今日は学校の空き教室を借りてアナログゲームの撮影をして、今は休憩中。
NakamuやBroooockはシャークんにひっつき虫だし、きんときやスマイルはそんな彼と会話を弾ませる。
入る隙が無い。
皆シャークんが好きなんだ。
勿論変な意味ではなく友達として。
でも俺は違う。
出来ることなら彼と手を繋ぎたいしハグしたいし唇を重ねたい。
いくら願った所で叶わないけれど、でもやっぱり面白くない。
そんな時だった。
ふと学校の用務員さんがやって来て俺達を呼ぶ。
用務員
Nakamu
この人は誰にでもフレンドリーに接してくれて人気が高い。
たまに飴をくれたりして俺もよくお世話になっている。
用務員
両手を合わせて軽く頭を下げる彼にシャークんは嫌な顔せず頷く。
シャークん
用務員
お互いに柔らかい雰囲気を纏っていて花が飛んでいる。
なんて悠長な事を考えている場合ではない。
これはチャンスだ。
独り占めするチャンス。
誰かが声を発するより早く俺は立ち上がった。
きりやん
用務員
きりやん
すると心優しいワイテルズのメンバーが次々と手を挙げる。
Nakamu
きんとき
スマイル
Broooock
これはまずい。
折角の申し出だけれど早く手を打たなければ。
きりやん
きりやん
きんとき
Broooock
Nakamu
スマイル
納得して貰えたようで良かった。
行ってきますと手を振り、少しでも長く隣に居たいが為に態とゆっくり歩き倉庫に向かう。
災害用の備蓄が置かれている倉庫の場所は知っていたが訪れるのはほぼ初めてだ。
もしかしたら入学当時に案内されて以来かもしれない。
中に入る時に床に落ちていた箱を蹴飛ばして何しているんだと笑われて、かっこ悪いスタートを切った作業は、シャークんがダンボールを確認し俺が運ぶという役割分担が自然と出来上がった。
メンバー1の力持ちの実力を見せつけて後で労ってもらうのだ。
シャークん
きりやん
引越し業者のゲームでは皆の邪魔ばかりして笑いを生み出していたシャークんだけど、今は無駄が無くてかっこいい。
ギャップというやつだ。
優しくて可愛くて仕事もできるなんて、そりゃ女の子じゃなくても惚れてしまうよ。
なんて考えながら外に出ようとしたのだが、
きりやん
ドアが開かない。
押しても引いてもびくりともしない。
シャークん
きりやん
異変に気づき見に来てくれたシャークんに伝えれば呆れた顔でため息を吐かれてしまった。
シャークん
きりやん
初めて知った。
確かにうちの学校はセキュリティが強いから何等不思議では無い。
きりやん
シャークん
きりやん
シャークん
立て付けが悪いわけでも無さそうだし、鍵穴があるわけでもない。
これってもしかして、閉じ込められたのでは。
シャークん
きりやん
シャークん
きりやん
そういえば、入る時に何か箱を蹴飛ばしたっけ。
シャークん
きりやん
シャークん
きりやん
シャークん
え、あれ。
もしかして…。
きりやん
シャークん
こんな漫画みたいな展開って本当に起こるものなんだね。
俺の不安に思う気持ちが顔に出てしまっていたのかシャークんが尖った歯を見せて笑う。
シャークん
きりやん
一生懸命元気づけようとしてくれるのは有難いんだけど、違うんだよシャークん。
そんな事くらい俺だって分かっている。
問題は誰かが来てくれるまでの間だ。
男同士、密室、何も起きないはずもなく…。
って言葉を聞いたことがある。
一体何が起こるというのだろうか。
もっと詳しく調べておくんだった。
シャークん
きりやん
シャークん
きりやん
これはまずい。
意識したら急に緊張してきた。
シャークん
きりやん
落ち着け俺。
2人きりになったことなんて今まで沢山あるではないか。
大人しく座っていれば何も起こらない。
平常心、平常心。
シャークん
きりやん
無理だ。
床に座り壁に寄りかかっているから当然シャークんの方が目線は高いわけで。
そんな場面今までだって幾らでもあったけど、正面から前屈みになって見つめられたことなんて無い。
小さい子じゃないのだし目線を合わせてくるなんて思ってもみなかった。
前屈みってこんな殺人的なポーズだったっけ。
前に垂れた服の隙間から胸が見えちゃいそうだよ。
そっちの方が高い位置に頭があるのに何で上目遣いになるのかな。
明るいわけでもないのに後光が差してる。
なんか白い翼も見えてきた。
あれ、天使?
