コメント
1件
「この国___コルティアの歴史を知っているか。ムガ」
「いやー 知らねぇー」
「なら座れ。学べ。 学の無い者に侍は務まらん」
「侍? ミヨは侍なのか?」
「侍だ。 人では無く国に遣える侍だ」
「かっけぇ! 俺も侍になる!」
「ならば学べ、コルティアの歴史。 怒(いか)れ、コルティアの政治体制に」
「世界を獲る、とも言われている、武力 知力ともに最も恵まれた国が有る。 名を、ダルティア」
「ダルティア?」
「そう。 我がコルティアは、かつてダルティアの支配下にあった
お伺いを立てなければ、外出も許され無いがんじがらめの生活
それに反旗を翻し、反乱の後(のち)独立を勝ち取った者達がいた
それがムガ、お前の先祖だ」
「ほえー 俺の先祖すげーんだな」
「ムガの先祖だけじゃない。 地、風、火の家系の者も、反乱の中心人物だ
彼らはダルティアの武器製造能力と科学技術を盗み、改良し独立国家を作った
そして 四聖と言う護衛団として城に住む事になった
独立してからもダルティアの嫌がらせは続いたが、コルティアが成長するに従って
周辺諸国がダルティアに非難の目を向けるようになり、ダルティアは孤立して行った
焦ったダルティアは、コルティアの王にこう交渉した。 __コルティアが我々と同等である事は認める、
だから一切合切 水に流そう。 ………こんなにも虫の良い話があるか?
かつて我らに散々悪政を働いておいて、悪びれもせず…。 同等?コルティアはそんな腐った国より遥かに優れている!
__コルティアを大国たらしめたのは、四聖の存在ゆえだ。 言い換えれば、四聖さえ消えれば容易に無き物に出来ると言う事
ダルティアは我らに取り入り、再び支配下に置く機会を狙っている。 ならば取る選択肢は1つだろう。それなのに
それなのに、 コルティアの王はその条件を受け入れた
支配下に置かれた歴史に目を瞑り、同等に甘んじた! ……戦場に立ち、命が散り行くのを嘆くのは私達だと言うのに…
今の政治体制を、王を、 国の侍として私は許せない」
ミヨ
ムガ
和服がよく似合う、長身で細身の女は可笑しそうに笑った。
ミヨ
ミヨ
ムガ
ムガ
ムガ
ミヨ
ミヨの口元が更に綻(ほころ)んだ。 賢くて容赦無い物言いだが、ミヨはやっぱり笑ってる顔が一番良い。
俺は大きめの咳払いを2つほどかますと、ポケットから銀色に光る指輪を取り出した。
高価な映像玉に使われる材料の、特注物だ。 _それをミヨの左薬指にはめる。
ミヨ
ムガ
ムガ
ミヨ
ムガ
ミヨ
__ミヨは時々、腑抜けた王に改革を主張しに行ってる。
大体門前払いで、また鼻で笑う奴も多いが、それでもミヨの心は折れない。
今日も颯爽と肩で風を切りながら___いや、今日は少し頬を染めながらミヨは城へと歩いて行く。
_____それが生きてるミヨを見た、最後の姿だった。
「でけぇ音がしたなー」
「城の近くの 蛇山の落盤事故か…。あれに巻き込まれたんだ。助からねぇだろうよ」
ムガ
城の近くにそびえる、一部崩れた蛇山を眺める群衆をかき分け、走る。
日も暮れたのに、日課の歴史書を読む時間になったのに、 ミヨがまだ帰って来ない。
ムガ
夕食は俺が奢ると決めていた。 明日から城に住む前途を祝して。ミヨの侍になった記念日として。
なのにミヨが帰って来ない。
蛇山の麓(ふもと)に着いた。
ムガ
巨岩がゴロゴロしてる、不気味なほど静かな麓。
その中程。 1つの巨岩の、下敷きになってるのは____
「地盤が緩んでたんだな。無闇に城なんて行くから…」
「気持ちは分かるけどさ、今の暮らしで良しとしようや。ダルティアともう1回戦う事の方が悲惨だぞ」
「違い無い。理想と現実はいつだって違う物
