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ワインレッドの真実

1 - 鴨野の追想 (鶴鷺鴨)

♥

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2023年08月06日

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グリーンスリーブスが流れるこのバーは、僕が人と会うときに利用する行きつけの場所だ。

マスターにいつものカクテルを頼み、

今日、会う約束を交わした人間を待つ。

コンコンッ

近くのカウンターを叩く音がして顔を上げると、

栗毛の男が微笑みかけていた。

鶴崎さん

こんばんは。お久しぶりですね、鴨野君

鶴崎さん

私です、私

鴨野

あ、お久しぶりです! 鶴崎さん

鴨野

今日はお忙しいなか時間を割いて頂き、
本当にありがとうございます!

鶴崎さん

いいんですよ

鶴崎さん

これでも、同じ文化部だった仲じゃありませんか

鴨野

ふふ、そういえば、そうでしたね

鴨野

では、その言葉に甘えて

鴨野

それにしても文化部か〜
懐かしいなぁ……

鴨野

はちゃめちゃし過ぎたせいで、
後輩なしの部活になってしまいましたがね

鶴崎さん

けれど、
私や弟、優香君、鴨野君の四人で過ごした日々は、
本当に楽しかった

互いに微笑み合い、高校時代の日々に思いを馳せる。

鴨野

そうだ、何か飲みます?
ここのカクテルすごく美味しいんですよ

鶴崎さん

では、鴨野君のおすすめを

鴨野

わかりました
マスター!僕と同じものを一つ

マスターに自分のお気に入りを注文し、隣に座る鶴崎さんをジッと眺めた。

   

栗毛から覗く黒い瞳は、吸い込まれそうなほどの不思議な魅力を持っている。

加えて小細工の凝った腕時計を左腕にはめ、皺一つないスーツを着こなす姿は

人伝に聞いた通り、眉目秀麗の起業家だと実感させられた。

   

鶴崎さん

そういえば

鶴崎さん

貴方こそ、お時間は大丈夫でしたか?

鶴崎さん

貴方の奥さん(優香君)を事故で亡くされたと聞きまして、

鴨野

ああ……

鴨野

ここ最近、終わりが見えてきたところです

鴨野

悲しみより先に書類に追われていたので、あまり実感は湧いていませんが

鶴崎さん

そうでしたか……

鶴崎さん

心中お察しします

鴨野

心配してくださってありがとうございます

鴨野

……そうだ。
この話もこれくらいにして、と

鴨野

そろそろ、本題に入りましょうか

鶴崎さん

うちの愚弟について、ですね

この場に少しの緊張が走る。

愚弟というのは、鶴崎さんの弟である諒のことであり、

僕が学生時代にずっと仲良くしていた親友だ。

鶴崎さん

鴨野さん、“あの日”……貴方とうちの愚弟の会話について

鶴崎さん

覚えている限り、詳しく、教えてください

鴨野

長くなりますよ?

鶴崎さん

構いません

鶴崎さん

そのための有給ですから

鴨野

多少、口調が荒くなってしまっても
許してくださいね?

頷く鶴崎さんと静かに微笑み合う。

芳醇な香りを纏うワインで喉を潤すと、 僕は記憶の糸を手繰り始めた。

   

 “あの日”も今日と同じような時間帯で、

僕の好きなグリーンスリーブスの流れるバーで待ち合わせをしていた。

  

ダン、ダン、ダンッ!

 後ろから大きな足音が聞こえたかと思うと、足音の正体は僕に腕を回し、

耳元で悪役のように喋り始める。

???

よお、久しぶりだな? 覚えてるか?

???

オレだよ。オレオレ、ツルだ

鴨野

……いや、違うな

鴨野

さてはお前……サギだろう?

???

ハ! まさか……

鶴崎諒

カモにバレるとはな?

 声の主と顔を合わせた時、僕たちは堪えていた笑いを一斉に吹き出した。

親友の諒が、昔と変わらない笑顔でそこにいた。

ひとしきり笑い終わると、諒から話しかけてくる。

鶴崎諒

本当に久しぶりだなー鴨野!
10年くらいか?

鴨野

メールでのやりとりも少しだけだったよな

鴨野

あの合図、笑いを堪えるのに大変だったぜ

鶴崎諒

10年ものの熟成ネタはレベルが違うな!

鴨野

こうして僕たちは
黒歴史を刻んでいくのか……

鶴崎諒

それは大丈夫だ!

鶴崎諒

詐欺に引っかからないように、っていう目的があるからいいんだよ!

鴨野

まあ、そういう言い訳もありだな

 諒は笑いながら隣の席に腰を掛ける。

諒は言葉遊びが大好きな奴で、ダジャレを言っては周りの雰囲気を凍らせていた。

そしてちょうどその時期、僕もダジャレにハマっていたことから意気投合し、勢いで自分たちだけの文化部を作ったことが思い出に残っている。

ちなみに、この変な会話も文化部の時に作ったものだ。

鴨野

そうだ、何か飲む?

