いや…

おばちゃん

ねっねっ!

……

あー…はい…

あぁ全く 帰巣本能というのは怖いものだ

おばちゃん

山口さぁん
俊典ちゃんがおかえりですよぉ

自然としかめっ面になってしまう

俊典…?

なんだ、帰ってくるなら連絡くりゃ良かったのに!

クソ親父が笑顔で肩に手を置いてくる

やめてくれ、触んな

今日は縁切り祭だから丁度良かった

どうだ、準備手伝ってくれるだろ?

…まだあんな神社継いでんのかよ

あんなとはなんだ

立派な縁切り神社だぞ

気色悪い

僕別に帰ってきた訳じゃないし

飯食ったら帰るから

おいおい…なんだそりゃ

反抗期もいい加減にしろよ〜

プツッと 何かが切れた気がした

きっと、 堪忍袋の緒

反抗期と一緒にすんなよ!

クソみたいな神社継いでるお前も、そんな神社の周りでワイワイ騒いでる奴らも

みんな嫌いなんだよ!

俊典…

うるせえ…

うるせえ、うるせえ

僕は闇雲に走り出した

初秋、 柔らかい筈の風が痛々しかった

おばちゃん

俊典ちゃん

おばちゃん

俊典ちゃん…!

……っ

いつの間にか おばちゃんも着いてきていた

おばちゃん

お母さんのこと気にしてるのかい?

母さんは死んだ

縁切り神社の 階段で

不慮の事故だと噂された

当たり前じゃないか!

母さんは…っ

母さんは、縁切りとかいう縁起の悪い神社に殺されたんだぞ?

おばちゃん

だからあれは事故じゃと──

なのに

どうしてクソ親父は神社を継いでんだぁっ!

なんで、母さんを殺した神社を祀ってんだよ?

おばちゃん

俊典ちゃん…

みんなイカれてる!

おばちゃん

聞いて、俊典ちゃん

もう母さんは帰らないんだ!

おばちゃん

俊典ちゃん…

おばちゃんも

話しかけないでくれ!

おばちゃん

俊典ちゃん!

もう関わるな!

おばちゃん

俊典!聞きなさい!

普段はお調子者の おばちゃんが目を真っ赤にしてるんだ

僕は目を見張った

おばちゃん

ここの縁切り様はね、悪縁を切ってくれるんだよ

おばちゃん

さっきから黙って聞いてりゃ何が「縁起が悪い」だい

普通に考えたらそうだろ!

おばちゃん

あんた、お父ちゃんが何であそこまで必死に神社継いでるのかよく考えたことがあったかい!

おばちゃん

あんたの母ちゃんが死んだ晩、1番涙流してたのは誰だと思ってるんだい!

おばちゃん

毎日毎日、朝早く起きて母ちゃんのお墓綺麗にしてるの誰だと思ってるんだい!

おばちゃん

あんたの父ちゃんはな

おばちゃん

二度と母ちゃんのような事故が起きないようにって、悪縁切るためにこの神社やってるんだよ

おばちゃん

皆を悪縁で苦しませないようにこの仕事やってるんだよ

おばちゃん

そんなこと知らんくせして人のせいにするんじゃないよ!

おばちゃん

もう20だろう?
いつまで子供でいる気だい?

そんな…

そんなこと知らなかった

本当に驚いた

おばちゃんの豹変ぶりを目の当たりにした時よりもずっと

怒りの方が大きかったのかもしれない

おばちゃん

俊典ちゃんは優しいって、私ゃ知ってるから

僕は…

僕はまだ子供だ

神社には 深い茜が差し掛かっていた

全部、単純なことだったんだ

親父を理解しようだなんて 考えてすらいなかった

クソだ

親父も、クソだ

…俊典?

帰るんじゃなかったのか?

…提灯

提灯どこ

え…

あ、あそこ…

右左8個ずつ?

お、おう…

クソに仮は作らない

踏み台貸して

俊典、お前…

うるせ

それと

お誕生日…おめでとう

親父は何か考えてから 直ぐに顔を上げて盛大に笑った

はっーはっはっ!

なんだなんだぁ
どうしたいきなり笑

ありがとなぁ!

風はやはり痛々しい

おばちゃん

俊典ちゃんー

おばちゃん

これ運んでちょうだいー

今行きますー

これは

秋の暮れ 縁切り神社の

1つ歳を重ねた 2人の物語

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コメント

13

ユーザー

母親の事故を乗り越えられない息子と、必死で向き合う父親。 とても素敵な親子のお話ですね。 「2人の物語」という言葉がピッタリのお話でした(* ´ ▽ ` *)

ユーザー
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