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実弥視点— ミオ。 あいつが十三で入隊してきた時、 行く宛がねェって言うから俺が引き取った。 家族を失った悲しみも、 帰る場所がねェ心細さも、 俺は嫌というほど知ってる。だから、 俺が引き取ったからには、このガキを一人前に育てるのが俺の責任だと思った。
血は繋がってねェ。だが、俺は あいつを我が子同然に思ってた。 任務から戻りゃあ、あいつの好みに 合わせて飯を作った。 あいつが稽古で汚した隊服を、 夜中に俺が洗った。 屋敷の掃除だって、あいつが少しでも 気持ちよく過ごせるようにと 全部俺がやった。 あいつはまだ子供で、生意気で、やんちゃで、 人の言うことなんてこれっぽっちも 聞きゃしねェ。……だが、それでも 可愛かったんだ。
「風の呼吸」を教える時だってそうだ。 俺の稽古は本来「地獄」だ。 だが、ミオだけには壊れてほしくなくて、 あいつの体格や癖を見極めて、 優しく、丁寧に教えてきた「つもり」だった。
あいつが笑って、あいつが飯を食って、 あいつが生き残ってくれれば、 それでいい。 そう思って、俺は俺の全部を あいつに注ぎ込んでいた。
だが。 あの日の稽古場。 泥だらけになって、隊士たちの前で喚き散らすミオを見た瞬間、俺の中で何かが「プツン」と音を立てて切れた。
『……恩着せがましいんだよしね!!!!』 ……そうか。 俺が夜なべして作った飯も、洗い物も、 あいつの将来を想って考えてきた稽古も。 ミオにとっては全部「恩着せがましい」 ゴミクズだったんだな。
俺が、あいつの幸せを願って 積み上げてきた日々は、あいつに「死ね」 と願われるほどの苦痛でしかなかったんだ。 その瞬間、俺の中の「親」 としての感情は死んだ。 あいつのために飯を作る手も、 あいつを叱る声も、あいつの成長を喜ぶ心も、 全部が急速に冷えて、消えていった。
「――そうかよ、よく分かった」
あの日、俺が言った言葉に嘘はねェ。 俺はあいつに絶望したんじゃねェ。 あいつに、俺の「心」 を捧げるのをやめただけだ。 死ねと願うほど俺を嫌ってる奴に、 これ以上俺の人生を分け与える必要はねェ。 あいつが望んだ通り、 俺はあいつの人生に関わるのをやめる。
……それから四年間。 あいつは必死に謝ってきたし、 一人で柱にまで登り詰めた。 大したもんだよ。流石は俺が育てた…… いや、「俺の屋敷に居た」ガキだ。 だがな、ミオ。 一度死んだ心は、謝られたくらいじゃ 生き返らねェんだよ。 俺はもう、お前に注ぐ愛情なんて、 一滴も残ってねェんだ。