鶴崎諒

いや、遠慮しとくよ

鶴崎諒

お前とか店に迷惑かけたくないし

鴨野

そういえば、重度のアレルギー体質だったな

鴨野

じゃあ水だけマスターに頼もう

鶴崎諒

悪いな

鶴崎諒

そういや、雰囲気を壊すようで言おうか迷ってたんだけど……

鴨野

どうした?

諒が神妙な面持ちで、こそこそ話をするように顔を近づけてくる。

鶴崎諒

社会の窓、開いてるぜ

鴨野

は、嘘!?

急いでズボンのチャックを確認する。

が、 チャックはきっちりと閉まっていた。

顔を上げると、ニヤニヤと笑いを堪えた諒がジッと僕を見ている。

鴨野

お前、騙したな!

鶴崎諒

ははは!
高校の時散々やられた仕返しだぜ!

諒の肩を小突いて、顔の熱を誤魔化すようにワインを煽った。

鴨野

で、話はなんだ?

鶴崎諒

鶴崎諒

兎野の……優香のことだよ

鶴崎諒

その、大丈夫なのか?

鴨野

そうだな……

鴨野

さっきの会話のおかげで全部ぶっ飛んだな

鶴崎諒

はあ?

鶴崎諒

絶対嘘じゃん!

鴨野

ははは

鴨野

鴨野

事故のことはまあ……整理はついてるよ

鴨野

優香はいなくなって寂しいけど、

鴨野

息子が心の支えになってるから、大丈夫だ

鶴崎諒

そうか……

鶴崎諒

なら、良かったよ

お互いに口をつぐみ、 しばらくバーの音楽を聞く。

この、気を遣われている雰囲気に耐えられなくなって、

切り替えようと手を二回叩いた。

鴨野

さ、この話は一旦おしまい!
次は諒の話にしようじゃないか

鴨野

最近恋人とか出来た?

鶴崎諒

え! 急だな!?

鶴崎諒

まあー、1カ月前くらいに出来たぜ!

鴨野

お、その食いつきっぷり…

鴨野

さては上手くいってるな?

鶴崎諒

えへへへへ…

鶴崎諒

実は結構な

ふにゃりと笑う諒から、幸せオーラが溢れていた。

鴨野

……これは、振る話題間違えたな

鶴崎諒

まあちょっと惚気させろよ!

鶴崎諒

二週間ぐらい前にイヤーカフを貰ったんだ

鶴崎諒

ほら、見てくれよこれ!

諒は右耳にかかる髪を掻き上げ、銀色に輝くそれを見せてくる。

鶴崎諒

俺が耳に穴開けんの怖い! って言ったらさ、これくれたんだよ!

鶴崎諒

嬉し過ぎてな、仕事の合間にトイレに行って
いっつも見てるんだ

鴨野

はーん……
その様子だと、

鴨野

毎日アツアツのメールも送ってんだろ?

鴨野

本当、羨ましい限りだぜ

少しぼやいてみると、ふと、諒の顔が少し曇り、

実は……と言葉を漏らす。

鶴崎諒

俺、同じ会社の白鳥って奴と付き合ってるんだ

鶴崎諒

俺が何かあった時にいつも駆けつけてくれる奴でさ

鶴崎諒

その優しさに惚れた

鶴崎諒

俺から告白した時、白鳥が

鶴崎諒

死んだお父さんの借金があって、代わりに返済してる話をしてくれて

鶴崎諒

諒も一緒に払ってくれないか

鶴崎諒

って頼まれた

鶴崎諒

俺は何度も白鳥に救われてたから、恩返しの意味もあって一緒に払ってたんだ

鶴崎諒

だけど

鶴崎諒

一週間前くらいに突然、

鶴崎諒

『借金は払い終わった。もう良い』

鶴崎諒

っていう連絡だけを残して、
それからはずっと音信不通

鶴崎諒

会社にも来なくなって、
今じゃどうしてるかも分からないんだ

鴨野

(こいつ……騙されてるな)

白鳥の話を聞いた第一印象は、良いものではなかった。

鴨野

(普通、付き合って1ヵ月も経ってない奴に借金の返済を協力させるのか?)

鴨野

(それに……)

鴨野

(今、連絡が繋がらないことも、)

鴨野

(職場にいないのも怪しい)

鴨野

(やっぱりこいつ、騙されてるな)

ただ、恋人の所在を疑いなく 心配する親友に

騙されていると伝えるのも 酷だろうと思い、 あえて言葉を飲み込んだ。

鴨野

(本当に、僕の親友は苗字にサギがついてるくせして、カモみたいな性格だな)

鶴崎諒

まあ、悩んでても仕方がないし

鶴崎諒

この話はこれで終わりにしようぜ!

鶴崎諒

鶴崎諒

そろそろ、
お前が俺を呼んだ理由を聞かせろよ

鴨野

なんだ、忘れてなかったのか

鶴崎諒

当たり前だっての

鶴崎諒

話したそうにしてたのバレバレだぞ!

鶴崎諒

10年の誼を舐めてもらっちゃあ、困るぜ?

鴨野

はは、敵わないな

どうやら親友は、素直さ以外にも観察眼を持っているらしい。

僕はグラスを傾けて、中身を空にする。

鴨野

鴨野

一週間前の、

鴨野

家族三人で買い物に行った時の話だ。

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