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【完結】世の中は理不尽だけれど…

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【完結】世の中は理不尽だけれど…

16 - 世の中は理不尽だけれど…⑭

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2021年03月19日

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記憶は、

初めて叔父と出会ったところから甦る。

己の父親ととてもよく似た顔の叔父。

だが、

その笑顔をいつも怖いと思っていた。

目が怖い。

だから、

叔父も怖かった。

とても優しくて、

何でも買ってくれたけど

叔父の顔は

いつも怖くて見れなかった。

そのことを母親に言うと、

とても困った顔をしたから

言わないようにしたけど

叔父の笑顔に慣れることはなかった。

……

あの時、

自分を車の中に押し込んだ時も

父親に息子の居場所は知らないと嘘を吐いて

電話を切った時も

自分を蹴ったり殴ったりした時も

叔父は笑っていて、

怖かった。

誰か助けてって…

ここから出してって…

何度も

何度も

思って

そして、

サンタにお願いをした。

サンタは

どんな願いでも叶えてくれる存在。

そんな話しを

母親から聞いていたから。

だけれど、

サンタは現れなかった。

薄れゆく意識の中で、

叔父と叔母が

幸せそうに笑っていた。

いつもの怖い笑顔ではない、

心底嬉しそうな笑顔だった。

いいなぁ、

自分もあんな風に笑いたいなぁ…

”幸せになりたいなぁ…”

そう思って

意識は途切れた。

サタン

太郎、大丈夫か?

太郎

っ!!

サタン

……

サタン

我のことがわかるか?

太郎

サ、サタン…

サタン

うむ、そうだ

 

太郎!

太郎

……

 

太郎!大丈夫か?

太郎は握っていた手を振り切った。

 

!!

そして、逃げるようにサタンの背後に回る。

 

太郎…

太郎

パパじゃない

 

!!

太郎

叔父さんでしょ!

 

ちっ!思い出したからなんだ!

もう一方の手を伸ばそうとしたが、

その手もサタンが掴む。

 

邪魔するな!

ボギッ!

両腕の骨が握りつぶされる。

 

んぎゃっ!!

サタン

邪魔?

サタン

邪魔をしたのは貴様らの方だろう

そのまま力を込めると、

手首から先が千切れて落ちた。

 

ふざっ

 

ふざけやがって!!

時塚英司が怒鳴ると、

体が見る見る膨れ上がり、

手足が異常に短い巨漢となった。

否、

その顔は二つあり

女性と思われる顔は泣いていた。

サタン

大きくなってどうするのだ

サタンは呆れたように呟く。

 

うるせぇ!

 

まとめて押し潰してやる!

 

お前だけ幸せになるなんて

 

それだけは絶対に許せねぇ!!

雄叫びを上げ、

圧し掛かってこようとした時塚。

しかし、

その動きは巨体相応の

非常にゆっくりとしたものだった。

サタンは重いため息一つ吐いて拳を握りしめ、

ブヨブヨとした腹部に一撃、入れた。

ドンッ!

鈍い音と共に

時塚の膨れ上がった欲望という名の肉が揺れ、

 

んごっ

物凄い勢いで吹き飛んでいった。

太郎

!!

暗闇の中で何かにぶつかる音がして、

真っ暗だった空間がひび割れ、

砕け散る。

結界をぶち破った時塚英司の魂は

そのまま空の彼方へ飛んで行った。

ロマリエル

サタン様!太郎坊ちゃん!!

太郎

マリー!

ロマリエル

怪我はありませんか?

太郎

うん!大丈夫だよ!

ロマリエル

ご無事で何よりです

サタン

マリーも大事無いか?

ロマリエル

はい!この通りピンピンしております

サタン

そうか、それはよかった

太郎

あ!ベザルは?

ロマリエル

ベザルはもう一仕事あるみたいなので

ロマリエル

もう少しここで待っていましょう

太郎

…ベザル、一人で大丈夫かな?

サタン

心配はいらぬ

サタン

あれも立派な我の使い魔だからな

太郎

…そう、だよね!

ロマリエル

きっとすぐに帰ってきますよ

太郎

うん!

 

痛い…痛い…

地面の上を転がる欲の塊。

 

なんで…どうして…

 

オレがこんな目に…

 

ちくしょう…

 

理不尽だ

 

こんなの…

ベザル

あっ、やっぱり消滅してない

 

!!

 

だ、誰だお前は

ベザル

サタン様の使い魔

 

!!

ベザル

そう言えば大体察しはつくでしょ?

 

くそっ…

欲の塊は起き上がろうとしたが、

ブルブルと震えるだけで起き上がることは出来なかった。

 

痛い痛い…

ベザル

じゃあ、今、楽にしてあげるよ

 

え…

そう言うとベザルはその身を

一回りも二回りも大きくさせた。

 

え…あ…

その燃えるような真っ赤な瞳に

怯える塊が映る。

ベザル

地獄の底でサタン様に盾突いたこと

ベザル

一生、後悔しろ

ベザルはその喉元に噛み付き

容赦なく引き千切った。

 

あ…ぎゃぁぁぁぁぁあああ!!

太郎

パパとママ……

太郎

死んじゃったの?

サタン

うむ……

太郎

……

サタン

太郎、すまぬ

サタン

我は、お主の”幸せにしてほしい”という願い

サタン

叶えてやれなかった…

太郎

……

太郎

ううん

太郎は首を横に振る。

太郎

ボク……

太郎

楽しかった

太郎

幸せだったよ

太郎

サタンと

太郎

みんなと過ごせて…

太郎

でも……

太郎

それでも…

太郎

パパ…ママ…

太郎は声を上げて泣いた。

サタンは

そんな太郎を抱き締めてやること出来なかった。

ヴィアルテ

丁度いいじゃねぇか

ヴィアルテ

お前も死んでるんだし

ロマリエル

ルーテっ

ヴィアルテ

あの世で会えるんじゃねぇのか?

太郎

…あの…世?

ベザル

死後の世界ってこと

ベザル

そうだね

ベザル

太郎のご両親は悪魔に殺されちゃったけど

ベザル

悪魔と契約していたわけじゃないし

ベザル

魂はちゃんとあの世にいってる

サタン

うむ…つまり

サタン

太郎もあの世にいけばご両親に会えるということだな

太郎

……怖いところ?

ロマリエル

いいえ

ロマリエル

とても素敵なところだと聞いております

ヴィアルテ

行ったことねぇけどな

太郎

……

太郎

ぼくも行かなきゃダメ?

サタン

うむ

サタンは大きく頷く。

太郎

ここに居たら…

太郎

ダメなの?

サタン

うむ、残念ながら

サタン

ここにいると悪いモノになってしまうのだ

太郎

悪いモノ?

ベザル

さっき太郎くんを襲った

ベザル

叔父さんみたいになるってこと

太郎

!!

太郎

…それは…嫌だ

サタン

そうであろう

太郎

でも、どうやってあの世にいくの?

サタン

うむ、本来であれば死神が迎えに来るのだが…

サタンが使い魔三人を見るが、

三人とも首を横に振る。

サタン

もう少し

サタン

時間がかかりそうだな

サタンの言葉に少しだけ

太郎は嬉しそうな顔をして見せた。

【完結】世の中は理不尽だけれど…

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