「早く切れよ」
「僕には無理」
「柚月にそんな事させるな」
酔ってんじゃねぇよ、ヘドが出るぜ
くだらねぇ
吉田 響
ハサミを握らせようとする秀平と、首を振って拒む柚月と、割って入ろうとする俺の
動きが止まった。 教室内の視線は吉田に吸い寄せられる。
吉田は頬杖をついたままこちらを一瞥すると、やおら立ち上がった。
秀平
秀平が小さく顎をしゃくる。
信太郎も薄く嗤いながら、吉田の背後に回____
吉田 響
鋭く苛烈な声は、ニヤケ面の信太郎の動きを止め、秀平の顔をひきつらせた。
吉田 響
吉田は上靴を引きずりながら、秀平達に歩み寄る。 __かりそめでも、集団のトップに立っていた人間だ。
再三 柚月にハサミを押し付けていた秀平が、気圧されたように距離を取った。
隔てる物は何も無い。 押し付けられたままのハサミを握りしめる柚月の前に
かつての独裁者が口の端を吊り上げて対峙した。
吉田 響
吉田の手が蛇のように柚月に伸びる。 柚月が目を瞑って身を硬くした___…
山崎 孝太
吉田は柚月を突き飛ばすと
吉田 響
山崎 孝太
吉田 響
ハサミを左の前髪にあてがった。
山崎 孝太
~回想 (第6章)~
左側は兄貴が座るんだ。
オレん家の食卓。 兄貴の好物しか並ばない食卓に、兄貴とオレは並んで座らされた。
左側は兄貴の席だ。 卓の主役はいつだって兄貴だ。
同じ卓に着いてんのに、眼差しも笑顔も褒め言葉も全部兄貴に向けられる。
左側で繰り広げられるのは、糞共の糞みたいな オ ママゴト 現実逃避
オレはあの食卓が嫌いだった。 あの糞みたいな「幸せ家族」ぶりを遮断したかった。
…だからこの前髪はその表れかもしんねぇ。
「吉田」で有る為の、支えなのかもしんねぇ。
山崎 孝太
山崎 孝太
前髪からハサミを引き離そうと、吉田の腕を掴む俺の手は震えている。
力の入れすぎだけで震えてるんじゃ無い。 絞り出した俺の声も震えていた。
吉田 響
ハサミを持ったまま、吉田が初めてこちらを見た。 __こんなに間近で吉田の顔を見たのは初めてだ。よく見えた。
どの角度から見ても隙が無いと思っていた髪は、毛先が少し傷んでいる。 全てを見透かしそうだった目の下に、少しくまが出来ている。
わりと綺麗な曲線を描く睫(まつ)毛には、似つかわしくない水滴が引っかかっている。
微笑を浮かべる吉田の声もまた、震えていた。
吉田 響
吉田 響
山崎 孝太
手が震えるのは、やはり力の入れすぎなんかじゃない。 腕を掴む手は簡単に振りほどかれたんだから。
ハサミが限界まで開かれる。
秀平
秀平
山崎 孝太
悦に入った秀平の叫声と、悲鳴に似た俺の叫声に
「 」
もう1つ別の____柚月の声が重なったのは気のせいだろうか。
西谷 春翔
気がつけば戸口に元カレ先生が立っていた。 騒ぎを聞きつけたのだろうか。
吉田の意識が戸口に向く。 __俺はその隙に再び吉田の腕を掴んだ。
吉田 響
山崎 孝太
吉田が手を振りほどこうと身を捩る。 俺は腕全体に力を込めながら懸命に叫んだ。
元カレ先生の目が すっと細くなる。
信太郎
秀平
秀平達が教室をあとにするのを横目に、元カレ先生は元ヤン(禁句)ぶりを発揮して、あっさりと吉田からハサミをむしり取った。
吉田の全身から力が抜けるのが分かった。 俺も掴んでいた手を放す。
元カレ先生はハサミをポケットに納めると、「ふぅ」と息を吐いた。
西谷 春翔
西谷 春翔
西谷 春翔
山崎 孝太
西谷 春翔
元ヤン間違えた元カレ先生は、にっこり笑いながら出口を指さす。
吉田 響
柚月を連れて出口に向かいかけた背中に、吉田の小さな声がぶつかった。
吉田はその場から1歩たりとも動かず、床を睨み付けている。 長い前髪の隙間から、掠れた声が溢(こぼ)れる。
