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ウェヌス先生
魔法訓練授業に参加するのも4回目。
今回は基礎訓練に参加するのとは別に、ウェヌス先生から闇《ケイオス》の魔力を発動する機会があったら試してほしいと言われている。
地《テラ》の基礎訓練に参加した時は魔法訓練授業を台無しにしちゃったから、ちょっと気が進まない。
だけど、自分の魔法を知るためだから、人に迷惑をかけないように、気をつけながら何とかしよう。
今までできていなかったけど。
シシロウ
ホマレ
集合場所の正門広場についたところで、シシロウとホマレに声をかけられた。
先日の地《テラ》の基礎訓練での一件がうわさで広がっているので、ぼっち覚悟でいたから助かった。
シシロウ
ホマレ
ユウゴ
なんだか、2人の圧が強い。
実際、周りからの視線はいつもより感じるし
???
???
???
???
と、うわさに尾ヒレ背ビレがたっぷりついている。
基礎訓練の開始時間になり、ガイド妖精が飛んで来た。
ガイド妖精
ガシッ、ガシッと、両腕をシシロウとホマレにつかまれた。
シシロウ
ホマレ
そんな、体育の授業のような悲劇が、こんなところで起こっていたなんて。
ぼくも他の人と組めなそうだったから、いいけど。
ガイド妖精
ガイド妖精があおってくる。
シシロウ
ホマレ
ガイド妖精
ガイド妖精がいくつもの光の球を出し、大きな氷が乗った台車に変化させる。
【氷運びレース】 ・3人組で氷を乗せた台車を運ぶ。 ・魔法の氷なので、通常より溶けにくくなっている。 ・コースは正門~アーケード通りの出口まで。 ・成績は順位ではなく、ゴールを通った時の氷の大きさで判定する。 ・3人全員がゴールに到着し、はじめてゴールとなる。 ・1位に3ポイント、2位に2ポイント、3~5位に1ポイント。
ユウゴ
水《アクア》の遠泳、風《アエル》のコスプレ大会、地《テラ》の芋掘りと色物が続いたから、かえって面食らった。
シシロウ
ユウゴ
ホマレ
他の属性の魔法訓練授業も、段々と実践的なアミ戦に変わっているのだろうか。
台車は大きい車輪があるリヤカータイプ。
前のハンドルを引く役をシシロウ、後ろの左右にぼくとホマレがついて押していく形で、まずはフォーメーションを組んだ。
レースの展開や疲れ具合に応じて、順次役割を変えていく予定だ。
ウェヌス先生
ウェヌス先生が正門のスタートラインに並ぶみんなに声をかける。
シシロウ
ホマレ
シシロウとホマレが不穏な言葉をもらす。
その意味はすぐに知ることとなる。
ガイド妖精
全部で18台の氷台車が一斉に走り出した。
正門は18台も並んで通れるほどの横幅はないので、いきなり正門取りのぶつかり合いが始まった。
ホマレ
ユウゴ
ホマレに声をかけられて立ち止まると、目の前で火の玉が爆発した。
???
捨て台詞を言いながら、となりのチームが通りすぎていった。
ユウゴ
シシロウ
シシロウは止まらずに、正門に向かって台車を引いて走っている。
おいてかれないように、すぐに走って追いかける。
ユウゴ
ホマレ
すぐ後ろを走るチームが、穂先が燃える槍を投げてきた。
ホマレ
ホマレが燃える左のアッパーパンチで殴りあげて、燃える槍を折る。
何が起きているんだ。
シシロウ
ホマレが離れたことで台車が曲がってしまったので、ぼくは中央に移動して、両手で台車を押した。
ホマレ
ホマレ
ホマレがひとり残って、後続チームの前に立ちはだかる。
ホマレ
今度は地面を殴りつけた。
ドドンと爆発音が響き、ホマレを中心に亀裂が入る。
後続チームのうちの1組が、台車の車輪が亀裂にハマり動けなくなった。
???
ホマレ
他のチームは亀裂を避けて迂回しながら、正門に向かっていく。
ホマレもすぐに走り出して、ぼく達に追いついた。
正門を通ってアーケード通りに入った。
現在の順位は、ちょうど真ん中くらいだ。
ユウゴ
シシロウ
ホマレ
それは訓練になるのだろうか。
基礎訓練の日のシシロウも、大きなケガをして帰ってくることはないから、多分2人は優秀な方なんだろう。
アーケード通りは基本的にはアミキティア魔法学校の生徒や教職員が利用する商店街なので、授業がある昼間はほとんどの店は開店前で閉まっている。
シャッター通り状態の道を、氷を乗せた台車が爆音を上げて疾走していく。
???
???
ぼく達の左右に、それぞれ別のチームが追いつき、並走をはじめた。
どうやら、ぼくが狙われているみたいだ。
シシロウ
シシロウ
シシロウが魔法具《マギアツール》の剣を出して、右側を並走するチームに向かって薙ぎ払う。
台車を一刀両断にし、破壊した。
ユウゴ
シシロウ
ホマレ
ホマレ
ホマレが左を並走するチームに向かって、燃える左パンチを放つ。
???
ホマレの動きが止まった。
ホマレ
???
よく見ると左側のチームの姿がぼやけて見える。
熱でふくらんだ空気がレンズのようになって、景色が歪んで見えるんだ。
ホマレ
ホマレ
???
相手が熱を操り、周囲の温度が上がっていく。
ホマレ
シシロウ
シシロウ
ぼく達の台車の氷が、大量の水を流して急激に溶けはじめた。
ぼく達の氷だけじゃない、前後を走る他のチームの氷も同様に、大量の水を流している。
唯一、左側のチームの氷だけが溶けていない。
ユウゴ
シシロウ
シシロウ
シシロウが頭上を見上げる。
アーケード通りの天上には大きなガラス窓が並んでいるんだけど、窓枠が歪んで見える。
熱でふくらんだ空気がレンズのようになって、景色が歪んで見えるんだ。
ユウゴ
シシロウ
シシロウ
???
