小春
“運び屋”...?
透
運び屋はその名のとおり依頼されたモノを運ぶ仕事だ
透
まあ俺は完全に裏に染まりたくねーから、タクシー運転手としても働いてるがな
椿
その運ぶモノってやっぱり死体とかなのかしら?
透
死体もそうだし、薬物から凶器まで何でも運んでるぞ
小春
なぁ...どうしてテメェは運び屋なんかになっちまったんだァ?
小春
昔のテメェはそういう犯罪系の職業は嫌ってただろォ?
透
...そうだな、昔はそういうのは全般的に嫌いだったな
椿
どうしてかしら?
透
透
俺の母親が殺されたんだ
椿
殺されたって誰に?
透
...闇金業者にだ
透
俺の家庭は母子家庭だったんだよ
透
だが当時俺は学生だったから、学費と生活費で生活はどんどん貧しくなる一方だった
透
そして母親は闇金に手を出し始めてしまった...
透
そして日に日に返済は滞って、終いにはすぐに返せる額じゃなくなっていった
透
ある時、俺が家に帰ると母親が遺書を残して首を吊って死んでいたんだ
透
最初は悲しみと絶望に苛まれてたが、ふと俺はあることに気が付いた
透
透
それは“遺書の筆圧”だ
透
当時の母親はパートをしていたんだが、クレーム処理などでペンを使うことが多かったんだ
透
そういった書類が家にあったのを見た記憶があってそれを思い出したんだ
透
そうしたら見事に違ったんだ
透
そこで確信した、あの遺書は母親が書いたものじゃないってな
透
それから俺は母親を殺した裏社会の人間に復習すべくこの世界に入ったんだ
透
...まあ、今となっては何とも思ってないけどな
小春
どういうことだ?
透
当時の俺は復讐心からこの世界に入ったが、今はこういう人間にはなりたくないっていう社会勉強をしてるつもりだ
椿
じゃあお母様のことはもうどうでもいいってことなのね
透
そんなことはない
透
俺は母親を死に追い詰めた闇金業者を殺したいほど憎んでいる
透
しかし一方で闇金に手を出した母親も悪いと思っている
透
だから俺はどちらも責める権利はないと考えているんだ
椿
へぇ...大人な考え方ね
椿
なら一つ聞きたいのだけれど...
椿
アナタはどうなの?
椿
アナタはどちらも責める権利なんてないって言うけど元はと言えば元凶はアナタじゃないかしら?
小春
おい、テメェ何言って
透
...確かにな、全ての出来事は俺がいなければ起きなかったことだ
椿
それなら
透
でもな...そんなことを言ったら俺のために働いてくれた母親に申し訳ない
透
だから俺は...自分が母親を殺したっていう罪を一生背負って生きていく
小春
...え...でも...んな...うな
透
ん?何言って
小春
小春
テメェ、例え嘘でもそんなこと言うなって言ってんだよッ‼︎
透
なっ...
小春
テメェの家庭事情は幼馴染のアタシがよく知ってる
小春
俺がいなければ起きなかったことだァ?罪を一生背負って生きていくだァ?
小春
寝言は寝て言えよ...
小春
そんなことをテメェの母親が聞いたら喜ぶと思ってんのか?
椿
聞いたらって...もう死んでるわよ?
小春
黙れ、クソ女
小春
テメェ、本当に申し訳ないって思ってんのなら罪を背負うなんて馬鹿なこと言ってんじゃねーよ
小春
そして自分の存在を否定するな、自分が自分を理解しなくてどうするんだ
小春
テメェは母親殺しの殺人犯ぶってるが、今のテメェは自分殺しの殺人犯だということを覚えとけ
透
....
透
まさか、お前に説教されるとはな...
透
...すまなかった、お前の言うとおりだ
小春
アタシに謝んな、謝罪はテメェの母親にしろ
透
...そうだな、近いうちに墓参りでもしよう
透
透
ん?あれは...お客さんか?
透
悪い、随分長居し過ぎたみたいだ。金は俺が出すからゆっくりしていて大丈夫だからな
透はそう言うと足早に 店を後にした。
椿
....あら、どうしたのかしら?そんな怖い顔して
小春
テメェ...そんなことして楽しいか?
椿
そんなこと?
小春
無自覚かわざとか...いや絶対わざとだな
小春
テメェの目的は知らねーが、さっきみたいに人を追い詰めるのはやめろ
椿
あら、追い詰めてはないわよ?私はただお話をしているだけよ
小春
はぁ...テメェとは一生相容れないわ
椿
私は相性抜群だと思うのだけど?
小春
ほざいてろ
その時、指輪が突如 ピロンと鳴った。
小春
ん?何だ...メール?
小春
小春
クソ...呼び出しだ
椿
呼び出しってレイラちゃんからかしら?
小春
そんなところだ
小春
じゃあ少し行ってくる
アタシは椿を残して 呼び出された場所へと急いだ。