ルティの前に出る。
無造作に手をかざし、飛来する弾を弾き返す。
ナタカ
弾かれた魔力の礫がナタカを襲う。
傷口を押さえてこちらを見るその顔は、先刻とは違う、驚きの表情を浮かべていた。
???
声が、響いた。
言葉を発したのは自分の身体。
ただ、身体を操る意識は、違う何かのものだった。
ルティ
ルティ
ルティ
ルティの慌てた声が聞こえる。
身体はルティを無視して、足を踏み出す。
ナタカ
ナタカ
ナタカ
ナタカ
ナタカ
ナタカの言葉に合わせ、空からワイバーンが降り立った。
予備の戦力として温存していたらしい。
???
無造作に腕を振るうと、漆黒の光が瞬いた。
一振りだった。
空から強襲したワイバーンの群れが、一瞬で蒸発した。
ナタカ
ナタカ
ナタカ
ナタカ
???
???
ナタカ
ナタカ
それは、目くらましの魔法だった。
視界が闇に覆われるが、駆ける足音だけは聞こえていた。
???
短い悲鳴が聞こえ、鉄の匂いが鼻についた。
暗闇が消えるとそこには、奇妙なオブジェが生まれていた。
ナタカ
ナタカ
胴の中心に岩を刺し、赤い何かを流している、修道服を纏った何か。
ナタカ
それは力を失い、物言わぬ骸に成り果てた。
魔力の鳴動が止まる。
最悪の事態のひとつは、避けられた。
ただ、別の問題が、残っていた。
ルティ
ルティに呼び止められ、振り返る。
身体を動かしているのは、魔王の魂。
ルティもそれを理解している。
理解しているからこそ、敵意を、こちらに向けている。
???
???
???
???
尊大に、威圧的に、魔王は語る。
ルティ
強がって見せたところで、それが虚勢なのは明らかだった。
???
???
???
???
魔王が望むものは、決まっている。
ルティが持つ欠片を手に入れて、完全に復活すること。
それだけは、阻止しなければならない。
ルティ
震えながら、泣きそうになりながら、ルティは声を出す。
ルティ
ルティ
ルティ
その選択は、違う。
これまでずっと、魔王を封印し続けるために別れを繰り返してきた。
世界のために、犠牲になる事を選んできた。
だから、今回も犠牲にするべきだ。
シークという不完全な魔王を、殺すだけでいい。
ルティ
ルティ
ルティは、泣いていた。
ルティ
ルティ
涙を流しながら、微笑んでいた。
ルティ
ルティ
身勝手だ。
本当に、身勝手でわがままだ。
これまでの繰り返しを、出会いを、別れを、共に笑い、泣いた日々を
こんなところで、終わりにしたくない。
???
魔王はゆっくり、ルティに近づいていく。
その動きを止めることは、できない……。
守護精霊
絶望が溢れた静寂の中で
ただひとつ、小さな影が
魔王の前に立ちふさがる。
それは、ルティの守護精霊。
紅蓮の炎を纏い、ルティを守るように魔王の道を塞ぐ。
???
魔王は、ルティを見据える。
そして、なぜか魔王は
その歩みを止めた
???
???
魔王は、そう呟いた
???
言葉の意味が理解できない。
ルティ
魔王の目を通し、ルティの魂が見えた。
真紅の光を纏い、輝く魂がひとつ。
そこに魔王の魂の欠片は
存在していなかった。
???
???
???
魔王は視線を落とす。
守護精霊
紅蓮と漆黒の光を纏った小さな魂が、そこにあった。
守護精霊は答えず、ただ、魔王を見つめている。
???
魔王は空を仰ぐ。
???
???
???
見えるものは、星星の瞬きのみ。
???
器が誰を指すのかは、理解できた。
身体を動かすことができなくても、五感は生きている。
それを、魔王も分かっているのだろう。
???
???
ルティ
ルティ
ルティ
???
ルティが尋ね、魔王が肯定を返す。
ルティ
???
???
???
魔王の言葉に、心に、憎悪の色はなかった。
そこにあったのは、純粋な、世界への慈しみ。
???
???
???
身体の自由が、戻る。
魔王の魂の欠片は、眠りについたのだろう。
頬を伝う涙の意味は、もう、推測することしかできなかった。