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真夏の海、青く広がる空。
──夏休みの、ひとつの奇跡のような日
白い砂を蹴って走る楓花。 久々の外遊びに、頬は少し紅潮していたけど、なによりその笑顔が、まぶしかった。
及川 徹
白い砂浜にポーンと響くボールの音。
秋保 楓花
思わず転びそうになりながらも 必死に腕を伸ばしてレシーブ。
少し逸れたボールを 俺は追いかけてトスし──
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
思い切って飛びついた彼女の手が ボールにかすかに触れる。 ぽとりと砂に落ちたボールを見て ふたりは顔を見合わせた──
及川 徹
秋保 楓花
息を切らしながら笑い合う。 その時間には、試合とはまた違う 素直な喜びがあった。
しばらくふたりは、ゆるくラリーを続けた。 風に吹かれながら、笑って、転んで 汗をぬぐって。
そしてひと休み。砂浜に座って ペットボトルの水を回し飲みする。
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
ビーチバレーのラリーを終えたあと 楓花が砂浜にしゃがみ込んだ。
及川 徹
俺もその隣に膝をついて 興味津々で覗き込んだ。
彼女の指が、さらさらと砂をなぞる。
《ふうか♡おいかわ》
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
笑い合いながら、今度は俺も指を動かす。
2011《夏》
そしてそっと 楓花が書いた「♡」の部分を 自分の指でくるくるなぞる。
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
彼女は小さく目を細めて そんな俺を見つめた。
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
そう言いながら立ち上がった彼女が 唐突に砂を蹴って走り出す。 一直線に──海へ。
及川 徹
秋保 楓花
振り返って笑う彼女が 波打ち際でくるっと回る。 その瞬間、彼女の手から飛んできた冷たい水が、俺の顔を直撃した。
及川 徹
秋保 楓花
にっこにこして挑発してくる彼女に 思わず口角が上がる。 もう、勝負なんかどうでもよかった。
及川 徹
俺も手ですくった海水を一気にぶっかけた。
秋保 楓花
子どもみたいに水をかけ合って 笑い合って、 時間を忘れるくらいはしゃいだ。
気づけば、二人ともびしょびしょで、 息も絶え絶えになりながら 波の中で立ち尽くしてた。
秋保 楓花
楓花が、ばふっと砂の上に倒れ込んだ。 その動きに誘われるみたいに 俺も横になった。
波音が、夕暮れの空気に溶けていく。 さっきまであんなに賑やかだった浜辺は 人がまばらになって、 俺たちの笑い声の名残だけが 風にさらわれていた。
及川 徹
秋保 楓花
照りつけていた太陽は すっかりオレンジ色に色を変えて、 西の空を染めながら沈もうとしてる。
沈んでいく夕陽に、僕らは背を向けて 砂の上でそっと、互いの鼓動を感じ合った。
風が優しく吹いて、彼女の髪が頬をかすめる。 波が寄せては返すたび 何か大事なものが確かになっていく気がした。
この夏の夕暮れ、 オレンジ色の呼吸の中で 俺はまた、きみに恋をした。
昼間は賑やかだった浜辺も 今はふたりきり。 どこまでも続く暗い海の向こうに 星がちらちらとまたたいている。
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
俺は、袋から手持ち花火を取り出した。
及川 徹
パチ、パチ、と小さな火が線香花火に灯る。
その火はまるで、ふたりの時間みたいだった。 儚くて、小さくて、でもあたたかい。
秋保 楓花
そう言って彼女が笑った瞬間 火花がふっと強く弾けた。 ぱっと輝いた光に 彼女の笑顔が一瞬だけ浮かび上がる。
この顔、俺だけのものにしたいって思ってしまうのは きっと、贅沢なんかじゃないよね。
及川 徹
秋保 楓花
火の粉が地面に落ち 最後のひとしずくが夜に溶けていく。
及川 徹
囁いたその言葉とほとんど同時に、 俺は彼女に、そっと、唇を重ねた。
夜の波音と、花火の残り香。 その一瞬だけ、世界にふたりしかいないみたいだった。