恋を、感情を、教えてください～第1幕～

見えない、聞こえない

何もわからない

どうして？どうして...？

頭を打ったからだ...

頭を打った衝撃で、目が見えなくなった...

どうしよう...

どうしたらいい？

どうしたらいいの...？

誰か──

すうあは悠穂を揺さぶりながら声をかけるが、悠穂からの反応はない

彼は、なんとか落ち着きを取り戻してすうあ達にここまで連れてこられたが、顔色は悪いままだった

悠斗が悠穂の背中をさすると、落ち着いてきたようで、震えが止まってきた

悠穂に声をかけながら背中をさすったり、軽く叩いたりする

耳の聞こえない悠穂に声をかけるなんて...と思うかもしれないが、悠穂は音が“わからないわけではない”

何故悠斗がこの事を知っているのか

それは、悠穂と悠斗は、バンド繋がりの知り合いだったから

悠斗はその時に、悠穂の過去、抱えている事情を知った

悠斗が再び声をかけると、悠穂はゆっくりと手を動かし、悠斗に手話を示した

目が見えていないとは、音がわからないわけではないとは、それは悠穂の過去に遡る

悠穂は、生まれながらに才能があった

絶対音感と、振動で音を判別する能力

普通に生活している分には、後者の才能は必要なかったため、周りはもちろん、悠穂自身すらもわからなかった

が──

10年前、悠穂が5歳の頃

彼の絶対音感に嫉妬した 同級生の母親が彼を車で轢いた

相当スピードが出ていたのか、事故の規模は大きかった

奇跡的に母親は大きな怪我もなく、数日間入院するだけで済んだが...

悠穂は重傷を負い、両耳の聴力の消失、右目の失明をした

残った左目も、完全に無事だったわけではなく、脳に衝撃が加わると神経が途切れて、一時的に視界が途切れる、という状態だった

よって、悠穂は体育に参加しないようにしていた

学校に通うようになり、この症状のことを話すと気味悪がられいじめられ、わざと頭を狙われることが多かった

よって悠穂は、聴覚障害のこと以外は隠して生活するようになった

ようやく信頼できる学校があったが、家庭の事情で転校しなければならなくなってしまい、今の学校に来た

そして、現在に至る──

悠穂はいつの間にか寝てしまっていたようで、目覚めた時間は4時間目の中盤に差し掛かる頃だった

悠穂が保健室から出ようとすると...

『わぁぁぁー！！すうちゃーん！！』

美結の声が聞こえてきた──