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天華家と悪魔。この世界に生まれた人間ならば誰しも伝えられる話。
全ての種族を絶滅させようという空虚な願いの果て、世界を滅ぼさんとした悪魔。 そんな悪意の前に立ち塞がり、見事世界を救ったとされる天使の混血者達。
御伽噺にも似た、空想のようなこの世の歴史。
この世界がこんなにも平和なのは、天華家のおかげ。 これからも市民たちは毎日を過ごしていける。
平和はどこまでも続いていく。だって、天華の方々が守ってくださるから。
だったら、"私達"は誰に守られるのだろうか。
…少し暗い話をしてしまいましたね
じゃあ一つ、天華家の歴史について一部だけ深く語りましょう。
天華と悪魔の戦争を終わらせる決定打を打った、戦乙女の話を。
13XX年。 戦争の最中だった。天華家の中に、歪な彼女が存在したのは。
彼女は天華の娘とは思えないほど、天華の人間からあまりにも外見も中身も異なっていた。
真っ白で血色感のない肌にベージュ色の髪はまるで髪と肌の色が入れ替わった様だった。 左腕にあるのは生まれの時からの不思議な痣。天使の翼とは思えないほどぼろぼろの翼。
そして、彼女を最も異形たらしめるのは…
墨に浸したような真っ黒な瞳だった。
天華家の特徴である黄金の瞳はどこにもなく、ただ果てしない黒に染まっている。 そこに光など差し込まないほど、暗く、深い黒だった。
彼女は表情が硬い人で、笑った姿を見せない人だった。 受け答えも最低限。家族にさえ甘えたことがない。 どのような人が彼女を見ても、その瞳には異様に映るだろう。
それでも周りの環境に恵まれ、愛を十分に注がれて彼女は育った。
彼女には戦場へと向かった6歳上の姉がいた。 幼い頃から異物として扱われた彼女を愛し、守り続けて来た姉。
昔から身体が大きく力も強い彼女。外見もどこか人間離れしていた。 だからこそ、天華家の人間であろうがどことなく周りとは距離を取られてきた。
そんな日々を愛で塗り替えてくれたのは、誰でもない姉と両親だった。 小さな身体で、自分よりか大きい妹を何度も周りから守ってくれた心優しい人。 何処からどう見ても天使の混血者である、天華の人間に相応しい人だった。
でも、そんな姉は戦争に身を捧げることとなった。
悪魔との戦争の最中、天華の人間は成人を果たしたのならば戦場に出なければならない。 愛おしいこの世界を守るために。軍を率いて、人々を守る為に戦うのだ。
姉は物静かな彼女と違い男勝りな部分があった。愛した人を守る為に強くなれる人だった。 だからこそ姉は、自らが戦場に向かう事に抵抗はなかった。
男児は前線へと、女児は戦場の指揮を任されることの多かった天華家。 しかし姉は、自分の力で剣を持ち、傷付けられることを恐れずに前に立った。
出陣の前、彼女は人々に誓った。
「もうこれ以上、長く悲しい戦いを続けたりはしません。」
「この世界と愛する人々の為に、誰かの帰りを待つ寂しい人々の為に!」
「私は、この戦争を集結させる事を誓いましょう。」
「天華の名に懸けて!」
そう言ってぶわりと大きく美しい翼を広げ、彼女の姉は戦に赴いた。
その時まだ16だった彼女は、その男性よりかは少し小さい背中を遠くから眺めていた。 門が閉まるまで、ずっと。
姉の出陣から1年ほど経った頃だったか。 青い空が美しい、晴天の日だった。
姉が致命傷と何ら変わらないほどの傷を受けたと伝えられた。
怪我の内容が書かれた手紙を読んで、彼女の母と父は酷く悲しみ、嘆いていた。 彼女はそんな2人を横目に、虚ろな目で手紙を何度も何度も読み返していた。
何の感情の色にすら染まらなかったその瞳が、もっと深い黒へと変貌する。 暗い目から溢れる怒りが、くしゃりと手紙にシワを作った。
姉は右腕と翼をもがれた。
いつも彼女の手を握ってくれた右手はもうない。 彼女を気高い天華家の血筋だと示す特徴的な美しい翼ももうないのだ。 全て、悪魔に奪われてしまったのだから。
