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ガシッ

風莉

……ねぇ、

風莉

……やめてよ…、

渉は

落ちる寸前で、僕の手を握ってた。

_______ッ、

あの距離を一瞬で進むなんて

やっぱり、渉は僕の予想に収まらない。

風莉

…………僕なんか助けても、

風莉

………何も、よくないよ、

風莉

………もう、

風莉

…はなして、

僕がそう言って指を解こうとした瞬間

離すわけがッ……ないでしょうっ!?

雨で濡れた顔で

らしくもなく、叫ぶ渉がそこにいた。

…………くっ………、

流石に力が抜けてきたのか

少し苦しそうにする渉。

このまま時間が経って、 "僕だけ"落ちてしまえばいい。

そんな願いを叶えるように

偶然にも降っていた雨によって、指は湿り

今にも滑ってしまいそうだった。

風莉

………………

もう、滑ってもおかしくない。

そう思った時

   

師匠ッ!!

最近どこかで、聞いたことのある声

それとともに近づいてくる

おそらく、2人分の足音。

風莉

(ああ、もう…

風莉

(死ねないかな、

そう思った途端

僕の体は引っ張られた。

   

…師匠、大丈夫?

今日聞いたばかりなのだから

間違えるはずのない声。

それは逆先くん、つまり夏目だった。

   

…渉?

もう1人は、最近五奇人だなんだと言われている

朔間零。

ええ、…2人とも、

本当にありがとうございます。

でも、この時の僕の目には映っていない。

僕にはそんな余裕などなかった。

風莉

…、なんでッ!!!

…………

風莉

助けたりなんか、するのっ……、!?

風莉

僕は、望んでここから飛んだのっ!!!!

風莉

助けてなんて頼んでない!!!!

風莉

僕なんか、生きてる意味ないの……!!!!!

ほっといてよっ!!

渉が、急に黙る。

そんなこと滅多にないけど、

僕はそんなこと気にかけられない。

故に

…ッ……

渉の表情が、いつもと違うことにも気づかなかった

パァンッ

そんな音が聞こえて

頬の痛みが数秒遅れてやってきた。

風莉

………は、……ぇ……、

覚えているのは、それと、

耳が張り裂けるようなよく通る声。

ふざけないでください!!!!

あなたは、自分の価値がまるで分かっていない!!!

風莉

…………わた……、る…、?

…貴方を、大切に思う人もいるでしょう…?

少なくとも私は、貴方を必要としているんです、!

勝手にいなくなったり、

意味がないなんて、言わないでください…、

一つだけ、脳裏に焼き付いている言葉。

…誰かのためなんて、考えなくていい、

生きてください

風莉

………………、

きっと僕の顔は

雨と涙でぐちゃぐちゃになっていただろう。

…………

………………すみません

僕の顔を一瞬見て

らしくない言葉を残して、渉は去っていった。

夏目

……………師匠、

……風莉。

風莉

………………、

視線だけ、声の主に向ける。

…お前の考えが、

あいつと同じ考えとは、限らねぇぞ。

『もっとあいつに相談しろ』

多分、零はそう言った。

…行くぞ、夏目。

夏目

……うン、

パタン

ドアは優しく閉まった。

1人になった屋上には

止む気配のない雨だけが、 静かに打ちつけていた。

追憶*悪魔と道化師のcazador Live

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