シャークん
きりやん
どうして隣に座るのかな。
近いんだけど。
受け取った水をがぶ飲みしたら落ち着いて飲めって笑われてしまったけどそれどころでは無い。
もうほぼ触れている。
距離感バグってやつだ。
普段は気にならないのに。
早まる鼓動を誤魔化すように話題を作る。
きりやん
シャークん
そう言って俺の手からペットボトルを抜き取ったシャークんはさも当然かのように口をつけた。
待ってそれ間接キス。
きりやん
シャークん
きりやん
間接キスって普通の事だっけ。
そうだ、今更何を恥ずかしがっているのだろう。
食べ物だってシェアする仲ではないか。
メンバー皆で1本のコーラを回したことだってある。
バグっているのは俺の方だ。
1人でアタフタしている俺を不審に思ったのか、気づけばシャークんの顔が目の前にあった。
シャークん
きりやん
シャークん
あまりの近さに動揺し身を引くと積んであったダンボールにぶつかってしまい、バランスを崩した箱はシャークん目掛けて倒れてくる。
反射的に守ろうとしたのだが、それが良くなかった。
今の状況は誰がどう見ても俺がシャークんを組み敷いているようにしか見えないだろう。
キョトンとした顔で見上げてくるシャークんは余りにも純粋で可愛くて小動物みたいで、早く退かなくてはならないのに危なっかしいと思う程に無防備で中々動くことが出来ない。
きりやん
シャークん
きりやん
この気まずい空気の原因は明らかに俺なのに、ずっと続けばいいななんて思っている。
いや気まずいと思っているのも俺だけかもしれないけれど。
シャークんは一向に動く気配のない俺を嫌がるわけでも押し退けるわけでもなくそのまま会話を続けた。
シャークん
きりやん
シャークん
きりやん
今正に悩んでいるし困っているのだが、それを伝えるのはとても恐ろしい。
けど、何故だろう。
緑色の目に見つめられると勝手に口が動いてしまうんだ。
きりやん
シャークん
きりやん
きっと自分のことだとは思っていないんだろうな。
シャークんらしいと言えばらしいのだけど。
シャークん
ほら。
犬を撫でるみたいに髪をわしゃわしゃと掻き乱してきて悪戯っ子のように笑う。
シャークんがいけないんだ。
必死に抑え込んでいる理性を揺さぶるようなことをしてくるから。
きりやん
シャークん
きりやん
シャークんが口を開くより先に顔を近づけた。
重ねた唇は思っていた通り柔らかくて、何時まででも味わっていたくなる。
でもそういう訳にもいかず体を起こせば耳まで真っ赤に染めて呆然と見つめ返してきた。
シャークん
きりやん
シャークん
きりやん
からかわれたと思ったのだろう。
メンバー同士仲が良すぎるというのも考えものだ。
抱きついたり押し倒したりは日常茶飯事。
だから感覚がおかしくなっているのだ。
でも唇へキスをする奴なんて居ない。
俺は冗談で終わらせたりなんかしないよ。
きりやん
きっと人のこと言えないくらい俺も赤くなっている。
もっとスマートにかっこよく告白できたら良かったのだけど、俺にはまだ無理そうだ。
さっきまで無邪気に笑っていたシャークんはだいぶ大人しくなり困惑しているとひと目で分かった。
きりやん
シャークん
きりやん
最初から力なんて入れていない。
俺より力の弱いシャークんでもその気になれば抜け出せるだろう。
けど再び重なった唇に期待してしまう。
俺の手に指を絡ませるだけで退かそうとはしない。
何処までなら許してくれるだろうか。
舌を入れたら、肌に触れたら、繋がったら。
用務員
ノック音と共に聞こえた用務員さんの声に我に返ってシャークんから離れる。
もし声をかけられなかったら歯止めが効かなくなっていたかもしれない。
危なかった。
きりやん
用務員
ゆっくりと体を起こすシャークんに代わって返事をすれば外から鍵を開けてくれた。
散乱したダンボールを整えシャークんの手を引いて部屋を出る。
きりやん
用務員
きりやん
用務員
相変わらず彼は優しい。
お言葉に甘えてお任せしよう。
シャークんと2人で廊下を歩く。
きりやん
シャークん
きりやん
遠くの方でメンバーの楽しそうな笑い声が聞こえる。
シャークんを独り占めできるのもあと少し。
でも、もう寂しいとは思わない。
シャークん
俺が一方的に掴んでいた手が握り返してきて、愛おしさにまたキスをしようとしたら場所を考えろと止められた。
きりやん
シャークん
きりやん
シャークん
軽く頭を叩かれてしまったけれど、優しいシャークんは俺の願いを聞いてくれるだろう。
楽しみで嬉しくて、その後の撮影は絶好調だった。
数日後、投稿された動画のコメントに「今日は一段と元気だね」「何かいい事でもあったのかな」と書かれていて、シャークんを抱きしめながらニヤつくこととなる。
END