その事実を理解した瞬間、彼女は突如として家を飛び出した。
後ろから両親の制止の声が聞こえようとも、人々の驚きの声が聞こえようとも。 彼女の足は止まることを知らなかった。
彼女は町から消えた。
両親は愛しの娘達がいなくなってしまうと嘆いた。世界の人々は希望を失ったと絶望した。 天華の血を繋ぐものはいなくなったのだろうか、と誰しもが思っていた。
焦燥と不安が木霊する町を、明るい日差しだけが照らしていた。
彼女は一人で戦場へと駆け出した。何も持たずに。 行く途中に落ちていた、惜しくも命を落とした同胞のものだと思われる薙刀を拾った。 ただそれ一つを頼りに、生身で悪魔に襲いかかった。
それからは一方的な蹂躙だった。昂る怒りに体を突き動かされ、悪魔を貫く。 姉に治らぬ傷を与えた悪魔達に、抑えきれぬ殺意をぶつけていった。
それから数時間経っただろうか。草原には転がる沢山の死体。 一人を除いて、誰一人として立っている者はいなかった。
まだ抑えきれない殺意が身を焦がす。その時、途轍も無い悪意が遠くに感じられた。 その気配の元へと、彼女はよたよたと歩き出す。
戦争の激戦区から離れた浜辺。悪魔の中でも上位に当たるだろう化物が月を眺めている。 そこに、鎧も無く、古びた薙刀を持った女が一人。
???
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まるで平凡な男女が交わすような会話は、明らかに敵意が滲み出ていた。 彼女は、目の前にいる男の姿を見据える。
悪魔の王であり恐れられてきた存在は、11歳程の幼い少年の姿をしていた。 しかしその見た目はあまりにも悍ましいものだった。
目、目、目。何処を見ても目が合う。 数え切れない程の目が身体に付いていた。
???
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???
???
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???
感情の読めない瞳を薄っすらと細め、くすりと少年は笑った。
???
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花の装飾が施された美しいドレスは赤い血液によって汚されていた。 しかし、きめ細やかな白い肌には傷一つ見つけられない。
彼女を赤く染め上げたのは、全て悪魔の血だったのだ。
そんな血まみれでも、彼女は見惚れるほどに美しかった。 感情のない黒い瞳が、少年を獲物として捉える。
???
???
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その瞬間、砂を蹴り上げる音がした。
薙刀の刃が少年の目を貫かんとしたその時_..
少年が尋常ではない力で刃を手で握って止めた。
???
???
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長い間睨みつけ合いが続き、お互いに緊張感が走った。
やがて、名の分からぬ悪魔の少年が薙刀の刃をぱっと離し、瞬きの間に後ろに下がった。
???
???
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天華 聖
それから、彼女が見つかったのは翌日の早朝だった。
彼女の姉が両親から聖が街から出ていったことを伝えられ、彼女を探しに痛む体を動かして兵士達に支えられながらも直感を頼りに前線へと出た。
聖の姉
兵士
聖の姉
兵士
兵士
聖の姉
兵士の言っていることは正論だった。怪我をしている以上、前線に出れば悪魔に襲われる。それに跡継ぎがこのまま両方いなくなってしまえば血筋が絶えるだろう。
諦めかけたその時、遠くの方から誰かが自分を呼んでいるような感覚がした。
聖の姉
聖の姉
兵士
聖の姉
兵士
姉がそう叫んだ先にあったのは_..
???