シシロウ
ホマレ
くやしそうに歯噛みする2人。
ユウゴ
シシロウの剣で氷を切ってレンズ化すれば、収束させた強力な太陽光を浴びせることが出来る。
シシロウ
シシロウ
狙って太陽光を反射させても、逃げられてしまうだけか。
ホマレ
前にも後ろにも、他のチームが走っている。
それぞれの集団で妨害合戦が行われている。
魔法などで他チームの台車や氷を攻撃したり、 氷の上にアルミシートをかけて太陽光から守ったり、 あえて順位を送らせて後ろに移動したり、 それぞれのチームがそれぞれの作戦で競技を戦っている。
シシロウ
シシロウ
ホマレ
ホマレ
シシロウの案も、ホマレの案も、一理ある。
アーケード通りでは走りやすい真ん中は天上からの太陽光が降り注ぎ、日陰になる両はしは看板や街灯等を避けて走らなきゃならないから、スピードを抑えなきゃならない。
ともかく、今の中途半端な状態のまま走るのが1番まずい。
アルミシートをかけているチームのように、氷を太陽光から守る方法があれば。
ユウゴ
ユウゴ
ホマレ
ユウゴ
ホマレ
ユウゴ
ユウゴ
ホマレ
ホマレが左手でぼくの肩をぽんと叩いた。
左肩から指先にかけて、痺れるような痛みが走る。
来た。
闇《ケイオス》の魔法が発動する前兆現象だ。
ウェヌス先生の推測どおり、外部から魔力が入り込むのが発動条件だったみたいだ。
左腕に力を込めると、発生した黒い煙があふれれ出てきた。
いままでは不意打ちだったから心の準備が出来ず、闇《ケイオス》の魔力を暴走させてしまったが、今回は自分の意志で魔力をもらった。
自分の意志で、黒い煙を操作できそうだ。
ユウゴ
左腕から立ち込める黒い煙を、氷の周りにまとわりつかせる。
闇《ケイオス》の魔力が太陽光や空気の熱を吸い込んで消滅させていく。
シシロウ
ホマレ
ユウゴ
シシロウがハンドルを引き、ぼくとホマレが台車を引く。
けど、動かない。
シシロウ
ホマレ
ユウゴ
さっきまで溶けていた氷の水は、台車の底から流れ、車輪や車軸を伝って地面に水たまりを作っていた。
ぼくの反撃の狼煙《リベンジヘイズ》は空気の熱だけでなく、車輪や車軸、水たまりからも熱を奪い、完全に凍らせていた。
シシロウ
ユウゴ
シシロウ
ホマレ
シシロウが天界の聖なる業火《ホーリーインフェルノ》で、 ホマレが大爆発拳《ボルケーノインパクト》で、 台車を止めている氷を溶かそうと魔法を放った。
この2人の魔法が氷だけを溶かすはずがなく、台車がまるごと大破した。
もちろん、レース続行不可能で未クリアになった。
ユウゴ
魔法訓練授業が終わったあと、未クリアになってしまったことを、シシロウとホマレに謝った。
シシロウ
ホマレ
ユウゴ
ウェヌス先生
先にゴールで待っていたウェヌス先生にたしなめられた。
今回は台車を凍らせちゃっただけですんだけど、アーケード通りの中で大爆発を起こしていたら、大きな被害が出ていたかもしれない。
さっきはレースに夢中で考えが及ばなかったけど、かなり怖いことをしていたんだと反省する。
ガイド妖精
正門に着いたところで、正門広場を飛んでいるガイド妖精が見えた。
何かの募集をかけているみたいだ。
ウェヌス先生
ユウゴ
ウェヌス先生
シシロウ
ホマレ
唯一レイド戦を知っていたシシロウが、説明をしてくれる。
シシロウ
ホマレ
ウェヌス先生
ウェヌス先生
ウェヌス先生がからかうような笑顔で言う。
シシロウ
ユウゴ
ホマレ
ホマレ
ウェヌス先生
ホマレ
ウェヌス先生
ホマレ
ホマレがガイド妖精にタッチすると、ガイド妖精は
ガイド妖精
とこたえて扉に変化した。
ホマレは躊躇することなく、扉に飛び込んだ。
ユウゴ
シシロウ
シシロウは早々に不参加表明。
ガイド妖精
ぼくが戸惑っているうちに、扉は閉まってしまった。
ウェヌス先生
ユウゴ
ウェヌス先生の指摘にかわいた笑いしか出ない。
シシロウ
ウェヌス先生
ウェヌス先生
シシロウ
ウェヌス先生
ウェヌス先生はいつもの調子ではぐらかす。
たぶん確信的な返答を避けるためだろう。
3分もしないで、ガイド妖精の扉が開いた。
中から全身がピンクやオレンジのインクにまみれたホマレが出てきた。
ユウゴ
ホマレ
それ以上は答えてくれなかった。
ホマレ
ウェヌス先生
ホマレとウェヌス先生は、先に寄宿舎に帰っていった。
シシロウ
シシロウは皮肉っぽく言うが、表情は笑っていない。
実力は認めているホマレが手も足も出なかっただろうことが想像できて、レイド戦のレベルの高さを肌で感じたからだろう。
ぼくも同じだ。
基礎訓練でさえついていくのが精一杯だったのに、ブロンズクラス以上の人達は、その基礎訓練を何度もクリアしてきた人達だ。
わずかに覚醒をはじめた闇《ケイオス》の魔法では、何の役にもたたないと痛感した。