吉田 響
西谷 春翔
元カレ先生は先程とは違う種類の笑みを浮かべると、優しい声音で吉田に語りかける。
西谷 春翔
西谷 春翔
西谷 春翔
吉田 響
力なく垂れ下がっていた手が拳の形を作った。 項垂れていた首も前を向いた。
吉田は長い前髪の隙間から、怒りに燃える目でこちらを射る。
吉田 響
吉田 響
山崎 孝太
吉田 響
「偽善じゃないです」
俺たちに背を向け、気だるそうに歩を進める吉田の足が止まった。
__チラリと元カレ先生を見る。 特に驚いた風でも無い。俺もそうだ。
気のせいでもなんでもなく、あの時確かに制止の声がした。 ハサミを構える吉田に「やめて」と声を上げていた。
____柚月は優しい人だから。
鳴沢 柚月
吉田 響
吉田は拒絶の意を示しているが、その声は震えている。
何から来る震えなのか、どんな感情が含まれてるのか、俺は知っている。 だから柚月も言葉を重ねる。
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
西谷 春翔
山崎 孝太
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
吉田 響
吉田は肩で大きく息を吐くと、再び歩き出した。
吉田 響
その声はやはり震えている。
窓の外はとうに暗くなっている。
喧騒が消え失せた校内。 吉田 響は机に肩頬を付けて、窓の外を眺めていた。
西谷 春翔
教室の戸が開いても、吉田響は動かなかった。
春翔も特に追い立てたりせず、短い言葉をかけて教室をあとに___
吉田 響
___しようとした所に吉田響の声がぶつかった。 そのままの姿勢で吉田響は続ける。
吉田 響
吉田 響
吉田 響
吉田 響
吉田 響
西谷 春翔
吉田 響
西谷 春翔
吉田 響
西谷 春翔
西谷 春翔
吉田 響
西谷 春翔
ピンポー…ン
山崎 朋美
山崎 朋美
ガチャッ
山崎 朋美
山崎 朋美は来訪者の姿を見て一瞬目を見張った。
__が、すぐに孝太のお客さんだと悟り、玄関ドアを閉めると2階に向かって声を張り上げた。
山崎 朋美
階下からお姉ちゃんの声がする。 こんな時間に珍しい。
「テニスの王●様」に栞を挟むと、俺は窓の外を覗き込んだ。
山崎 孝太
そして次の瞬間 部屋を飛び出していた。
山崎 朋美
お姉ちゃんの問いには答えずに、俺は息を整えて玄関ドアを開けた。
山崎 孝太
山崎 孝太
山川 のぞみ
ようやく手袋無しでも大丈夫な気温になって来た。
そのおかげなのか、はたまた柚月くんの受験が無事終わったからなのか、 バイト後のこの疲労感も どこか心地良い。
コンビニスイーツでも買って帰ろうかな、と思考もどこか浮わつき気味だ。
山川 のぞみ
バイト先の裏口から出て数歩。 ふと視線を感じて振り向く。
山川 のぞみ
山崎 孝太
山川 のぞみ
山崎 孝太
山川 のぞみ
山崎 孝太
山川 のぞみ
何が大丈夫? と思っていると、住宅街が開け公園に出た。
街頭はあるものの 夜の闇の方が勝ってる公園の入り口の柵に
1人の男の子が腰を預けていた。
山崎 孝太
「あんたが柚月のカノジョ?」
男の子は孝太くんを遮って柵から身を離す。
風が吹き長い前髪が乱れた。
私はなぜか体を強張らせていた。
コメント
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次回第7章完結です! しかし皆様覚えているでしょうか、、1章2章で「○.5話」と言う形で番外編を投稿したのを、、 と言うわけで、第7章も次回で完結ですが、番外編を2話!投稿します!! 難しいぜシリアス難しいぜ吉田😳(だから投稿遅くなったんです🙇) 読んでくださりありがとうございました❗