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私の親友、安藤咲夏は死んだ。
それは、まるで教科書の余白に記されたどうでもいい注釈のように、
あっけなく終わった出来事だった。
警察は「事故」だと言った。
夜の帰り道で、足を滑らせて転落した――
それが高橋刑事の口から語られた結論だった。
担任の花守先生は目を赤くして「残念です」とだけ繰り返し、
副担任の一星先生は気まずそうに視線を逸らした。
誰も咲夏の死に疑問を持たない。
まるで彼女の命は、最初からそうなると決まっていたかのように。
でも私は知っている。
咲夏はそんな死に方をするような子じゃなかった。
最後に交わした会話が耳の奥にこびりついて離れない。
『先に行くね』
小さな笑顔と共に残した一言。
それが別れの言葉になるなんて、誰が想像できただろう。
通夜の日、私は彼女の遺影を見つめながら思った。
あの笑顔の裏に、何かを隠していたんじゃないか。
咲夏の死は、偶然の産物じゃない。
誰かが、彼女を――
教室に戻った翌日、私は違和感を覚えた。
ざわめくクラスの中心に立っていたのは、上里壮翼だった。
いつも通りの穏やかな笑顔、冗談を飛ばし、
男女問わず人気を集める完璧な少年。
彼が発する声に、皆が笑い、皆が頷く。
けれど私の目には、その笑顔が奇妙に歪んで見えた。
咲夏の死を知っても、彼の表情は一切変わらない。
涙を流すでもなく、特別に悲しむ様子もない。
ただ、「残念だったな」と軽く口にしただけ。
その言葉の軽さが、私の胸を締めつけた。
壮翼の周りには、神月透羽がいた。
彼は、壮翼の影のように寄り添い、時に笑い、時に頷いている。
あまり目立つタイプじゃなかった透羽が、壮翼の隣に立つと別人のように堂々として見えた。
まるで、王のそばに仕える忠実な騎士のように。
私は窓際の席でノートを開いたふりをしながら、彼らを観察した。
違和感は確信へと変わりつつあった。
咲夏の死後の背後には、何かがある。
壮翼が、あの夜のどこかで咲夏と関わっていた――
そう考えるのは自然だった。
けれど証拠はない。
ただの勘に過ぎない。
誰も私の言葉を信じてはくれないだろう。
だから私は決めた。
自分で探す。
自分で暴く。
そして、自分の手で裁く。
机の上に置かれた咲夏の写真が、私を睨み返している気がした。
「お願い、見つけて」と語りかけるように。
その瞬間、私の中で何かが静かに燃え上がった。
私は、加藤涼奈。
――そしていつか必ず、上里壮翼を殺す。