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真夏の海、青く広がる空。

──夏休みの、ひとつの奇跡のような日

白い砂を蹴って走る楓花。 久々の外遊びに、頬は少し紅潮していたけど、なによりその笑顔が、まぶしかった。

及川 徹

いっくよ〜、ふうちゃん!

白い砂浜にポーンと響くボールの音。

秋保 楓花

と、とるよっ……!

思わず転びそうになりながらも 必死に腕を伸ばしてレシーブ。

少し逸れたボールを 俺は追いかけてトスし──

及川 徹

はいっ、チャンスボール!

秋保 楓花

えっ、ちょ、無理無理、スパイクできない〜!

及川 徹

いいから、いけーっ!

思い切って飛びついた彼女の手が ボールにかすかに触れる。 ぽとりと砂に落ちたボールを見て ふたりは顔を見合わせた──

及川 徹

惜しいっ!でもナイスチャレンジ!

秋保 楓花

むりー!でも……ちょっと楽しいかも

息を切らしながら笑い合う。 その時間には、試合とはまた違う 素直な喜びがあった。

しばらくふたりは、ゆるくラリーを続けた。 風に吹かれながら、笑って、転んで 汗をぬぐって。

そしてひと休み。砂浜に座って ペットボトルの水を回し飲みする。

秋保 楓花

……ねぇ、こういうのも、悪くないね

及川 徹

うん。ビーチバレー、楽しい。
……ふうちゃんとなら、どんなバレーでも

秋保 楓花

……ふふ。ありがと

ビーチバレーのラリーを終えたあと 楓花が砂浜にしゃがみ込んだ。

及川 徹

なに書いてんの?

俺もその隣に膝をついて 興味津々で覗き込んだ。

彼女の指が、さらさらと砂をなぞる。

《ふうか♡おいかわ》

及川 徹

……ふ、ふうちゃん……それ、なにそのラブいの……!

秋保 楓花

ふふ、なんとなく

及川 徹

ねぇ、そんなん見たら俺、調子に乗るよ!?

秋保 楓花

もう乗ってるくせに

笑い合いながら、今度は俺も指を動かす。

2011《夏》

そしてそっと 楓花が書いた「♡」の部分を 自分の指でくるくるなぞる。

秋保 楓花

なにしてるの

及川 徹

念押し。これ、ずっと残っててほしいから

秋保 楓花

でも波が来たら消えちゃうよ?

及川 徹

……そしたらまた書こう。
何度でも、ふうちゃんと

彼女は小さく目を細めて そんな俺を見つめた。

秋保 楓花

……じゃあ、負けた方が次の落書き係ね

及川 徹

え?急になに、ルール変えすぎでしょ!

秋保 楓花

いーから、勝負…!

そう言いながら立ち上がった彼女が 唐突に砂を蹴って走り出す。 一直線に──海へ。

及川 徹

ちょっ、ずるくない!? 俺の方が出遅れて──

秋保 楓花

えー? 気のせいだよー

振り返って笑う彼女が 波打ち際でくるっと回る。 その瞬間、彼女の手から飛んできた冷たい水が、俺の顔を直撃した。

及川 徹

うわっ! ふうちゃん……やったな?

秋保 楓花

うん、やったよー!

にっこにこして挑発してくる彼女に 思わず口角が上がる。 もう、勝負なんかどうでもよかった。

及川 徹

ふうちゃん……覚悟してね!

俺も手ですくった海水を一気にぶっかけた。

秋保 楓花

きゃあっ、つめたっ!

子どもみたいに水をかけ合って 笑い合って、 時間を忘れるくらいはしゃいだ。

気づけば、二人ともびしょびしょで、 息も絶え絶えになりながら 波の中で立ち尽くしてた。

秋保 楓花

……つかれたぁ……

楓花が、ばふっと砂の上に倒れ込んだ。 その動きに誘われるみたいに 俺も横になった。

波音が、夕暮れの空気に溶けていく。 さっきまであんなに賑やかだった浜辺は 人がまばらになって、 俺たちの笑い声の名残だけが 風にさらわれていた。

及川 徹

……砂まみれじゃん、ふうちゃん

秋保 楓花

及川だって、

照りつけていた太陽は すっかりオレンジ色に色を変えて、 西の空を染めながら沈もうとしてる。

沈んでいく夕陽に、僕らは背を向けて 砂の上でそっと、互いの鼓動を感じ合った。

風が優しく吹いて、彼女の髪が頬をかすめる。 波が寄せては返すたび 何か大事なものが確かになっていく気がした。

この夏の夕暮れ、 オレンジ色の呼吸の中で 俺はまた、きみに恋をした。

昼間は賑やかだった浜辺も 今はふたりきり。 どこまでも続く暗い海の向こうに 星がちらちらとまたたいている。

秋保 楓花

今日……いっぱい動いたね

及川 徹

ふうちゃん、疲れてない?

秋保 楓花

ちょっとだけ。でも楽しかった……すごく

俺は、袋から手持ち花火を取り出した。

及川 徹

じゃあ、〆にこれやろう。
夏の最後は、やっぱこれだよね!

パチ、パチ、と小さな火が線香花火に灯る。

その火はまるで、ふたりの時間みたいだった。 儚くて、小さくて、でもあたたかい。

秋保 楓花

……やっぱり花火って、綺麗だね

そう言って彼女が笑った瞬間 火花がふっと強く弾けた。 ぱっと輝いた光に 彼女の笑顔が一瞬だけ浮かび上がる。

この顔、俺だけのものにしたいって思ってしまうのは きっと、贅沢なんかじゃないよね。

及川 徹

……ふうちゃん

秋保 楓花

ん?

火の粉が地面に落ち 最後のひとしずくが夜に溶けていく。

及川 徹

好きだよ。

囁いたその言葉とほとんど同時に、 俺は彼女に、そっと、唇を重ねた。

夜の波音と、花火の残り香。 その一瞬だけ、世界にふたりしかいないみたいだった。

『君が教えてくれた空』

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