俺は少し前に交通事故にあって入院している
不幸中の幸いとでも言うべきか怪我自体は大きなものではなく
2ヶ月程度で退院出来そうなものだという
今日はその事故からちょうど1ヶ月経った
リハビリも少しずつやっていて予定よりも早く退院出来そうだ
そんなある日の事である
暗い空間に1人少女が歩いてくる夢を見た
ペタペタペタ…と裸足でタイルを歩くような足音を立てながらこちらにやって来る
そして自分に語りかけてくるのだ
少女
少女
無邪気な声とは裏腹に少女の目はどこか空虚を見ている
少女
その問いに対し俺は唖然とした
そして視線を少女の足元に向けると何故か黒いモヤのようなものがかかり足がよく見えない
もし俺が少女の問いに適当に返事を返したらろくなことにならないだろう
頭では分かってるが夢での自分を制御するのは難しい
和彦
無難な返しをした俺に対し少女はむぅ と膨れるが直ぐに膨れるのをやめて別の案を出してきた
少女
少女
和彦
和彦
和彦
少女
少女
そういうと喜んで来た道を走った戻っていく
それから少しして俺の意識はそのまま闇に溶けていった
その夢を見た翌日のことである
あの夢が不思議な夢であるのは確かだ
その上夢とはいえ恐ろしい約束をしてしまったのだ
なんとなくだがその夢が不安を煽る
そしてその不安が的中した
喉が乾き1階の自販機に飲み物を買いに行こうとした時だ
階段を使い降りてる最中足を滑らせ落ちてしまった
治りかけていた足だったために少し脆くなっていたのか左足を折ってしまった
せっかくあと少しで退院出来たというのになんとも俺はついてない
その時はそう思っていたが自分の病室に戻された時にあの少女を思い出した
【片足を貰う約束をした】あの少女を
昨日の夢のすぐ後にこんな事が起きてしまった
それを思い出してしまい不安と少しの恐怖を覚えた
そしてその夜のことまた少女の夢を見る
少女
少女
少女
昨日までは見えなかった少女の足だが
今日は片足がくっきりと見えている
それも俺が足を折った左足の方だけ…
少女
少女
足の次は腕を求めてきた
あんな事があった直後に俺は直ぐに返事を返せなかった
変に返せばまた同じようになる可能性がそこにあるからだ
少し考えまた前回と同じように返すことにする
和彦
和彦
少女
少女
和彦
和彦
少女
少女はまたもやプクッと頬をふくらませる
一見すると可愛いものかもしれないが
状況が状況な上にやはり声質と行動これらとは対極に位置する冷ややかな目
正確にはどこを見てるのか分からない光を失った空虚なその瞳
それがまた不気味さを醸し出し恐怖を感じる
膨れるのをやめてこちらをじっと見たあと【べー】と舌を出してどこかに消えてしまった
その後にまた俺の意識が消えていく
目が覚めたと同時に左足に痛みを覚える
いや、痛みで起きたと言った方がこの場合は適当だろう
その痛みは昨日階段から落ちた時の比ではない
あまりの痛さに声すらも掠れるほどだった
隣人が異常を検知してナースコールを掛けてくれ看護師が駆けつけてくれた
その後担当医がやってきて検査した結果
不思議な事に折れた左足の部分が粉砕骨折となっていたのだ
たかだか階段から落ちただけでここまでなることは無い
さらに言えば落ちたその日に検査もしてる
その時はこんな酷い状態ではなかった
この状態ではもうどうすることも出来ず致し方なくその足を切断することになった
その手術前にあの少女を思い出す
あの左足本当に自分の足を犠牲にして少女は得たものだろう、と
偶然にしてはできすぎてるこの現状に俺は恐怖以外の感情は出てこなかった
手術が始まり少しして急な睡魔に襲われた俺はそのまま眠りにつく
少女
少女
少女
少女
少女
少女
変わらぬ様子で少女は俺に話しかけてくる
もう少女の話に耳を傾ける気はさらさらない
俺は少女の願いのせいで足を失ったのだ
少女の問いに答えるともう俺はあとがないのだ
だから俺は少女の問いに答えることは無い
少女
少女
少女
少女
少女
少女
先程まで嬉々として話しかけてきた少女の声は突如冷たいものに変わる
そして表情もそれに伴って冷たくなる
先程まで上がっていた口角がスっと無くなり声も無邪気なものでは無い
どこか恨みや悲しみに似た声を出して俺に話しかける
俺の恐怖を煽っていたあの瞳は更に黒くなる
その瞳に光が宿ることは無くただ真っ直ぐに俺を見ていた
その水晶体には俺しか映さない
あの空虚な瞳が俺を縛り付ける
そして最後の一言
【私から逃れられない】
俺はきっとこの先もこの少女に脅される
いや、もしかすると俺に先はないのかもしれない
この暗く何も無い空間に縛られる事も可能性としてあるのだ
俺はもう何処にも行くことは無い
コメント
1件
果たしてこれは正夢になるのか?