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君を誰にも渡さない

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君を誰にも渡さない

14 - 話し合い

♥

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2020年09月28日

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稜太の部屋のインターホンを押した。

出てきたのは、莉緒だった。

この時間には、彼女の他に誰もいないことを、私は知っていた。

稜太とそのお母さんは、どちらも仕事に行っている。

私は莉緒と話をつけるために、ここへ来たのだ。

訪問者の顔を見た莉緒は、嫌そうだった。

菜穂

話があるの。入れて

彼女の反応に構うことなく、私は強引に部屋へ入った。

座卓を挟んで、向かい合わせに座る。

私の迫力に圧されたのか、莉緒は不安そうにぬいぐるみを抱いていた。

菜穂

まずはっきりさせておきたいんだけど

菜穂

莉緒ちゃんは、どういうつもりでここへ来たの?

莉緒

ただ稜太に会いにきただけだよ

菜穂

でも、もう別れてるんでしょ?

莉緒

……別れてないよ

菜穂

嘘つかないで

菜穂

稜太は別れたって言ってたよ

莉緒

……だけど

莉緒

稜太は莉緒のものなの

莉緒

小さい時からずっとそうだもん

菜穂

それは、莉緒ちゃんの勝手な気持ちでしょ?

菜穂

稜太の気持ちは考えたことあるの?

莉緒

そんなの決まってるよ

莉緒

稜太は莉緒のことが大好きなの

菜穂

(……全然話にならない)

私は溜息をついた。

菜穂

あのね、稜太が今一番好きなのは、私なの

莉緒

そんなの嘘だよ

莉緒

稜太はずっと私のことが好きなの

莉緒

勝手なこと言わないで

菜穂

勝手なのはそっちでしょ?

菜穂

稜太ははっきり言えないから、私が代わりに言うけど

菜穂

莉緒ちゃんのこと、稜太はもう何とも思ってないの

菜穂

別れたのに追いかけて来られて困ってるの

菜穂

迷惑なの!

私は思わずそう怒鳴った。

莉緒

……迷惑?

莉緒

……それは、莉緒を嫌いってこと?

莉緒は小さな声で呟いた。

菜穂

(嫌いとは聞いてないけど、ここで引いたら来た意味ない……!)

菜穂

……そうだよ

私はとっさに嘘をついた。

莉緒

……嫌いって、稜太が言ったの?

菜穂

言ってたよ

莉緒は抱えているぬいぐるみを握りしめた。

莉緒

……嘘

菜穂

え?

莉緒

そんなの嘘だよ……!

莉緒

莉緒、信じない……!

莉緒は泣き出した。

菜穂

(……泣かせちゃった)

菜穂

(それに……思わず嘘ついちゃった)

莉緒は泣き止まない。

菜穂

あの、大丈夫?

莉緒は何も答えない。

菜穂

(どうすれば、いいんだろう……?)

すると、莉緒はおもむろに、ぬいぐるみを離して立ち上がった。

菜穂

どうしたの?

莉緒はフラフラと歩きだした。

菜穂

どこ行くの?

莉緒はトイレのドアを開けて、中に入った。

菜穂

(何だ、トイレか)

私はホッと息をついた。

それから、30分が経った。

莉緒はトイレから出てこない。

菜穂

(もう夜になりそう)

菜穂

(そろそろ帰らないと)

私はトイレの方を見た。

菜穂

(どうして出てこないんだろう……?)

部屋は静かだった。

時計の針の音だけが聞こえる。

菜穂

(何か変だよね。遅すぎる……!)

急激に不安に襲われた私は、トイレの前へ行った。

菜穂

莉緒ちゃん?

私はドアを叩いた。

菜穂

どうしたの?

菜穂

大丈夫?

返事はおろか、何の物音もしない。

私はドアノブを回した。

カギはかかっていなかった。

ゆっくりとドアが開いた。

菜穂

莉緒ちゃん……?

莉緒は、目を閉じて床に座っていた。

そのそばに、手首に巻いていたサポーターが脱ぎ捨てられている。

菜穂

私はゾッとした。

莉緒は右手に血の付いたカミソリを握っていたからだ。

そして、左腕を便器の水に浸けていた。

その水は、赤く染まっていた。

よく見ると、莉緒の顔は青白かった。

私は驚きすぎて、声も出なかった。

ただ呆然と、その光景を眺めていた。

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