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当直が始まってしばらく。
それぞれがそれぞれの業務をこなす。
もっとも、一人息子に関しては、多分途中で外食に行っただけなのだろうが。
稲垣と金谷も、時おりナースステーションから離れては、患者の対応だったり、見回りだったりと仕事をしていた。
金谷
ふと、病院の鍵をひとつにまとめた鍵束が、いつものところにないことに金谷が気づく。
稲垣
稲垣
金谷
金谷
金谷
金谷
金谷が言いかけた時、口笛を吹きながら藤巻が戻ってきた。
藤巻
藤巻
勝手に持ち出したくせに、この言いよう。
これを理不尽という。
金谷
金谷
先手を打たんとばかりに、金谷が頭を下げると、藤巻は小さくため息を漏らして鍵を稲垣に手渡してくる。
藤巻
藤巻はそう言って鍵を稲垣に手渡すと、ドクターの部屋へと姿を消した。
金谷
小声で呟く金谷に、苦笑いで相槌を打った。
こうして、当直の時間は過ぎていく。
稲垣と金谷は途中で何度かナースステーションを離れることがあったが、藤巻はずっと部屋に閉じこもって出てくる様子はなかった。
金谷
この病院は2交代制であり、基本的に勤務時間が長い。
ゆえに休憩時間も長めに設定されており、それを細かく分けてとる必要があった。
この時間帯は食事休憩もかねており、ざっと1時間程度。
金谷と交代でとることになる。
金谷
稲垣
交代に入る際、鍵は片割れの看護師が持つことになっている。
もちろん、緊急時になれば休憩もへったくれもないが、今日の病棟には重篤な患者はいないし、急変もなさそうだ。
稲垣
鍵を金谷に渡すと、奥の仮眠室へと向かう。
仮眠室とは名ばかりで、休憩室もかねていた。
稲垣は簡単に食事をとり、仮眠室に置いてあった雑誌に目を通す。
なんだかんだとしている間に交代の時間。
稲垣
鍵の受け渡しをして交代。
それからは各々が事務仕事や見回りをし、時刻は深夜へ。
金谷
背伸びをした金谷があくびをする。
この時間帯からは2時間ずつ、仮眠のための休憩に入る。
順番としては稲垣が先なのであるが、後輩として気を遣ってみる。
稲垣
稲垣
金谷
先に金谷が仮眠に入る。
この際――というか、金谷が先ほど休憩から戻ってきた時点で、鍵の引き渡しがあるべきだったのだが、しかし金谷はずっと鍵を待っていたらしく、そのまま仮眠に入ってしまう。
この事実に稲垣が気づくのは、もう少し先の話だ。
稲垣
金谷が休憩に入ってしばらく。
稲垣はいまだに慣れない見回りへと向かう。
真っ暗な廊下を、懐中電灯片手に進む。
ここは病院。
人の生死を見つめてきた場所。
霊感は特にないが、やはり肌寒いものを感じたりはするものだ。
稲垣
稲垣
ふと【開かずの病室】の前で、金谷から鍵の引き継ぎをされていないことを気づく。
しかし、もう見回りは終わるし、見回りが終わってしばらくすれば休憩の時間になる。
わざわざ金谷を起こす必要はないだろう。
稲垣
ぽつりと漏らすと、懐中電灯をいつもの場所へと戻す。
その時のことである。
いまだに慣れない嫌な音が辺りに響く。
稲垣
時刻はすでに深夜。
普通に患者は寝ているはずだ。
急変だろうか、それとも――。
稲垣
ランプを見て驚愕する。
ナースコールが鳴らされている病室は――【開かずの間】だった。