彼女の持つ古びた薙刀に目玉ごと頭を貫かれた悪魔の王と…
天華 聖
悪魔の王の腕に豊満な胸を貫かれた彼女の姿が、そこにあった。
喉奥からひゅ、と悲鳴を噛み殺したような声が漏れ出てくる。 暫く目の前の現実が理解できなかった。
天華 聖
胸を貫かれたからか、ぐらりと彼女は膝から崩れ落ちた。 助けを求めるようにか細い掠れた小さな声で姉を呼ぶ聖の声は、まるで
幼い頃、姉の後ろに隠れてばかりいた頃と変わらなくて
聖の姉
兵士
衝動に駆られ、姉は丸腰にも関わらず悪魔へと殴りかかった。 ほとんど自害と変わらないような行動でしかなかった。が、
彼女が殴った部分から、悪魔の身体は崩れ始めた。
???
そう言い残して悪魔は灰と化して消え去った。
それを見届けた後、姉はすぐに聖を抱きしめた。 どんどんと冷たくなりゆく彼女を、溢れたものをかき集めるように強く抱きしめた。
聖の姉
兵士
天華 聖
天華 聖
天華 聖
ぽつぽつと彼女が零す言葉を聞き逃さないように、うん、うんと相槌をしながら 姉は言葉を聞いた。
天華 聖
天華 聖
天華 聖
天華 聖
天華 聖
聖の姉
それっきりを言い残した彼女から、返事は返ってこなかった。
妹を亡くし、すすり泣く姉の声だけが浜辺に響いていった。
それからの悪魔達は王を亡くしたからか力がどんどんと衰えてゆき、最終的に 聖の姉…天華家が最後の悪魔にとどめを刺した。
これでこの話はお終い。
彼女は姉を想う心を原動力に生まれから持っていた並外れた力を使い、無事悪魔の王を 自分の身と引き換えに撃ち落とす事に成功した。
この世界を救うにあたって、悪魔との戦争で一番活躍した天華家の女性と言っても過言ではない程の人物である、「 天華 聖 」という女性。
彼女の肖像画は、今でも天華家の家でとても丁寧に飾られている。
しかし、そんな世界に希望をもたらしたとされる彼女の存在について知る人間は少数。 本来彼女は歴史上の偉人であるのだが、現在彼女についての文献はほとんど残っていない。 学校の教科書はもちろん、天華家の書斎以外にはほとんど無いだろう。
じゃあなぜ、彼女の存在が上の人間によって隠されているのか。
それは、天華家を唯一蝕む謎の呪いのせいだった。
あの日から、数年後だった。姉が跡継ぎの子どもに恵まれ、幸せな日々を送っていた時。 次女の外見と様子が何処となくおかしかったのだ。
天華家は元々才のある人間が生まれるこの世で最も珍しい天使の混血者の血筋。
しかし、あろうことか4人の子どもたちの中で、次女のみが何の才も持たなかった。 それの他にも、瞳孔の形が明らかにおかしく歪だった。
姉は自分の妹と同じように不思議な子が生まれたものだと思って、 あまり気には止めなかった。…次女があのような事を言い出すまでは。
10歳を超えた頃からずっと「何かが呼んでいる」と言っていた。 最初は独り言の様にぽつりと呟くのみだったが、やがて譫言の様に繰り返す事が増えた。
その異常に気づいてから数年後だっただろうか。次女が成人した日だった。
次女は何も残さずに消えた。
何かに誘い込まれるかのように、ふらふらとどこかに消えていった。 そのことに気付いた聖の姉は焦って捜索の指示を出した。
使える人材や物、行きそうな場所は全てくまなく探させた。 でも、どこにも彼女はいなかった。
結局、彼女が見つかることはなかった。 聖の姉やその子供達がどれだけ尽力しようが、次女の痕跡すら見当たらなかった。
その現象は、余りにも「天華 聖」の生き様と重なっていて。 この現象の原因が分かるまでは世には出せまいと、天華家自らが歴史に蓋をした。 案外、歴史とは簡単に隠れてしまうのだ。