それを知るには、あの人はちと人生経験が浅すぎたな」
巨岩の下敷きになっているのは
野次馬共の憐れみの目に晒されてる その左手には
ムガ
___数時間前に 俺がはめた指輪。
ムガ
霧我
黒煙を破り、飛沫を撒き散らし霧我が突進して来る。
霧我
霧我
霧我
ガキィン
ガン ギギィン!ガギン! ガキィン
アレン
銛の猛攻を捌きながら、俺は応える。激昂する。
アレン
アレン
霧我
ムガ
コルティア 国王
コルティア国王は白髪を撫でつけながら、小さく首を横に振った。 __王族は皆、生まれた時から髪は雪のように白い。
コルティア 国王
コルティア 国王
ムガ
ムガ
コルティア 国王
ムガ
コルティア 国王
国王が面倒くさそうに眉をひそめ、小さくそう呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。
ムガ
コルティア 国王
国王は慌てた様子で取り繕うが、俺は身を乗り出して遮った。
ムガ
ムガ
その名前を口にした瞬間、国王の顔からサッと血の気が引いた。
__俺もあの日のあの瞬間が思い出されたが、押し戻して続ける。
ムガ
コルティア 国王
俺が「死」と口にした瞬間、国王が突然甲高い声で割り込んだ。
コルティア 国王
ムガ
コルティア 国王
四聖である事も立場も忘れて、俺は国王の襟首を掴んだ。
ムガ
コルティア 国王
国王の額に幾つも汗が浮かぶ。 魚みたいに口をパクパクさせていた国王だったが
コルティア 国王
開き直ったのか唾(つば)を飛ばして喚き始めた。
コルティア 国王
ムガ
コルティア 国王
ムガ
コルティア 国王
気がつけば俺の銛は血に染まっていた。
事切れた国王を前に、俺は思った。
トップがコレだからこの国は腐ってんだ。 ……この国は分厚い霧に覆われてる。
人為的に生み出された霧は、見通しなど効かず国民の思考をも覆ったが
俺は違う。 「霧」の中にも「我」を持って
この国を変える侍になる。
霧我
霧我
アレン
霧我の爪が首に食い込む。
俺は霧我に首根っこを捕まれ、壁に押さえつけられていた。
そして霧我の手には銛と、いつの間に手にしたのか護身用の電撃銃__
バチバチバチィッ
アレン
左肩に銃口が捩じ込まれ、電撃が全身を這う。 左腕の感覚が消えた。
アレン
空いてる右手(剣は弾き飛ばされた)を、首を掴む霧我の手首に添わせ
掴む。 指の隙間から赤い光が零れ小さな球体が踊り出る___
霧我
霧我の手が離れた。 すかさず距離を取り弾き飛ばされた剣を回収する。
アレン
振りかぶる。 何度めかの剣と銛の衝突。
火花。飛沫。波紋。 そして____
アレン
ドォン!
先ほど霧我の拘束から逃れる際に発した極小の球体が、再び霧我にまとわりつき、爆発した。
___時限爆弾だ。
霧我
真横から網スピードで水柱が飛来し、頬を強かに打つ。
アレン
黒煙を鬱陶しそうに払うと、霧我は数本の水柱を生成する。
体勢を立て直すと、剣を構え直し走った。 向かって来る水柱を1つ1つ捌いて行く。
幾重にも重なった水柱の壁の向こうに、霧我がいる。 ___いける!
アレン
霧我
水柱を挟んで、対峙する霧我は
「蠍座」である紫色の液体を ぎらつかせて、アレンを待ち構え___
ザンッ
霧我の背中に、紅の筋。 漆黒の剣を一閃させたのは___
霧我
鴉
最後の水柱が砕けた。
飛沫の向こうには、剣を構えるアレンと
バランスボールほどの大きさの赤い球体___
霧我
霧我
霧我
ミヨ…
俺もミヨみてーな侍に
ド ォ ォ ォ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ ン