愛菜
天獄を名乗る武装組織の出現により、世界は再び混迷の時代を迎えることとなる 天獄の目的は人類の絶滅 ただそれだけだ
「……なぁんか、また随分と物騒なことになって来たねぇ?」
『そうね』
「まあ、私はどうだっていいんだけどさー」
『そういうわけにもいかないでしょう? 私たちの仕事なんだし』
「そっかー」
『そうなのよ』
私の名前は、アイリス・ノーラン。今現在、相棒のエナちゃんと通話しながら、現場に向かっているところ。場所は、廃墟の街、旧文明期の遺跡群のひとつ。
「にしても、相変わらずすごい活気だなぁ……」
目の前を通り過ぎて行く人々を眺めながら呟く。今いる場所は東京の中心地に位置する繁華街の一角。時刻は既に夕方に差し掛かろうかという頃合だが、行き交う人の数は昼と比べても大差ないように思えた。
俺はそんな雑踏の中を、特に当てもなくふらりと歩いている。目的は勿論、遊びに来た訳でもない。ただ単に散歩をしていただけだ。
ここ最近になって少しばかり変わったことがあった。
今まで、どんな事件に巻き込まれようとも、絶対に動じなかった男が、たった一つ、心乱された出来事があった。
その男は、自分とはまるで正反対の性格をした男だった。
冷静沈着にして思慮深く、およそ感情というものをほとんど見せず、常に理知的な思考を持つような、そんな人物だと思っていた。少なくとも、彼はそう思っていたし、周囲も同様に感じていただろう。
だが、それは間違いであったらしい。
いや、あるいは最初から間違っていたのか。
ともかく、彼は今まさに目の前で起こった光景を見て、驚愕していた。
彼が見た光景というのは、先程まで一緒に歩いていた女性――水瀬優希の死だった。
彼は、目の前で友人が死んだことに衝撃を受けた。だがそれ以上にショックだったのは……
『あぁ、これでやっと殺せる』
彼の心に渦巻く黒い感情であった。
◆
「……ん?ここは?」
俺は死んだはずじゃなかったか?それにしても妙な場所だ。何も無いし誰もいない。
「おぉ、ようやく来てくれたね」
突然背後から声をかけられ振り返るとそこには神々しい光を放つ男の姿があった。
「誰だよお前!」