そしてその現象は、その代では終わらなかった。
その代の子供達がやがて大きくなり、息子や娘を産むようになった頃。 必ずその時に生まれた次女は皆、成人後に何かに誘われるように消えていく。
例えその代で男や長女しか産まれなくとも、その子供達が次女を産めば例外なく失踪する。
それは、今も変わらぬことで。
私は、今代の天華三姉妹の次女である。
私の外見も、今までの事例と同じ様に瞳の瞳孔がおかしかった。 それに、特に目立つような才もない。
極めつけには、彼女の痣と似た黒い印のような×が、私の目元にあるのだ。
私の瞳孔は渦のような紋様で、色が瞳の色と似ていてとてもわかりにくいものだった。 そのせいか「目が合わない」とよく言われる。
私の今の身体能力と頭脳は全て自力でここまでに仕上げたものだ。 才能が無い分、その分何度も努力してきた。
努力を積み重ねて、恥なく自分の姉妹達の隣に並べる様にしてきた。 してきた、けれど
きっと数年後、それに意味はなくなるのだろう。
生まれた頃からずっと「可哀想な子」として生きてきた。 天華家の次女として生まれ、才能ある家族に囲まれて。自分だけが努力し続けた。
家柄が家柄だからこそ、沢山の大人の人と話をする事もあった。 その為に「なんて可哀想な子!」なんて思ってもない憐れみを受ける。
そんなことの繰り返しだったから。 もう自分を偽る仮面の被り方も、仮面の磨き方も覚えてしまった。
毎日ずっといないもののように生きてきた。
このままずっと、彼女という過去の自分ではない人間の生き様をなぞって。 そうして私は自分として生きずに人生を終えるのだ。
もうずっと前から諦めていた。
そんな日々を送っていたある日、父からこう言われた。
「お姉ちゃん達とは別の…もっと平凡な高校に転校してみないか?」
父は昔から私の事を気に掛けてくれていた。私が運命から逃れられるよう、策を練っては そのたびに失敗していたが、それでも私自身をちゃんと見てくれる人だった。
私に残された時間はもう少ない。 だからこそ、少し違った高校への転校を提案してくれたのだろう。
そこではきっと、「天華 憂」じゃなく「ただの憂」として過ごせる。 だから、その提案をふたつ返事で承諾した。
雨零 涼
そう言い残し、彼は足早に校門から去って行く。
失敗した。そんな事を何処となく他人事のように考えながらも体は落ち着かなかった。 この高校に来てから初めての人とのコミュニケーション。 クラスの皆は「天華」の二文字から距離を取るようにして私を避けていたから。
天華 憂
彼の表情の変化はあまりにも劇的なものだった。
しかし、驚愕に近しいその表情は「天華」の名ではなく、「私」に向けられたものだ。 つまりは私が話した中で何か失礼な事を言ってしまったのかもしれない。
大人の顔色を伺いながら、相手の好む仮面を選ぶことは得意だった。 だからこそ、相手が気分を損ねた時…それも同学年となると、どうしていいか分からない。
天華 憂
そう考えをまとめ、私も帰路に着こうと顔を上げた時。
まだあまり遠くに入っていなかったのか、彼の背中が見える。
天華 憂
何故かその背中を見た瞬間、あは、と笑う誰かの声が聞こえた。 視界が、揺らぐ。
世界が色ズレを起こしたように赤と青と緑が入り混じって視界がぐちゃぐちゃになる。 自分の心の中が困惑と嫌悪がぐるぐると掻き混ぜられてどろどろになって私の中からドロけ出してゆく。視界の端がぱちぱちと白く弾けて気持ち悪い?気持ちいい?わかんない!
ゆらゆら、ゆらゆらと揺れた視界がピントが合ったみたいに固まって。 彼の背中がを見つめ直す。
そのときでした。
みつけた、と自分じゃない誰かが頭の中で呟いた