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演目『お兄ちゃん』2

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演目『お兄ちゃん』2

1 - 『 ボクって誰だっけ 』

♥

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2023年01月31日

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プルルルルル...

お母さん

はい...え!?

お母さん

わかりました!すぐ向かいます

お父さん

どうしたんだ?

お母さん

小晴の病状が悪化したみたいで......

お父さん

なんだって......晴翔。お前も一緒に病院に行こう。

晴翔

え.....でも、

今日は晴翔の誕生日。

ぬいぐるみが、晴翔のためのミュージカルをしてくれると言っていた。

『でもお兄ちゃんだから...我慢しないと』

『わがまま言っちゃダメだ...』

『ミュージカルはいつでもできる...』

そう思っていたはずなのに...

晴翔

...やだ

お父さん

...なんだって?

晴翔

いやだ...僕は行きたくない...。

母の息を飲む音がした。

そう言った瞬間、パンっと乾いた音が響いた。

晴翔

いた...っ......

晴翔はヒリヒリと痛む頬を抑えた。

目の前がチカチカし、立っているのがやっとだった。

お父さん

お前には、失望した...。

お父さん

妹の心配もできないような奴は、着いてこなくていい。

父は悲しそうに吐き捨てた。

ずっとずっと我慢してきたのに

寂しくても1人でお留守番して

1人でお風呂に入って

1人で夜ご飯食べて

洗濯物も食器洗いも

お父さんとお母さんに褒めて欲しいから

だからたくさん頑張ってきたのに...

僕はもういらない子なんだ

晴翔

.........っ

お母さん

ちょっと晴翔...!

気がつくと晴翔は家を飛び出していた。

あのぬいぐるみを抱えて___

晴翔

はぁ......はぁ......

晴翔

ひぐ...っ......う...うぅ...

晴翔の頬を伝った涙が、アスファルトに落ちて滲んだ。

クマのぬいぐるみ

ねえ晴翔くん!なんで泣いてるの?

場違いなほど明るい声に、晴翔の涙は止まらなくなった。

晴翔

ぼく...お、お兄ちゃん...なのに、

晴翔

小晴、病気で...辛いのに、

晴翔

行きたくないって...言っちゃった...

晴翔

わがまま...言っちゃった...

クマのぬいぐるみ

ふーん......あ、そうだ!

不意に考え込む素振りを見せ、ぬいぐるみは言った。

クマのぬいぐるみ

いいこと思いついた!

晴翔

え、いいこと?

クマのぬいぐるみ

うん!あのね...

クマのぬいぐるみ

晴翔くんが小晴ちゃんの代わりになればいいんじゃないかな!

晴翔

小晴の...代わり?

クマのぬいぐるみ

うん!僕が話せるようになったときみたいに

クマのぬいぐるみ

神様にお願いすればきっとなれるよ!

晴翔

で、でも...

クマのぬいぐるみ

だって晴翔くんは、お母さんとお父さんに見てほしかったんでしょ?

晴翔

え...

クマのぬいぐるみ

ずっと小晴ちゃんばっかり...って思ってたんでしょ

晴翔

そ、そんなこと......

クマのぬいぐるみ

100点のテストも、ミュージカルの練習も

クマのぬいぐるみ

たくさん頑張ったって見てくれないのに

クマのぬいぐるみ

小晴ちゃんは、ちょっと痛い注射我慢しただけで

クマのぬいぐるみ

たーっくさん撫でてもらえるんだよ

クマのぬいぐるみ

ね?晴翔くんは、してもらったことある?

晴翔

......ないよ

晴翔

けど、僕はお兄ちゃんだから...

クマのぬいぐるみ

お兄ちゃんだから...って我慢しなきゃいけないの?

クマのぬいぐるみ

そんなわけないよね?

晴翔

そうだけど...

クマのぬいぐるみ

それに晴翔くんが小晴ちゃんの代わりになれば

クマのぬいぐるみ

小晴ちゃんは今までできなかったこと沢山できるよ!

晴翔

あ......たしかに...

クマのぬいぐるみ

この前、小晴ちゃん遊園地行きたいって言ってたじゃん

クマのぬいぐるみ

それにミュージカルも観にいきたいって!

クマのぬいぐるみ

この前は倒れちゃったんだっけ?

晴翔

うん...

クマのぬいぐるみ

病弱な身体じゃ安心してどこも行けないしね

晴翔

そうだね...

クマのぬいぐるみ

ね、晴翔くんにとっては悪い話じゃないでしょ?

クマのぬいぐるみ

ちょっと我慢するだけで両親の愛情2倍もらえるんだよ?

クマのぬいぐるみ

欲しいよね?

晴翔

......うん

クマのぬいぐるみ

じゃあほら!お願いして!

晴翔

うん...!

晴翔は顔の前で手を合わせ、一生懸命になりお願いをした。

晴翔

(お願いします...僕を小晴の代わりにしてください)

その心の中で呟いた途端

晴翔

う...っ

背中が殴られたかのように呼吸が苦しくなった。

たくさん酸素を吸おうとするが、全身に穴が空いていて、そこから漏れているかのようだ。

やがて、手足が痺れ視界が狭くなっていく。

晴翔

(僕...最期くらいは、家族の役に立てたかな...)

そして晴翔は意識を手放した。

誰かの呼んでいる声で目が覚めた

見慣れない真っ白な天井

病院特有の消毒液の匂いがした

小晴

お兄ちゃん!!

元気そうな小晴が視界に入ってくる。

こっちは病人だってのに、甲高い声出さないで欲しい。脳に響く。

お母さん

ほんとに心配したわよ...

お母さんって演技派なんだな...。思ってもないことをよくもこう涙ぐんで言えるものだ。

お父さん

良かった...本当に良かった...

言っとくけど引き金お前だからな...。しばらくは顔も見たくない。

そろそろ演劇も終盤かな。

えっと次のセリフは...あ、俺か。

ゆっくり瞬きして口角上げて。

晴翔

もう大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。
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