【完結】覚醒〜Awakening〜

ざわざわ…

あれが、3位の…

鐵宮えま… まだ17歳であんなジャンプを 跳ぶなんて化け物だな。　

男子よりもダイミックでかつ 安定したジャンプ…末恐ろしいな。

パッ（えまがいつもの顔に戻る）

ワァァァァァァァァ！！

自分に向けられた たくさんの視線を感じる。

テレビが、カメラが、観客が 私の演技を今か今かと待っている。

曲が始まった。

一瞬でバイオリンの小さな音が 盛り上がり大波となって 会場を包み込む。

私は氷を蹴り、 思い切り前へ跳んだ。

シュッ！

カツンッ！

シュッ！

観客席から歓声と拍手が聞こえる。

曲が速いテンポで さらに盛り上がり、 主旋律が 縦横無尽に駆け巡る。

バイオリンの音がビリビリと全身に走って。私は今までの練習をなぞるように一つ一つの工程を的確に終わらせていく。

次はステップ、

その後はダブルルッツと ダブルトウループ。その後は またトリプル（3回転）

苦手な表現を ここで私は前面に 押し出さなければならない。

曲が中間部に入る。

バイオリンの旋律は夜の海のように ゆっくりになり、 メロディは切なげに彷徨う。

低音で地面に響きながらも 弱々しいその音色は、 過去の自分にぴったりだった。

下手くそ

そんなに滑っても 誰もみてくれないよ。

無理無理、選手になるなんて。

言っちゃ悪いけど 貴方には才能がないのよ。

自分の全てを馬鹿にされて、 傷つきながらも、 過去の私は全て自分が悪いんだと 思いながら練習した。

本当にしんどい毎日だった。

砂漠を歩くように、前へ手を伸ばしても伸ばしても下へ下へと 沈んでいくあの日々は。

過去の自分になりきって 私は中間部の盛り上がりに備えた。

切なげに鳴り響くメロディを 聴きながら私は妹への思いを 全身で表現した。

音楽が全体的に小さくなり、 中間部が終わる。

ここからは、 ひたすら盛り上がる場面。

私はクッ、と歯を噛んで 自分の感情を氷にぶちまけた

シュッ！

大人しいのはもう終わりだと 言わんばかりに私は脚を、手をダイナミックに動かして銀盤に牙を剥く。

バイオリンが 叫び声を上げるように 高音で重なり合う。

音楽が途切れて聞こえるほどの拍手が 鳴り、私は右手を上に上げ 最後のポーズをとった。

そして、

次の瞬間。 音の粒が鋭く弾けて 私のフリーに終わりを告げる。

拍手と歓声がなる中、 私は上に向かって 雄叫びをあげた。

たった数分間の私の演技は

あっという間に、それでいて とても充実したものとなった。

全日本フィギュアスケート選手権

最終結果 1位　早乙女かのん 2位　鐵宮えま 3位　瓶塚天乃 ・ ・ ・ 15位　秋風芽依